日米軍事筋によると、ロシア太平洋艦隊司令部が置かれているロシア・極東のウラジオストック港に中国海軍が6月1日に非公式ではあるがロシア軍との共同使用体制を構築した。中国とロシアは2010年代に入ると、ウラジオストク沖の日本海などで合同軍事演習を頻繁に行ってきたが、中国包囲を目的とする米国主導の北大西洋条約機構(NATO)の西太平洋への拡大に伴い、共同で東アジア、西太平洋でNATOに対抗する態勢を整えた。東シナ海で領有権巡り日中が対立する尖閣諸島問題への中露共同対処も懸念されている。
ウクライナ戦争を巡るNATOの対ロシア攻撃が東アジアでの中露結束を強化。1860年に沿海州の中国・清からロシア帝国への譲渡が北京条約で確定して以来、163年ぶりにウラジオ港は中国に利用されることになった。
中国当局は、公式には中国東北部で海に面していない吉林省と黒竜江省の産品を出荷する際、6月1日からウラジオストクを中継・通過港とする特例措置を実施すると発表したにすぎない。表向きには、中国の一般船舶の利用を装っており、艦船のウラジオ港使用については触れていない。しかし、同筋は「ウラジオストックが中ロの横須賀(米第七艦隊の拠点)となった。日本の背骨を睨む絶好の位置にある。日米関係者は今後の動向を注視している」と語った。
中国とロシアは海軍と航空宇宙軍の最高司令官同士で戦略的軍事演習と合同パトロールの実施の強化で合意している。特に、アジア太平洋地域での合同の海上および空中警戒に力点を置いた。現在は2021年~2025年の5か年の演習計画を実施中。
6月6日に「仏大統領、NATO太平洋展開の拠点東京事務所開設に反対 G7で対中関係巡り激論か」を掲載した。4月上旬に中国を訪問したマクロン大統領は、習近平国家主席と北京と広州で計6時間を超えて話し合った。両者がNATOの太平洋への拡大に反対するとの認識を共有したことは確実。NATOがグローバル化の名の下、東アジア、西太平洋に進出して中国との関係を緊張させていることへの対抗が中国海軍のウラジオストック軍港のロシアとの共同使用につながった。
東京にNATO連絡事務所を設置すれば、日中関係ばかりか、日ロ関係にも深刻な影響を及ぼす。東京事務所設置の情報はフランスも中国も早い段階で得ていたとみられる。マクロン氏が中国からの帰途に発した「欧州は米国に追従しない。米中の対立とは距離を置き、欧州は世界の第三極となる」との言葉がすべてを語っている。フランス、そしてドイツはここ10年インド・太平洋で行ってきた海軍艦船派遣や米軍、オーストラリア軍、自衛隊などとの合同軍事演習を今後中断するとみられる。
ウラジオに拠点を置いた中国軍は朝鮮半島や日本海に接近するだけでなく、津軽、宗谷両海峡を通じて日本の「北方領土」周辺や千島列島から米アラスカ州沖に至るまで北太平洋全域でロシア軍と共同軍事活動を活発化させるのは必至。日本は南シナ海、東シナ海から日本海、オホーツク海、日本の太平洋沿岸に至るまで中国との軍事緊張を高めることになる。この30年近くの日本の米NATO追随が中露合同の日本包囲網形成を導いた格好だ。
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【写真】ロシア軍との合同演習のためウラジオストックに入港する中国艦船を歓迎し、礼砲を発するロシア太平洋艦隊所属の砲兵部隊(2017年9月)