自民党VS社会党という保守・革新2大政党の図式で語られ冷戦終結とともに崩壊した、戦後日本の1955年体制は今や保守2大政党へと収斂している。野党第一党・立憲民主党を支持率で上回った日本維新の会の馬場伸幸代表がこのほど「維新は『第2自民党でいい』『共産党はなくなったらいい』」と発言した。日本の実質統治者米国にとって、反米容共勢力を一掃する親米保守「第2自民党」誕生は究極目標であった。55年体制下では米諜報機関と統一教会がタグを組んで社会党を分裂させ民社党を結成、野党勢力を弱体化して2大政党制は有名無実化。1994年自社さ連立政権発足で社会党は崩壊。その後は自民党内の親中リベラル派を排斥。これに伴い行き過ぎた「安倍1強」を正すため小池百合子の希望の党に民進党(民主党)親米派を合流させようとしたが、小池の「護憲派は排除する」の一言で頓挫。今回は反米右翼が大半の自民党安倍派の解体を図り、ナショナルセンター労組・連合が米CIAと連携して第2自民党を育んだ。
直近の第2自民党結成の動きを説明するには第二次安倍政権(2012-2020)を直撃した2017年7月の都議選惨敗の「深層」をのぞく必要がある。安倍政権の焦りは、16年7月の東京都知事選に自民党を離党して無所属で出馬し圧勝した小池百合子が地域政党「都民ファーストの会」を立ち上げて都議選で「小池旋風」を巻き起こし自民党を“蹴散らした”際に高まった。小池は17年2月には特許庁に国政選挙に向けた新党名「希望の党」を商標登録。衆院解散直前の同年9月25日の結党後は民進党を分断して野党再編し、安倍自民に対抗できる第二保守党を結成しての政権交代へのうねりをにわかに高揚させた。
当時公安畑を長く歩んだ検察OBは「ワシントンは日本でも保守二大政党体制を望んでいる。安倍1強が続けば日本をハンドルするのに不都合な局面が出てくる。強引な九条改憲の動きもその一つ。野党の親米保守の代表格前原誠司率いた民進党を小池新党に合流させようとしたのはそのためだとピンときた」とコメントした。
東京地検や公安調査庁の幹部を歴任した検察官はワシントンと深くつながる。上の見解を言い換えれば、「森友・加計学園問題」といった当時の安倍首相が直接絡んだ一連の政治スキャンダル浮上と小池氏主導の保守新党結成の動きは米国の対日政策を主導する知日派のジャパンハンドラーたちの安倍派への強い警告だったということだ。
2014年から翌年にかけての集団的自衛権容認と新安保法制が成立した時点で、憲法改正をはじめとする米国の対日占領政策を否定、戦前復古志向をにおわせる極右安倍政権は御用済みとなっていた。小池百合子率いる都民ファーストの会、希望の党が出現し、都議会選挙で自民党が”蹴散らされて”、都民ファーストが都議会第一党躍り出たのはワシントンによる露骨な「安倍御用済み」との意思表示とも読める。
小池主導の第2自民党結成が挫折した後も、自民補完勢力とされながらも野党第一党の立憲民主党を上回る世論の支持と選挙結果を得る勢いのあった日本維新の会に白羽の矢が立った。同時にナショナルセンター労組「連合」は岸田自民党にかつてなく接近し、野党第一党・立憲民主党に共産党との選挙協力を絶つよう圧力を加え続けた。この圧力は奏功し、小選挙区制の下、維新を除き、小党分立する野党勢力は政権交代する力を喪失した。共産党は完全孤立を強いられている。
これは共産党が実質的に非合法化されたマッカーシズム後の米国政界を彷彿させる。維新の馬場代表の「破壊活動防止法に基づく調査団体に指定されている共産党は日本からなくなったらいい政党だ」「第1、第2自民党の改革合戦が政治を良くすることにつながる」との発言は、日本を反共保守の砦とする米国の極東政策の完成となる。今日的に言い換えれば、「日本を中国包囲網の中核とし、北大西洋条約機構(NATO)のインド・太平洋地域の拠点とする」冷戦後の米国の東アジア政策と直結する。
国会で維新はすでに「第2自民」的な立場をとっている。憲法審査会では憲法改正に向けて自党党と歩調を合わせている。原子力政策を大転換するGX脱炭素電源法や、健康保険証廃止へつながる改正マイナンバー法、外国人の収容・送還ルールを改める改正入管難民法に賛成。性的少数者(LGBTQ)理解増進法は、維新が与党の対案を受け入れて修正して成立。一方、立民提案の内閣不信任決議案では「会期末になれば不信任案を出す国会の慣例に全く協力する気はない」と反対に回った。馬場会長は「自民は現状維持の保守。維新は改革をしていく保守」と自民党との差別化を強調するが、公明党に代わり、次期総選挙で大幅議席減を避けられない岸田自民党と連立する可能性は否定できない。
問題は野党の連立・提携潰しにエネルギーを注ぎ、維新の会の「躍進」に手を貸しているナショナルセンター労組「連合」の動向だ。初の女性会長として脚光を浴びた吉野
友子 の2021年10月の会長就任以来の言動をみると日本共産党排除への異様なまでの執念が際立つ。会長就任翌日に開いた記者会見で、早速10月末実施の衆院選について言及。立憲民主党が総選挙で政権交代を実現した場合に日本共産党と「限定的な閣外協力を行う」との両党合意に異を唱え、立憲民主と共産党を引き裂いた。共産が掲げる「野党共闘」を「共産主義社会実現のための手段」である統一戦線の形成とし「そのような勢力から『野党共闘』の足を引っ張るなと批判されるゆえんは全くない」と反論。一方で、新しい資本主義を掲げる岸田政権に急接近した。
このような吉野の牢固とした反共主義は連合の旧統一教会、勝共連合との結びつきに源がある。関係者は「芳野の反共思想は富士政治大学で指導された」とみる。連合は社会党系の総評と民社党系の同盟との労働戦線統一により1989年に誕生したが、現在は6産別(電力総連、電機連合、自動車総連、基幹労連(鉄鋼)、JAM(機械・金属)、UIゼンセン(繊維・流通等))を核に旧民社党・同盟系が牛耳る。上記のように民社党はCIAの社会党分裂工作で生まれたもので、その反共思想教育の場が第2代民社党委員長西村栄一が設立した、連合加盟労組の研修場・富士政治大学(富士社会教育センター)である。
その初代理事長が立教大学長から民社党所属参院議員に転じた松下正寿だ。松下は第5代CIA長官アレン・ダレスが根まわしをし、台湾の蒋介石、韓国の李承晩が中心的役割を担い、日本からは児玉誉士夫や笹川良一が駆けつけ、1954年に韓国で創設された「APACL(アジア人民反共連盟)」に関与。APACL東京会合では、日本支部設立を推進した岸信介が大会議長、スイス公使としてCIAの前身OSSスイス支局長アレン・ダラスらと終戦工作に当たった加瀬俊一が事務局長に就任。東条内閣外相の谷正之、石井光次郎、中曽根康弘、椎名悦三郎ら自民党議員、高杉普一(三菱電機会長)、堀越禎一(経団連事務局長)、細川隆元(評論家)、小林中(経団連理事)ら国内35名、米駐日大使ら外国代表86名が出席。 準備委員会には岸のほか、吉田茂元首相、石坂泰三経団連会長、植村甲午郎経団連副会長、足立正日商会頭など日本の政財界トップが名をつらねた。松下はAPACLの中核的役割を担った。
【写真】CSISで講演する安倍首相=当時=をはじめ夫人の安倍昭恵、麻生太郎、前原誠司、橋下徹、加藤勝信ら。対談の相手をしているのがマイケル・グリーン。日本の与党や維新の会リーダーはネオコンやCIA人脈に組み込まれている。ワシントンと絆が最も太いとみられる麻生は岸田首相や小渕優子ら自民党執行部と吉野連合会長との仲を取り持った。
記者会見で富士政治大学との関わりについてただされた吉野は「私がそこで学んだと書かれているが、私はそこで学んでない」「センターがどういう教育をしているのかも分からない」と答えた。仮にセンターで研修を受けていないとしても吉野が骨の髄まで反共思想に染まってしまっているのは間違いない。日本維新の会の創設者橋本徹がしばしば民進党前原誠司らと在日アメリカ大使館に出入りし、ワシントンの対日司令塔とされる米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)に招かれていたことは紛れもない事実だ。
連合・吉野、維新・馬場が、安倍暗殺と歩調を合わせるかのように、岸田・自民党を支える形でほぼ同時期に登場した。米CIAの介入は疑いのないところだ。答えは間違いなく次期総選挙の結果として現れる。
日本を米国による間接統治から解放する主体は主権者たる日本国民である。この「当たり前のこと」が有権者の当為となる日はいつ来るのか。