ウクライナ危機とメディアリテラシー 自壊する既存メディア

ウクライナ危機を巡る商業メディアの体たらくには目を覆いたくなる。日本の太平洋戦争中の大本営発表の悪夢がよみがえる。今回は報道の自由の旗手との幻想を振りまいてきた米英をはじめ西側メディアが反ロシアキャンペーンの先頭に立ち、日本メディアは「鬼畜プーチン」を伝える西側報道を「大本営発表」として垂れ流している。ウクライナ危機は既存メディアに代わるオルタナティブメディアへと眼差しを向け、メディアリテラシー(報道評価力)を高める絶好の機会でもある。
一例だけ挙げてみる。ロシア軍のウクライナ侵攻の直接の引き金となった分離独立を宣言していた東部ウクライナ2州を巡る問題だ。
親ロシア政権を打倒し、親欧米政権を樹立した2014年2月ウクライナ政変を受けロシア人が圧倒的に居住するドンバス地域と呼ばれる東部ウクライナ2州は分離・独立を宣言し、分離派武装勢力はウクライナ政府軍と内戦状態となった。このためベラルーシミンスク2014年9月5日、ウクライナロシアとドネツク人民共和国ルガンスク人民共和国ドンバス地域における戦闘の停止についてのミンスク1を合意した
停戦合意が順守されないため、ドイツとフランスの仲介によって2015年2月12日にミンスク2=写真=が合意された。内容は、ウクライナと分離独立派双方の武器使用の即時停止、ウクライナ領内の不法武装勢力や戦闘員・傭兵の撤退、 ドンバスの「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」 に対し自治権を認める特別な地位に関する法律の採択及び選挙の実施などであった。付与される自治権は分離独立に法的根拠が生じる高度なものと解されていた。
2021年10月末にウクライナ軍はトルコ製先端兵器を使用し、 ドネツク州の分離独立派を攻撃した。ロシアはこれをミンスク合意に反していると非難した。これを受け、ロシア軍戦車がウクライナ国境付近に配備されて今回のウクライナ危機 に発展した。2022年2月21日にロシアのプーチン大統領は 「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認する一方、欧州連合(EU)はこれをミンスク合意に反していると非難した。
以上のロシアの軍事侵攻に至るまでの経緯を巡る事実にはロシアとウクライナとの間にほとんど争いがない。
ミンスク合意1以降、合意の履行状況をウオッチしてきた国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は2016年報告書でウクライナ政府の非人道的な所業を批判している。
それによると、OHCHRは、2014年4月半ばから2016年5月15日まで、ウクライナ東部の紛争地域でウクライナの政府軍、民間人と武装グループとの武力衝突の結果として30,903人の死傷者を記録した。うち死者は9,371人、負傷者は21,532人。ウクライナ当局は拘留した武装反乱グループと民間人数百人を拷問・虐待し、適正な手続きと公正な訴追に違反した。

ウクライナ政府当局は、紛争下に生きる人々の基本的自由と社会経済的権利へのアクセスを排除、制限する政策を採用した。これにより、非差別の原則に数多違反している。さらにウクライナ政府は紛争地帯において人権の補償を怠り、多くの国際条約の履行義務を放棄している。
悲劇のヒーロー扱いされているゼレンスキー大統領率いるウクライナ政府だが、現地で監視活動を行った国連機関はウクライナ政府が露骨に合意に違反する行為を行っていたと報告している。https://www.ohchr.org/Documents/Countries/UA/Ukraine_14th_HRMMU_Report.pdf
軍事侵攻直前の2月21日にプーチン大統領が行ったテレビ演説は上記のウクライナに潜む不法武装勢力(ネオナチ)によるロシア系住民虐殺の指摘に加え、米NATOが多数の最新鋭武器をウクライナ軍に供与し、米軍やNATO軍がウクライナ国内で頻繁に軍事演習を行ってロシアを挑発していると非難している。
一番の問題はミンスク2で撤退を求められた「ウクライナ領内の不法武装勢力や戦闘員・傭兵」だ。これには東部地域分離独立派の武装勢力のみならず、米国のブラックウオーターなど米傭兵会社の戦闘部隊や2014年の政変を仕掛けたウクライナ国内で活動している万単位とも言われるネオナチ民兵グループ写真=が含まれる
またミンスク2では、2つの「人民共和国」と「高度な自治権付与」で合意していたのだから、合意の履行をサボタージュしながらロシア系住民の虐殺を続けたゼレンスキー政権にロシアと「共和国」が受忍限度を超えたとしてウクライナからの独立へと動いたことが全面非難されるいわれはない。
ウクライナ軍や政府当局の非人道的な軍事弾圧に関する国連機関からの報告は他にも数多くある。
さらにロシアを無条件に非難する論者の中にも、ウクライナ政府がミンスク合意を「不利な条件で合意を結ばされた」と不満を漏らし意図的にサボタージュしていたことを認める向きが多い。
こんな中、3月9日の毎日新聞社説はプーチン・ロシアに対する悪意むき出しの批判を行った。以下はその一部だ。

「ロシアは武器取引などを通じてアフリカや中南米の独裁国家とのつながりを強めている。これを断つ取り組みも求められよう。平和を破壊する独裁を倒し、自由を回復する道のりは険しいが、くじけてはならない。米国の指導力なくしてその実現はない。」 

他社の記事や論評にもまるで示し合わせたかのような問答無用のロシアへの嫌悪と拒絶が漂う。

国際的に信頼度の高い国連の決定的な調査報告書がありながら、欧米主流メディアは「ウクライナが被害者でロシアは悪」とする一方的なプロパガンダを垂れ流して臆しない。それに追随するばかりの日本のメディアには言葉を失う。

既存メディアはもはや自壊している。