中国軍、キューバに軍事拠点設けメキシコ湾へ進出 核危機再現恐れる米は静観

中国がカリブ海の友好国キューバに軍事拠点設置を検討し、メキシコ湾を隔てて至近の米国本土を攻撃できる態勢を整えようとしている。歴史的には19世紀末西部開拓を終えフロンティアをなくした米国が太平洋を新フロンティアとみなして中国沿岸まで西進、21世紀に入ると米日豪に英仏独といった北大西洋条約機構(NATO)加盟の欧州主要国までが西太平洋に軍事進出して中国包囲網を形成している。最近の中国軍の米本土への接近はこれに対する対抗装置である。もし中国がキューバの軍事施設に戦術核であれ核配備する動きに出れば米中の緊張はかつてなく高まり、1962年のキューバ危機の再現となる。これを絶対に避けたい米政府は中国と結ぶロシアに表向き譲歩し、ウクライナでの正規戦停止=ロシアによる東部4州占領のままの休戦、ウクライナのNATO加盟の白紙黙認へと追い込まれる可能性がある。表向き静観を貫く構えだ。 

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは6月20日、「中国がカリブ海の社会主義国キューバに『合同軍事訓練施設』を設置するため、同国と交渉を行っている」と報じた。さらにバイデン米政権はキューバに対し最終決定しないよう働きかけていると伝えられた。8月末現在新たな動きは表に出ていない。だが中国、キューバ両国の交渉はすでに決着しているとみるべきで、今後は合同軍事訓練施設の稼働時期が焦点となる。

中国軍のカリブ海進出はここ20年検討されてきた案件で、時期をうかがってきたにすぎない。中国側は、軍関係者や米中関係研究者らが2000年代から活発となった東シナ海、南シナ海、日本海などでの日本、韓国、オーストラリアを巻き込んだ米軍の頻繁で大掛かりな軍事演習実施に猛烈に反発している。人民解放軍軍事科学アカデミーの軍事理論家で当時の羅元海軍提督は2011年の論文で「中国は他国が自国の領土・領空に接近してその軍事力を示威すれば臨戦態勢に入ることとなる。米国は中国がメキシコ湾・カリブ海で米国に隣接する諸国との合同軍事演習を実施してもこれを黙認するのか」と警鐘を鳴らしていた。

習近平国家主席は就任間もなくの2014年にキューバを公式訪問。新華社は「1960年にキューバは中南米・カリブ諸国で他に先駆けて新中国と国交を樹立し、中国・中南米関係に新紀元を切り開いた。中国・キューバ関係は国際環境の激変という試練に耐え、現在重要な発展のチャンスを迎えている。訪問中にカストロ議長らキューバの指導同志と両国関係および共通関心事を踏み込んで討議し、両国関係の将来の発展について長期的計画を立て、互恵・友好協力に新時代を切り開く」との習発言を伝えた。昨2022年にはミゲル・ディアス=カネル・キューバ共産党中央委員会第1書記兼大統領が中国を公式訪問、習近平と首脳会談を行った。この時点で中国軍のメキシコ湾・カリブ海進出は固まっていたみられる。キューバに中国の軍事訓練施設が設置されれば、米フロリダ州の南約160キロに中国軍が駐留することになる。

中国がついに長年の懸案だったキューバでの軍事施設構築へと動いた。言葉を換えれば、「これ以上、米国が日本を使って台湾有事を扇動すれば、米本土ののど元に銃口を突き付けた形のキューバの軍事施設で何が起きるかわからんぞ」と米国に無言で語り掛けている。米国のブリンケン国務長官は6月に英国で「注意深く監視している」、7月の訪中の際には「キューバで行う中国の情報、軍事活動に深い懸念を抱いている」と抑制気味に語った。

バイデン政権は、今、米国本土が標的となるキューバ危機の再現が煽られれば、政権批判勢力や世論に対中、台湾政策の失敗と叩かれ、激しく非難されることとなる。このためウクライナ軍がロシア軍に対して決定的に劣勢に立たされているとみられるウクライナ戦争を巡っても、3月に提示された中国の12項目和平案を尊重せざるを得なくなろう。

一方、米ウォールストリート・ジャーナルは、中国とロシアの艦船が7月末、米アラスカ州のアリューシャン列島付近を航行したと伝えた。日本の防衛省によれば、中ロ両空軍は6月6、7の両日、日本周辺で戦闘機と爆撃機による共同飛行を実施。両国の国防省によれば、中ロ両海軍は7月初旬に上海沖、7月20日から23日まで日本海でそれぞれ合同軍事演習を実施した。本ブログが6月に掲載した中国海軍、ロシア・ウラジオに進出 NATO太平洋拡大に対抗、中露共同で尖閣対処も 2023年8月2日差替 | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)」で予想したように、中露は日本周辺から北太平洋全域にかけて米国を軍事けん制する動きに出ている。

北東太平洋のアラスカ沖への中国軍進出は東太平洋も軍事活動領域に収めるとの意思表示であり、これまでのハワイから西の太平洋を統治するとの米中太平洋二分割論の撤回ともみなせる。言うまでもなく、このような中国軍の対米強硬姿勢は台湾を巡る米国の動きを抑止するためだ。同時に日本周辺で中ロの共同軍事行動が増えているのは、ウクライナ戦争を巡る日本政府の米NATOサイドに偏重した動きへの警告である。とりわけ台湾有事は日本有事」とする日本政府に対する中国の反発は、ロシアだけでなく北朝鮮も巻き込み、福島第一原発からの放射能汚染水の海洋投棄への共同非難へとつながっている。中国の一連の対米強硬姿勢は日本が南西諸島で整えた敵(中国)基地攻撃態勢にも影響しよう。

バイデン大統領あるいは民主党後継候補者が来年の米大統領選を勝ち抜くには中露両軍の米本土接近、とりわけキューバでの中国軍駐留の政治問題化は絶対に避けなければならない。7月から8月にかけての、ブリンケン国務長官、イエレン財務長官レモンド商務長官の相次ぐ低姿勢訪中とデカップリングからデリスキングへの転換がそれを黙示した。

 

注:米英の戦略見直しに触れた2023/08/26掲載記事「「追い詰められた米英によるテロの可能性も」 プリゴジン搭乗機墜落事件とBRICS首脳会議 | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)」を参照されたい