本ブログは日本人に刷り込まれた中国への対抗心や敵視を古代の倭国に遡って指摘してきた。さらに米英の支配層が明治期から先の大戦中にかけて「日本人は朝鮮を蔑視し、中国、ロシア、アジア諸国に対して優越感を抱き、米英をはじめ西洋諸国と対等に扱われたいとの強い願望を抱いている」と見抜き、これが日英同盟や戦後の対日政策の根幹に据えられて日本を操っていることを繰り返し強調してきた。これを心に刻めば、NY、ワシントン、ロンドンに駐在する日本人記者は米英メディアの中国関連記事をそのまま日本へ転電するのにブレーキをかけて当然である。ところがほとんどの記者がそのような問題意識を持つことなく、西側主流メディアに中国批判記事を見い出せば、まるで自動翻訳機の如くそのまま日本語に転換して垂れ流している。北京発の記事はさらに酷い。まさに思考停止状態で、西側のメディアと同じく日々とり憑かれたかのように現代中国を「邪悪な帝国」と描き続けている。
◆噴飯ものの共同電
「中国、始皇帝ドラマが物議 『暴君礼賛』に懸念の声」1月18日付の共同通信記事の見出しである。
「中国で秦の始皇帝を扱った国営中央テレビのドラマ『大秦賦』が物議を醸している」と書き出し、秦の始皇帝を習近平指導部になぞらえた。物議を醸しているのは会員制交流サイト(SNS)においてという。記事は「SNSでは激しい言論弾圧を行い圧政を敷いた『暴君の礼賛』『歴史の美化』との声も。習近平指導部による集権を正当化する狙いではないかと懸念する人もいる」と書いている。
SNSでは様々な意見が大量に飛び交う。この記事はその中の「『大秦賦』は『暴政賛美だ』との主張」に飛びつき、習近平指導部の批判に結び付けている。当然ながら、現代中国の体制にも様々な問題が見て取れる。しかし、NHK「大河ドラマ」に匹敵する昨年末公開の中国国営中央テレビのドラマを引き合いに出してまで体制を”批判”するのはどういうことか。「毛沢東の文化大革命を賛美する習近平は焚書坑儒の始皇帝と相通じる」と難癖をつけそうな産経新聞はこの記事をすぐさま掲載した。
始皇帝関連ドラマは三国志関連ドラマと並び中国時代劇の双璧である。NHK「大河ドラマ」が戦国ドラマ(信長、秀吉)と幕末ドラマ(竜馬、西郷)を二本柱にして繰り返し放映するのと同じことだ。近代民主制以前の専制君主政治と暴政はイコールである。秦を特別扱いするのはほとんど意味がない。韓国や中国のメディアが「大河ドラマ」での秀吉の朝鮮出兵や藩閥政府の台湾出兵、江華島事件の描写に逐一目くじらを立てているだろうか。
何かにつけて無意識にも「中国=悪」のレッテルを貼る。日本の中国報道のレベルはここまで落ちた。もはや噴飯ものである。
◆西側報道のコピー
昨今の米欧メディアの「特色ある中国報道」ぶりの要点を以下に記す。
「まず経済関係では、中国企業が知的財産権を侵害してきたことへの不満を噴出させている。また中国政府が国営企業に補助金を付与するのは市場原理に違背すると批判している。こうして「異質な」中国企業は巨大化して、西側の企業を活発に買収し、先端技術の大量流出に拍車がかかったと断じる。
潤沢となった中国マネーは「一帯一路」構想を推進させ、アジア、アフリカ、中南米の途上国ばかりか中東欧諸国でもインフラ事業で長期貸借させて「債務の罠」に陥れていると非難。欧州でもイタリア、ギリシャなどを抱き込もうとしており、中国はさらに身近な脅威となったと煽る。
そして南シナ海、東シナ海の現状を変更して内海化、香港や新疆ウイグル自治区では人権侵害を行い、発生源が中国・雲南省の山中に生息するコウモリであるのに新型コロナウイルスの感染拡大当初から情報隠蔽に動いたと非難している。」
日本の中国報道はこのコピーの域を出ていない。
◆西側の「悪賢さ」
1978年の改革開放路線への大転換以降、中国側の要請を受け米欧日の企業は知的財産を一定程度中国側に提供するのを条件に自分たちは世界の工場となった中国からとてつもない膨大な利益を数十年にわたって得てきた。甘い汁を吸い続けたことは決して口に出さない。
2010年にシェア18%と米国を抜き世界最大の製造業国となった中国に各国企業は過剰なまでに生産拠点を設けた。サプライチェーンの3~4割を中国産で占める企業は少なくない。ここまで経済的に中国依存を深めればデカップリングは当面現実味はない。その方向に進むとしても時間がかかるため、利用できる間は中国を使い続けることになろう。
日本の中国に進出した大手企業の現地法人幹部にも書籍などで「詐欺的な契約、でたらめな規制によって中国にむしり取られてきた」と中国をこき下ろし”告発”する向きが目立つ。だが「中国は儲からない」と不平を漏らす日系企業が中国から撤収する気配はない。
西側メディアはしばしば「経済発展すればやがて自由で民主的な中国が出現すると期待した」と論じたが、それが本心だったとは到底思えない。進出企業はギリギリまで共産党率いる中国を使い尽くしたいのが本音で、もはやこれまでとみて脱中国とともに共産中国の体制転換へと動きたいのが実情であろう。
ここで詳述は避けるが、香港の民主化運動やウィグルの独立運動には半ば公然と米英の政府や諜報機関の姿が見て取れる。これを体制転換の企てとして封じる中国当局の動きを人権弾圧とのみ批判するのは片手落ちである。
【写真】香港民主化運動リーダーだった黄之鋒氏ら香港衆志(デモシスト、Demosisto)」党のメンバーらと面会している在香港米総領事館の政務担当職員ジュリー・イーデー氏。(2019年8月、肩書は当時)
歴史的に中国嫌悪を刷り込まれ大勢順応な日本のメディアにつける薬はなさそうだ。一方、チャイナフォビアを煽り続ける西側メディアはもっと「悪賢い」。