真珠湾、横田経由で訪日、「ミッドウェーは米史上屈指の戦い」と演説ートランプの対日観 

直近の掲載論考「トランプ銃撃と自民党政権の行方」で「バイデン、トランプ両陣営の対日政策の根幹は党派を超えて「日本に再び牙を剥かせない」にあり、「米支配層が日本の繁栄と独立を支持し日本を守ってくれると考えるのは『妄想』だ」と記した。7月13日に銃撃されるも奇跡的に一命をとりとめたドナルド・トランプ前米大統領は一転してヒーロー扱いされ、民主党の対抗馬が誰になろうと今や「確トラ(当確)」の声が大勢だ。これを受け、ウクライナのゼレンスキー大統領が7月19日に電話で共和党大統領候補指名への祝意を伝えた。トランプはSNSに「次期大統領として戦争を終わらせる」と投稿、早々ウクライナ戦争の和平仲介を始めた。一方、トランプは2017年11月に訪日した際、米大統領として初めて米軍基地(横田)に降り立ち、その対日観を露骨に示した。世界中に900以上ある米軍基地の撤収すら口にしたトランプだが、こと安保条約、地位協定に裏付けられた事実上の米国領である在日米軍基地を堅持し、日本にさらなる駐留経費負担増を求めるのは必至。心の底には決定的な対日不信がうかがえる。

トランプは7月18日、ウィスコンシン州で行った共和党大統領候補指名受諾演説で米国の歴史を振り返り、「アメリカの自由の炎が燃えた戦場」として3か所を挙げた。ヨークタウン、ゲティスバーグ、そしてミッドウェーである。1781年のヨークタウンの戦いアメリカ独立戦争を終結へと導いたもので、バージニア植民地のイギリス軍の最終拠点であったヨークタウンでアメリカ・フランス連合軍が英軍を包囲、降伏させ、植民地軍の勝利が確定した米国建国に向けた記念碑的戦いである。1863年7月のゲティスバーグの戦いはアメリカ南北戦争史上最大の激戦として知られ、戦いを機にアメリカ合衆国とアメリカ連合国に分断された米国はアメリカ合衆国(北軍)が勝利に向かい再統一された。同年10月にリンカーン大統領が「人民の人民による人民のための政治を地上から決して絶滅させないため、ここで固く決意する」と誓ったゲティスバーグ演説はアメリカ合衆国の新たな建国宣言と言え、アメリカ独立宣言、合衆国憲法と並び米国史に特別な地位を占めているのは承知の通りである。

さて問題はミッドウェーである。1942年6月上旬に中部太平洋ミッドウェー島周辺で行われ日米戦争(太平洋戦争)の転換点となったミッドウェー海戦は、米国サイドに立てば真珠湾奇襲に対する報復戦でもあった。この戦闘によって日本側は空母4隻を失うなど壊滅的な被害を被り、制空権と制海権を失った。以降、戦争の主導権は一気に米国サイドに移り、日本帝国は破滅の坂を転がり落ちて1945年8月の敗戦を迎える。第二次世界大戦は米国サイドの「自由世界・米英がナチズム・全体主義と戦った」との観点からは、主敵はナチスドイツであった。したがって戦後いち早く映画化されたのはドイツ軍占領のパリを解放した米軍主導のノルマンディー上陸作戦であり、動員兵士数や作戦の規模からして史上最大の作戦と謳われる。だがナチスドイツ壊滅の主役は独軍のバルバロッサ作戦やスターリングラードの戦いを勝ち抜き、1945年5月にベルリンを陥落させたソ連軍であった。

トランプは3つ目の「自由の炎が燃えた戦場」としてノルマンディでなくミッドウェーを挙げた。南北戦争以降、米国は太平洋を新たなフロンティアとして西進して1898年にはフィリピンを植民地とした。これをユーラシア大陸への橋頭保として中国市場を窺った。モンロー、ロックフェラー、ハリマンをはじめ中国を最重視していた米国政財界は満州権益を巡り対日関係を悪化させていった。トランプにとって、日本の「不正義」は真珠湾奇襲に極まっているようだ。上記のようにミッドウェー海戦は真珠湾奇襲への報復であり、総力を挙げた米海空軍はここで一気に戦況を逆転し、トランプは以降「自由の炎」が西太平洋の戦場、沖縄、日本本土を焼き尽くしたとイメージしているように思える。

トランプは2017年11月に大統領として日本を訪問した際、これに先立ちハワイの真珠湾・太平洋軍司令部を訪れている。到着後、記者団に「真珠湾は読んだり話したり、聞いたり学んだりしたが、訪れたことはなかった。とても興奮している」と語った。日本のメディアや識者はしきりに「米インド太平洋軍は北朝鮮も担当地域に含んでおり、視察は核・ミサイル開発を続ける北朝鮮をけん制する狙い」「横田到着も然り」と解説した。確かにこの見方も否定できないが、これによりトランプの日本への人種偏見の混ざった憎悪に近い想いを無視するのは大きなバイアスがかかった解説と言える。前任のオバマ大統領(当時)が退任直前の2016年末に安倍晋三首相(同)とともに真珠湾を訪問。「歴史的な日米和解」をアピールした。だが、真珠湾での一連の行事を終えた後、トランプは「われらの偉大なる軍人と退役軍人に感謝する。リメンバー・パールハーバー、リメンバー・戦艦アリゾナ。今日は私にとって忘れられない一日になるだろう!(Thank you to our GREAT Military/Veterans and @PacificCommand.Remember #PearlHarbor. Remember the @USSArizona!A day I’ll never forget.)」とツイートした。トランプは「オバマ、安倍の和解」を欺瞞として葬り、「リメンバー・パールハーバー&戦艦アリゾナ」を胸に刻んで日本へと向かった。

こうしてみれば、真珠湾→ミッドウェー→横田基地が一直線で結ばれる。

 

真珠湾

 

【写真】日本軍の奇襲により真珠湾で撃沈された戦艦アリゾナの上に建造された白亜の記念館がアリゾナメモリアル(写真右上)。これと一体で配置されているのが戦艦ミズーリ(同中央)。194592日、東京湾に浮かぶミズーリ号の艦上で日本の降伏文書調印式が行われ、戦後日本は正式にスタートした

 

 

 

 

 

 

 

2022年5月に訪日したトランプの政敵バイデン大統領もトランプを踏襲して横田から入国し東京都心の米軍基地へヘリで向かった。日本の識者の対米観は総じて甘い。”賢い”彼らはずばり核心に触れるのを避ける。ある民放の人気コメンテーターはこう語った。

「ずっと踏襲されてきた羽田入国を変え、トランプ大統領は初来日の時に横田に来て、そこからヘリで六本木にあるアメリカ軍基地に移動した。アメリカ軍基地は簡単に言えば、占領の名残ですよ。トランプ大統領は変わった人だから違ったことがやりたかったのかなって思っていたけど、民主党のバイデン大統領もこうやって横田に来た。アメリカ側が何か変わったのか、日本側は『ちゃんと正面玄関から入ってください』ってことすら言えなくなったのか」

アメリカ側は何も変わっていない。本心をもろに表に出し始めただけだ。集団的自衛権行使容認に伴う2015年の新安保法制成立で自衛隊を横田基地にある米軍司令部の指揮下に完全に組み込んだのだから、横田で第一歩をしるすことでそれをアピールし、日本が米国の支配下にあることを日本人に改めて印象つけようとしたのだ。

米支配層にとって最大の日本問題は、安倍晋三政権に典型的にみられたように日本の政治中枢が戦前=皇国史観・超国家主義をまったく克服できていないことであろう。天皇が臣民に付与した逆転の名ばかりの憲法を隠れ蓑とし、天皇を国家神道の祭司・シャーマンとする古代神権政治を基底に据えながら軍備近代化に努めた軍国主義国家は、人権意識などまったく頭の隅にもない「天皇=御国のために命をささげる」を至高の価値とした。トランプがこの問題をどうとらえているかは知る由もないが…。