「日本人よ今度は米国のために死ね」と米対日司令塔 いつ日本人は安保破棄へと動くのか

対日司令塔と呼ばれる米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)は岸田首相訪米直前の1月9日に中国軍の台湾侵攻に絡み「在日米軍基地や自衛隊が標的となり多大な損害が出る」との机上演習結果を公表した。戦争の勝敗シミュレーション結果はさておき、問題は、米兵はもとより、「自衛隊の全戦力が中国ミサイルの射程に入るため、数千人の隊員が命を落とす」とされている点だ。当然、首都圏だけをみても人口密集する横田、厚木、横須賀、入間、百里など米軍・自衛隊基地周辺住民にも多大な被害が出る。沖縄はさらに悲惨となる。CSISは2000年から2020年まで5次にわたり対日勧告書・アーミテージ報告書を日本政府に突きつけ、しゃにむに”解釈改憲”して自衛隊の集団的自衛権行使を容認させ、自衛隊を米軍の指揮下に組み入れた。そして「日本人よ今度は米国のために死ね」と言うに等しい机上演習結果の公表である。いつ日本人は街頭に出て怒りの声を上げ、対日司令塔・CSISと日米安保体制に三下り半を突きつけるのか。

日本が降伏した1945年8月15日。あるいは日本国憲法が施行された1947年5月3日。この時、再び軍事大国化し、中国との戦争の最前線に立つ今日の日本の姿を想像できた人はいなかったはず。大半の人が非武装・不戦を誓う憲法9条に基づく平和国家の恒久化を願った。しかし、日本国憲法草案作成に携わったGHQ民生局の社会民主主義的な思想を持ったニューディーラーたちが事実上追放され米国に帰国した1949年までに米国の「日本を非武装不戦の国家にする」方針は転換されていた。

日本を事実上単独占領した米国の対日政策は「ドイツとともに日本を再び脅威としない」が大原則であり、それは今日も変らない。1950年6月朝鮮戦争勃発に伴う自衛隊の前身警察予備隊発足の2年以上も前から日本再軍備が検討されていた。1949年3月に米国防総省 は「日本の限定的再軍備」と題する文書を作成、大統領直属の国家安全保障会議NSC)に提出され、日本再軍備は米国政府中枢での検討課題となる。

1951年にサンフランシスコ講和条約締結と同日に日米安全保障条約と地位協定が締結された。安保条約締結と米軍日本駐留は防共と天皇制(国体)維持を目的に昭和天皇がジョン・ダレス国務長官に極秘に強く要請した経緯から、日米安保体制が日本の新たな国体となった。

この新たな国家体制の下、米国は必要に応じて日本の潜在力を活用しようとしてきた。1960年から1990年代半ばまでは日本が驚異的な経済復興と経済大国化を遂げる一方、相対的に米国の力が衰退した。これに伴い、日本の米国に対する軍事的な「責任分担」の重さは激変した。

日米安保条約5条が決して日本防衛を保証するものでないことは、本ブログでも再三指摘してきた。米国が守るのは彼らの利益であり、日本の国土と日本人は彼らが利用するものである。米国のソフトパワー外交は冷めた目で検証せねばならない。「日本の国富と国土と国民を対中戦争の最前線に差し出させようとする」今日の米国の対日姿勢は安保条約締結後=ポスト占領政策の帰結である。

高度経済成長期以降の米国の対日政策の動きについては、2022年7月掲載「米政権の豹変と安倍国葬 『血を流せる国』にすると冷遇一転し絶賛」、同12月掲載「米国の日本支配に背を向け敗戦否認する政治報道 報道の自由放棄し戦後史歪曲」をはじめとする一連の論稿に記した。

最も重要なのは、安保条約が日本に対して重く強固な「敗戦の軛」であり続けていることだ。日本を「最も重要な同盟国」と持ち上げている米国の権力中枢の本音は「あくまでも日本は潜在敵国であり、安保条約で縛り、封じ込め、勝手なまねはさせない」にある。ここでは安保条約締結直後のジョン・ダレスの「信用できない日本をどう取り扱って米国は安心を得たか」との回顧を引用するまでもない。

日本では台湾有事を大騒ぎしているが、台湾の人々は米国に決して乗せられていない。日本人よりはずっと冷静に構えている。

遠藤誉氏は「台湾の世論調査結果をみると、台湾人の多くは『米中の覇権争いのために、アメリカが台湾を駒として利用していると認識し、戦争に巻き込まれないためアメリカに近づかない方がいいと思っている』。…戦争を起こして得をするのは誰か?唯一、アメリカだ。この事実を見極め、『命を失うのは日本人なのだ』ということを直視してほしい。第二のウクライナはごめんだ。」と訴えている。正論である。

今回のCSISの机上演習結果は米権力中枢の対日支配の本音、すなわち「太平洋戦争でお前たちは天皇(国体護持)ために命を捧げた。今度はアメリカと新国体護持=日米安保体制のために命を捧げろ」がむき出しになっている。

ランド研究所も2022年に日本列島全体が中国軍の攻撃対象となり、破壊的なミサイル攻撃が行なわれる可能性があると日本に警告した。

「中国は日本軍に対する大掛かりな攻撃を検討し、戦域における米国の最も有能な同盟国の1つ(日本)が機能不全となる可能性がある。このため、地域全体の米軍と同盟軍とその施設を壊滅させる先制攻撃を始めて大規模な戦争に至ることもあり得る」
The Return of Great Power War ――Scenarios of Systemic Conflict Between the United States and China p.135

安保条約破棄を求める大きなうねりが再び沸き起こるのか。日本社会の民度が問われている。