安倍晋三去りて1年:お役御免の旧安倍・保守勢力、米国へむき出しの攻撃開始 差替版

安倍晋三元首相が銃撃され死亡してまもなく1年。この間、医師を含め多くの人がSNSを通じて警察庁の「鎖骨下動脈からの失血死」との司法解剖に基づく死因説明に疑問を投げかけた。警察は司法解剖結果は公判で明らかにすると言った。しかし、公判で検察は安倍の搬送された大学病院救命担当医による「心臓が損傷していた」との証言やその裏付けとなるCT画像などの物証を再び無視することだろう。6月12日に山上徹也被告が出席してようやく始まる予定だった第一回公判前整理手続は不審な小包が奈良地裁に送り付けられ、取り消された。これで安全確保を理由に同被告を欠席させて整理手続が行われかねない。安倍暗殺の真相解明を妨害しようとする勢力が存在するとの嫌疑が深まる一方で、自民党最大派閥である清和会(安倍派)はネオコン主導の米政府に対し「内政干渉は止めよ」と正面から対峙し始めた。安倍暗殺事件を契機に、ネオコンはかつての保守本流「宏池会」系派閥を傍流に押しやりこの20年余り自民党主流派として権勢を誇った安倍グループと清和会をお役御免として「使い捨て」ようとしている。

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強調すべきは、安倍グループを核とする永田町のいわゆる保守派が米国に猛反発していることだ。ウクライナ戦争を巡る米NATO批判は昨年末に掲載した「ウクライナ戦争で露呈した米国の欺瞞へ矛先 安倍暗殺と反米保守再台頭 | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)」で紹介した。要するに「大東亜戦争肯定と東京裁判否認」の主張であり、米英の策略で大日本帝国は解体されたとの被害者意識に基づく激烈な米国批判である。この考えは第一次安倍政権(2006-2007)のイデオロギー装置を装った日本会議の唱えた皇国史観・靖国思想を基礎としている。神社本庁をはじめとする伝統的宗教団体、生長の家初代総裁の唱えた明治憲法復活を核にした「美しい日本の再建」という日本会議の復古思想は敗戦の否認と米国の対日占領否定に直結していた。

このような露骨な言説は2012年の第二次安倍政権の発足以降はなりを潜めていた。彼らが安倍暗殺後に公然たる米国批判に転じたのは、暗殺の背後に何らかの米国絡みの動きを感じ取っているからに他なるまい。

日本の保守勢力は、今日に至るも米国や西欧諸国が眉を顰めるような儒教的な価値観に基づく政策、家族主義、反個人主義、夫婦別姓反対、外国人参政権反対、性的少数者(LGBT)否定、女系天皇反対などを主張している。日本では、夫婦同姓が家族主義の象徴として重要視されており、異性間結婚がその絶対的基礎となってきた。安倍グループの主張はこれとぴったり重なる。したがって、5月のG7広島サミット前に国会に提出された「LGBT理解増進法案」に保守勢力は激しく反発した。6月13日の衆院採決では退席、欠席する議員も出た。いずれも安倍晋三尊崇者である。

SNS、YouTubeでは攻撃の矛先は「日本はG7で唯一、LGBT差別禁止法を持たず、同性婚も認めていない」とするエマニュエル駐日米大使=写真中央=に向かった。同大使は法案提出前にデモにも参加して「LGBT理解増進法案に関し、日本国憲法の枠を超えるものではなく、憲法の理念を強化しようとするものだ」などと発言。「バイデン米大統領も性的少数者の権利保護を政策として掲げている」と強調した。

これに対し、保守勢力からは「米政府の内政干渉を許すな」との声が澎湃と沸き起こった。日本の右翼の大半が「親米右翼」にされてしまう前の1950年代までの国粋反米右翼の再生を感じさせるほどである。「安倍さんがいたら、こんなことはさせなかった」との怨嗟の声も聞こえる。安倍シンパだった論客には「真正保守政党を立ち上げる」と息巻く向きもある。

韓国で昨年5月発足した尹錫悦政権が、北朝鮮の脅威増大や米中対立の激化に対する危機感を前面に出し、日本との外交・安全保障協力に軸足を移したことにも反発している。一時的に韓国と融和したところで、文在寅前政権のような対北融和や対中配慮を重視し、日本の保守勢力を敵視する左派政権に交代すれば元の木阿弥となるとして、彼らは「日米韓」体制の復活を指示したバイデン米政権に反発している。岸田政権は韓国からの関係改善の呼びかけに慎重だったが、7月の安倍死去を機に姿勢を前向きに転じた。対韓政策においても、バイデン、岸田両政権にとって安倍グループは大きな障壁だったのだ。

安倍は2021年自民党総裁選で清和会を脱会していた高市早苗を擁立した。期待以上に善戦したのを評価して、「確固たる国家観を示した。私たちの論戦によって、はがれかかっていた多くの支持者が自民党に戻ってきてくれたのではないか」との声を上げた。改憲を明言するだけでなく、高市のように「首相に就任すればすぐさま靖国神社に参拝する」と語る”後継者選び”に執着した。

岸田首相は2022年8月高市早苗を経済安全保障担当相に任命した。だが昨年末、高市は「政府与党政策懇談会に私も(安倍派要人の)西村康稔経済産業相も呼ばれず、反論の場も与えられなかった」と岸田に強い不満を表明した。2023年3月には放送法の政治的公平に関する総務省の行政文書を「捏造(ねつぞう)」と断言した高市を岸田は罷免しなかったものの、これは安倍グループの弱体化を見極めるための時間稼ぎとみるべきだ。

米政府とその背後にいる権力中枢にとって安倍グループは集団的自衛権行使容認に伴う2015年新安保法制成立によって「お役御免」となっていた。民主党政権で防衛相を務めた北澤俊美は新安保法制制定に突き進む安倍を見て「軍事力への憧憬を感じる」と語った。米権力中枢は「米国管理下での日本の軍事大国化」にはこの安倍のセンスが必要だったのだ。しかし、靖国思想を尊崇する超国家主義(ウルトラナショナリズム)へと変貌しかねないグループはいずれお払い箱にしなければならなかった。

注:米政権の豹変と安倍国葬 「血を流せる国」にすると冷遇一転し絶賛 | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)

次は「安倍暗殺を巡る闇:グレートリセットの一環としての自民党皇国日本派の解体」を掲載する予定。