米国の「影の政府」による専制主義復活と「近代民主主義社会」の形骸化 

注:本稿は2023年11月15日掲載記事「「影の政府」考1:剝げ落ちる「近代民主主義社会」というメッキ  | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)を全面差替えしたものです。

世界は現在、間違いなく数百年に一度の大転換期を向かえつつある。極々大雑把に言えば、中国をはじめBRICSと呼ばれる新興国の台頭に象徴されるように、かつての米欧日の植民地主義国家が凋落し、第二次世界大戦後独立し、途上国とされてきた旧植民地諸国が経済成長して新興国となり、新旧勢力の力関係が逆転しつつあるからだ。15世紀大航海時代から20世紀半ばまでポルトガル、スペインを皮切りに、オランダ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、ベルギーの西欧諸国、そして米国、日本が争って新大陸、アジア、アフリカを植民地とし、収奪と暴虐の限りを尽くした。現在進行中のウクライナ戦争とパレスチナ・ガザ紛争は、追い詰められた旧勢力が形勢逆転を狙って新興勢力に反撃しているとみることもできる。「影の政府」とは、旧勢力の米欧政府を背後で操る舞台裏の統治機構である。ユダヤ系金融資本と米英アングロサクソン寡占資本がその中核をなす。彼らの専制統治は「近代民主主義社会」を形骸化した。

「影の政府」は、20世紀初頭、民主的手続きを経て成立した政府を私物化するため米国で生まれた。ロシア革命の衝撃により、ニューヨーク(NY)ウオール街の金融資本を核に米英寡占資本が団結し、政府を背後から支配して市民社会における社会主義革命運動の高揚とその国際連帯を阻止しようとした。マルクス主義者主導の革命運動では「労働者階級が生産手段と富を独占する資本家階級・ブルジョワジー支配を終焉させ、止揚された至高の近代民主主義社会を作る」とのユートピア主義が唱えられた。さらにロシア旧ソ連)と共産中国は第二次大戦後、現在グローバルサウスと呼ばれる旧植民地国の米欧帝国主義からの解放を手助けし、独立した世界人口の過半を占めるアジア・アフリカ29か国は1955年バンドン会議に結集した。米欧寡占資本は社会主義運動とその基盤となる労働者や市民の運動を憎悪し、これを支援する中露(ソ)への敵視はいやがうえにも増幅した

米多国籍資本に不利な政権が途上国に生まれると当該国の軍部を動かしクーデターで潰してきた。「影の政府」の最大の破壊工作実行部隊が米中央情報局(CIA)であり、1980年代から表の政府で公然と動いているのがネオコン(新保守主義者)だ。ともに出自は資本主義の総本山ニューヨークであり、同根とみて差し支えない。彼らにとって「自由、人権、民主主義」は敵を駆逐するための標語にすぎず、その内実は限りなく専制主義に近い。ネオコンの既存の国際ルールを否定する暴力論については2022年4月掲載の「「エリート指導の武力行使で世界を変える」 ネオコンの狂気と新左翼の革命論 | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)」で論じた。

東西冷戦が終焉、ソ連邦が崩壊すると、ドイツをはじめ西欧諸国の高度な福祉政策は大幅に見直された。寡占資本が恐怖した西欧の社会主義化、ソ連圏参入が免れた結果だ。彼らは表の政府を動かし、社会主義的政策を潰しにかかった。社会民主主義を掲げるシュレーダーSPD独政権が2003年に打ち出した改革プロジェクト『アゲンダ2010』は新自由主義的な経済のグローバル化成長戦略を促進した。ソ連崩壊と社会主義の挫折により、世界は弱肉強食の新自由主義(ネオリベ)、市場万能主義に席捲されてきた。

ウオール街を動かしてきたのはユダヤ系金融資本家、そして米国政治を動かしているのがユダヤ・ロビーである。彼らは当初、ロシアにおける革命運動を支援した。ロシアに住むユダヤ人が帝政ロシアの反ユダヤ主義政策で抑圧、虐げられている中、ユダヤ人過激派の暴力テロは同じユダヤ系の革命家レーニンやトロツキーらの革命運動と同調したからだ。ただし、シオニズム運動によりイスラエルを建国しようとしていたユダヤ人金融資本家の狙いは広大なロシアにある潤沢な資源の支配にあった。

「影の政府」の祖とみられているのが、ウオール街最強といわれた金融資本家バーナード・バルーク(1870-1965)である。ドイツ系ユダヤ移民のバルークは、ウイルソン大統領からフランクリン・ルーズベルト大統領までの、第一次世界大戦、ベルサイユ講和、第二次世界大戦にかけて「影の大統領」として活動した。第一次世界大戦中は連合国の戦時物資調達を事実上一手に差配したという。バルークらウオール街の政商たちが1912年の大統領選で現職のタフト大統領を見限り、ウイルソンを擁立したのはタフトが上記ロシアにおける革命運動やユダヤ人がニコライ二世の抑圧政策へ反旗を翻していることに無関心だったためである。

ウイルソン大統領は、後ろ盾だったユダヤロビーの猛烈な圧力を受け、米国を第一次世界大戦に参戦させた。参戦の名目は表向き、ドイツの無制限潜水艦作戦による米民間船舶被害が挙げられているが、実際は、英国を勝利させ貸し付けた多額の債権を回収することにあった。英国が枢軸国オスマン・トルコの支配下にあったパレスチナにユダヤ人国家の樹立を約束していたこともあり、米ユダヤ金融資本家たちはなおさら英国支援に傾斜していた。

ユダヤ金融資本に牛耳られた米国にとってイスラエル問題は国内問題である。歴代米政権の異様なまでのイスラエル擁護は米国の「影の政府」の中核であるユダヤ系金融資本とユダヤロビーの力がいかに強力であるかを示している。換言すれば、ユダヤとアングロサクソンの寡占資本に乗っ取られ、建国精神であるアメリカンデモクラシーを喪失しつつあるのが今日の米国政治の実情と言える。