ウクライナ戦争巡る米国の内紛 ネオコンの暴走阻止する軍トップ

ドイツと米国がこのほど懸案となっていた最新鋭戦車をウクライナに供与することを決め、ウクライナ戦争はウクライナがロシアに対し今後優勢に戦いを進め得るかのような雰囲気が醸成されている。しかし、これはゼレンスキー政権に対する「武器供与はここまで。和平交渉の準備にかかれ」とのシグナルとも解釈できる。ワシントンの情報筋は、「イランとイスラエルとの緊張が高まっている。代理戦争であれイランとイスラエルが軍事衝突すれば、米国の介入は必至。今の米国にはウクライナ、中国、中東の3正面に軍事資源を集中させる力はない。中東で紛争が拡大すれば中国を封じ込める力が弱まり、笑うのは習近平だ」と語った。ウクライナ戦争の推移は米国の衰退をより鮮明にしている。

西側主流メディアは、ハイマース高い機動性を備えた砲兵ロケット・システムパトリオットミサイル、そしてこのほど決定した計百数十台の最新鋭ドイツ製戦車レオパルト2と米最強戦車M1エイブラムスの供与によってウクライナ戦争にゲームチェンジが起きるかのような印象操作を大々的に行っている。

こんな中、米軍幹部はネオコン主導の米政府の好戦的姿勢にクギを指し和平を勧告し続けてきた。軍人上がりのオースティン国防長官も同様だ。CNNによると、米軍制服組トップのマーク・ミリー米軍統合参謀本部議長は1月20日の記者会見で、ウクライナが年内にロシア軍を領土から追い出すのは極めて困難との見通しを示し、「この戦争も過去の多くの戦争と同様に何らかの交渉で終わるだろう。プーチンは今すぐ戦争を終らせるべきだ」と停戦交渉促進を勧告した。

米軍制服組は昨年2月の開戦以降、ロシアに即時停戦を呼び掛けてきた。5月、10月と米国のオースティン国防長官はロシアのショイグ国防相と電話会談を行い、10月は計2回行った。1回目は米国主導だったが、2回目はロシアのジョイグ国防相が声をかけた。さらに米国の主導で、露国防相は続いてルコルニュ仏国防相、トルコのアカル国防相、英国のウォレス国防相と話し合っている。核の不使用を筆頭に危機管理のための対話回路作りを進めてきた。

上記ミリー米軍統合参謀本部議長の即時和平交渉開始を促すかのような発言は、1月20日にドイツ・ラムシュタイン空軍基地で開かれたウクライナへの軍事支援に関する多国間会合直後のもので、会合の焦点がドイツ政府が決定をしぶってきたウクライナへの独製戦車「レオパルト2」供与と多額の支援実施であっただけになおさら注目された

また黒人初の国防長官となったロイド・オースティンは同じく軍人上がりで黒人初の国務長官を務めたコーリン・パウエルを深く尊敬している。米紙THE HILLによると、共和党員ながらもリベラルや中道にも理解を示し、2021年10月に死去したパウエル元長官はオースティンの国防長官指名に際し「良き師(mentor)として彼を指導してきた」と語っている。またともに2003年のイラク戦争を「人生最大の汚点」としている。

パウエルは2003年に国際連合安全保障理事会CIAの誤認に基づくイラク大量破壊兵器を開発している証拠」を列挙し、これを受けブッシュ米ネオコン政権は安保理決議なく有志連合を結成してイラク攻撃へと突き進んだ。オースティンは多国籍軍イラク駐留アメリカ軍の司令官を務めイラク戦争の先頭に立たされた。国連との協調を重視するパウエルは有志連合志向のネオコンと対立し、2004年に辞任した。オースティンやミリーの一連の対ロシア対話と停戦交渉提唱は暴走するネオコンの”狂った戦い”への抑止とみる他ない。

一方、1月23日付ロシアRTは「英国のトップシンクタンクは、ロシアのウクライナに対するサイバー戦争の優位を明らかにした―なぜ欧米メディアはこれを無視したのか?」との見出しの記事を掲載した。記事によると、「英国の王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、ウクライナ軍がNATOの最高の技術を持ちながらも、モスクワに完全に圧倒されていることを認めている」という。すなわち、ロシアが戦争の一定の局面では圧倒的に優位に立っている、という、欧米や日本など、ウクライナ側に立っている諸国に「認めたくない」現実を突きつけている。最新鋭戦車の供与がいつになるのかは不明。しかも多大な時間を要するオペレーション訓練などを考慮すると、ラムシュタイン会合で米NATO軍幹部はゼレンスキー政権に「武器供与はここまで。和平交渉の準備にかかれ」と勧告していると見るべきだ。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル電子版は昨年末、「ウクライナのゼレンスキー政権がロシアの侵略から1年となる2023年2月24日に合わせて和平案を提示する計画だ」と報じた。外交筋の話として伝えている。

バイデン政権を牛耳るネオコンと国防総省・米軍幹部との激しい綱引きが水面下で行われている。中間選挙後の共和党主導の米議会からも野放図なウクライナ支援への疑問の声が沸き上がっている。

さらには、新華社によると、ドイツのシュタインマイヤー大統領=写真=が12月20日に中国の習近平主席と電話会談。翌21日にはロシアのメトベージェフ前大統領が訪中しており、中国がドイツとロシアの間に立っていることを示唆した。独大統領府が大統領はロシアとプーチン大統領への習氏の影響力を行使するよう求めたと明かした」との報道もある。

西側メディアによるウクライナ戦争のエスカレートと「第三次大戦突入・核使用も」といったセンセーショナルな報道は無視すべきだ。ネオコンは例外として、関係者の理性は失われていない。

 

<注:1月7日掲載記事「ロシア巡る独米の攻防 全欧安保体制とブレジンスキー構想 近代日本考:補」を参照されたい>