共産党率いる中国(中華人民共和国)が経済力、市場規模、先端技術等々で米国を圧倒しつつあるとの情報が西側世界を震撼させている。既に予測されていたことではあるものの、現実になった今その衝撃はチャイナフォビア(中国恐怖症)となって米欧世界の人々の心胆を寒からしめている。共産中国をかつてのソ連以上の脅威とする風潮が米欧にはびこり、1940年代末から1950年代前半に起きた赤狩り(レッドパージ)以来の反中・反共ヒステリーに進みそうだ。日本の政府や商業メディアがこれに過剰なまでに追随するのは必至。
■NATOの標的は今や中国
筆頭格は米欧主要国の主導でソ連封じ込めのため1949年に設立された北大西洋条約機構(NATO)だ。2020年12月1日に今後10年のNATOが対応すべき課題を示した報告書を公表。従来から対峙するロシアに加えて、初めて台頭する中国に言及し、その脅威に対応できる体制を整えるよう促した。ロシア・中国は「体制上のライバル」と明記された。
とりわけ、中国については「経済的、軍事的な力に支えられ、グローバルな戦略を発展させている」と最大級の警戒感を示した。そのうえで「中国の重要性が増す世界で政治戦略を発展させる必要性がある」と訴え、安保関連の全課題に対応する諮問機関を設立する方針。
■FTの「宣戦布告」
メディアもこの動きに素早く呼応している。
米欧の富裕エリート層の”必読紙”である英フィナンシャルタイムズ(FT)は12月3日付で、「ヨーロッパは中国を巡り米国に味方せねばならない。北京の大国外交は米国より欧州連合(EU)にとってもっと大きな脅威だ(Europe must take sides with the US over China. Beijing's great power politics are a bigger threat to the EU to the US.)」との論説記事を掲載した。
翌12月4日には米ウォールストリートジャーナルが、「中国は現在の米国にとって最大の脅威であり、世界の民主主義と自由にとって第2次世界大戦後最大の脅威だ」と主張するジョン・ラトクリフ米国家情報長官の寄稿を掲載した。同長官は、中国が米国の企業秘密と防衛技術を盗んでいるとも指摘。中国のスパイ活動は経済的な圧力によって米議員に影響力を及ぼしているとした。また中国の指導者らが「個人の権利を共産党の意思に従属させようとしている」と批判。「企業を政府が管理し、独裁的な監視国家によって自国民のプライバシーと自由を侵害している」と述べた。
さらに米欧の主要メディアは同4日一斉に、米政府が中国共産党の党員と家族向けの短期商用・観光(B1・B2)ビザの有効期間を最長で1カ月とする新たな渡航制限を導入した、と伝えた。これまでは最長10年の観光ビザを取得できた。報道によると、米国務省は中国共産党のプロパガンダ(宣伝活動)や経済的抑圧、その他の不正行為を非難し、規制厳格化について「有害な影響」から米国民を守る措置の一環と説明している。
■自縄自縛のデカップリング
■西側メディアの加担
米英・NATO主要国、そして日豪などの政府が座してこれを傍観するわけがない。上記のNATO報告書にあるように彼らは「あらゆる課題に対応する」準備に入っている。まずは英国、フランス両軍がインド太平洋へ進出、米豪日印の4カ国軍事連携・クワッドへ実質参加して中国包囲網の拡充が起こるだろう。逡巡する韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)にもこのアジア版NATOへの参入圧力が強まる。そして日本政府は韓国とASEAN説得の「大任」を負わされる。
日本を含め西側のメデァアによる「”コロナ禍の発生源・中国”の経済一人勝ちは許さない」との大合唱が起こる可能性も極めて高い。とにかく、香港、ウィグル問題をはじめ陰に陽にあらゆる手段で中国叩きが増幅するのは不可避となった。