哀悼:村山元首相 社会党最後の灯火・50年談話 高市政権短命を暗示

引退後、故郷大分に帰り、悠々自適で暮らした村山富市さんが天寿を全うした。享年101歳。10年近く前、テレビで見た、自宅近くをチャリンコで移動する好々爺の姿が目に焼き付いている。

1994年の自社さ連立政権で社会党党首として首相に担がれ、自民党に歩をあわせ「自衛隊合憲」「日米安保体制の堅持」を表明し、米国に管理された自民党政治に対する対抗軸としての社会党の役割を放棄したかにみえた。しかし当時、支持母体の総評は御用組合連合であるナショナルセンター「連合」に吸収され解散、国鉄も電電も民営化されて社会党の支持基盤はほぼ壊滅し、加えてソ連の崩壊・共産主義に対する幻滅で社会党の存在理由はなくなったかのように宣伝されていた。

今日の消滅寸前の後継社民党の姿を予見して、村山は乾坤一擲、つまり戦後50年談話公表という一世一代の大勝負に出た。こう思えてならない。

中国中央電視台(CCTV)は2015年1月、村山富市元首相に取材した。=写真= 中国は同年8月の安倍談話公表前に「安倍首相が植民地支配や侵略の文字を消し村山談話を変えると発言している」と懸念していた。村山はこう答えた。

「それは不可能。談話は国際的な約束事。村山談話は、日本の進むべき道を示すとともに、世界への誓約となった。これを変えたり修正することはできない。諸外国は、『日本は何を考えている、何がしたいのだ』と思うだろう。それは、日本の信頼低下につながる。安倍首相が新しい談話を発表すると言ったが、あらゆる点から考えて、村山談話を変えることはできないだろう」。

安倍は国会答弁で「(歴史学では)侵略の定義は定まっていないとの日本の御用学者の指南で対中侵略を否定してきたが、2015年安倍談話の内容は曲がりなりにも上の村山の指摘通りになった。

2020年にはこう発言した。

「歴代内閣が村山談話を踏襲していることは当然のこと。先の大戦について『侵略ではないとか、正義の戦争であるとか、植民地解放の戦争だったなどという歴史認識は、全く、受け入れられるはずがないことは、自明の理』。「日本の多くの良心的な人々の歴史に対する検証や反省の取り組みを『自虐史観』などと攻撃する動きもありますが、それらの考えは全く、間違っています」「日本の過去を謙虚に問うことは、日本の名誉につながるのです。逆に、侵略や植民地支配を認めないような姿勢こそ、この国を貶(おとし)めるのでは、ないでしょうか」。

 「『村山談話』が、今後の日本、アジア、そして世界の和解、平和、発展に貢献してくれることを期待したい」「アジアの平和と安定の構築のためには、日中両国の、安定的な政治・経済・文化の交流・発展を築いていかねばなりません。その成就を祈るばかりです」。

今日、日米安保条約破棄はタブーと化した。だがタブーに挑まずして日中両国関係の安定的発展は築けない。問題の直接的な根は日本の敗戦後の歩みにある。タブーを克服する強靭で柔軟な知力、構想力、そして行動力が求められている。

訪中する日本の政治家たちは与野党問わず今日の日中関係の土台となっている村山談話の重さを痛感しているという。

村山が警告したように「侵略や植民地支配を認めず、国を貶めている」高市政権は発足前から世界の不信を招いており、決して長続きすることはなかろう。戦勝国にして対日管理国アメリカが許さない。短命は必至。それは日本のさらなる孤立を意味する。

参照記事

村山談話と日中関係の明日 新冷戦に抗して | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男)