日本はアフリカ諸国とほぼ同水準の全人口比ワクチン接種率が1%程度にとどまる。一方、人口740万人のイスラエルは米ファイザー社から集中的供給を受け、新型コロナウィルスに対する集団免疫獲得水準の接種率75%に近づいている。西側のワクチン製造を独占する米国、英国もそれに続き、社会はコロナ前の活気を取り戻しつつある。自前のワクチンで社会活動を正常化させた中国や評価の高いロシア、キューバなど米英が敵視する国からワクチンの供給を受けるのが難しい国の接種率には米国への忠誠度がはっきりと反映されている。
■最低レベルの日韓
菅政権が中国への強硬姿勢を忌避し、バイデン政権を憤激させていることは、4月22日掲載記事「ハンバーガー午餐が示すバイデンの不遜 軋む日米関係」で詳述した。韓国の文政権も3月半ば米国と外務・国防相会議(2+2)を開き、共同声明に中国批判はもとより中国という文字の記載すら拒み、中国に最大限配慮する姿勢を示した。
日韓両国のワクチン接種率は極端に低い。
「Our World in Data」の集計によると、2021年4月22日現在、日本のワクチンを1回以上摂取した人の割合は1.3%。韓国も4%に過ぎない。一方、イスラエルの62.1%のを筆頭にアラブ首長国連邦51.4%、英国49.2%、米国40.6%。これに続くのはカナダ、ハンガリー、ドイツ、イタリア、スペインなど欧州諸国である。
目を引くのは反米姿勢の強い国が目立つ南米の中で、親米右派のピニェーラが政権を奪回したチリは米国を上回る31.5%となっている。
こんな中、韓国は人口10万人当たりの感染者数が日本の6割程度にとどまっているとはいえ、ワクチン供給は「2+2」後の3月半ば以降急ブレーキがかかっているたようだ。同日現在、必要な2回のワクチン接種を完了した人は8万人弱で、約85万人の日本にも大きく水をあけられている。
■日本の総選挙とコロナワクチン
予想通り、菅政権・自民党は4月25日実施の衆参3選挙(参院広島選挙区再選挙、参院長野選挙区補選、衆院北海道2区補選)で全敗した。訪米を終えたばかりの菅首相と政権与党自民党にとってみれば、コロナワクチン供給の遅れや接種率の異常な低迷を続ける限り、今秋までに実施される総選挙結果に脅えなければならない。保守二大政党の旗を掲げた小池・新党ブームの再来もあり得る。
菅首相が今回の訪米中にワシントンでワクチン供給源である米ファイザー社CEOとの直接面談を試みるも断られ、追加供給の確約をとれなかったことは日本の有権者に大きな失望を招いた。帰国後、菅首相は記者団に対し、「ワクチンは16歳以上の国民全員に9月までに供給されるめどが立った」と表明した。苦し紛れの発言であった。
自民党政調会長の下村博文議員は「希望する全国民へのワクチン接種完了は来春になる」と述べた。この安倍前首相の最側近とされる元閣僚は米政権の代理人として菅政権に揺さぶりをかけている。バイデン政権は「台湾を尖閣と一体化し、東シナ海問題として取り組む姿勢を鮮明にして中国と対峙せよ」と日本政府に迫っている。これを受け入れれば、ファーザー社からの追加供給量は急増することだろう。
5月末に文大統領が訪米する韓国と首相訪米を終えた日本は米政権から対中強硬姿勢への明白な転換を米国への忠誠の「踏み絵」として突きつけられた。
日本は重大な岐路に立たされている。
注:5月21日の米韓首脳会談で対中国姿勢で米国の要請に一定程度応じた韓国の文在寅大統領はバイデン米大統領に歓待され、ワクチン支援も取り付けた。重苦しく冷たい雰囲気だった菅義偉首相の受け入れとは好対照となった。それはコロナ禍から半ば解放されたように演じる米国社会の現状だけでは説明できない。
参考:「新型コロナウイルス」 世界各国のワクチン接種状況
https://www.jiji.com/jc/tokushu?id=owid_vaccination&g=cov&utm_source=yahoo&utm_medium=referral&utm_campaign=link_back_edit