英ロイター通信は3月9日、ウクライナ南部マリウポリの小児病院がロシア軍の空爆によって深刻な被害を受けたと伝えた。分娩中の女性を含む17人の負傷が確認されたが、死傷者の詳細は不明としている。マウリポリはロシアが標的とするウクライナ・ネオナチの拠点であり報道内容にはさまざまな疑問符がつく。
ロシア軍が小児病院空爆、がれきの下に子ども=ウクライナ大統領 | ロイター (reuters.com)
「ロシア軍が空爆した」との記事のニュースソースはゼレンスキー大統領、ウクライナ外務省、ウクライナ地方当局、ジョンソン英首相とすべてウクライナサイドである。今回は戦争の不条理、悲惨さ、冷酷さを最も訴えることのできる子供たちに災厄が及んだとのことだ。だが3月9日掲載記事「ウクライナ危機とメディアリテラシー」でウクライナ政府が2015年以降、ミンスク合意を無視し、ネオナチ民兵らによるロシア系住民への残虐行為などが頻発、これを国連機関が厳しく非難していることを伝えた。それに目をつぶるウクライナ・西側の一方的なロシア非難を鵜呑みにするのは非常に危ない。
ゼレンスキー大統領はツイッターへの投稿で「子どももがれきの下にいる」、「残虐行為だ。世界はいつまでこの恐怖を無視する共犯者となるのか」と非難し、早急に飛行禁止区域を設定するよう訴えたとされる。飛行禁止区域の設定はロシア側が「米NATOの参戦とみなす」と警告しており、米欧とロシアとの全面戦争を誘発すると危惧されている。ウクライナ政府は一線を越えるよう米欧側に促しており異常事態だ。
このロイター電は、ロシアのペスコフ大統領報道官の「ロシア軍は民間人を標的に発砲していない」との反論を伝え、「隣国ウクライナの武装解除およびネオナチ指導者の排除を目的とした軍事特別作戦だ」とのこれまでのロシア側主張を繰り返し報じた。
ウクライナ政府や正規軍の背後にネオナチ民兵部隊、米傭兵会社を動かすペンタゴン、米国務省、CIA、英MI6など諜報機関が潜んでいるのは今や常識。メディアとしてなすべきは、ウクライナ政府や英国政府のロシア非難の報道のみに終始するのではなく、まずはこの空爆がNATO仕様の爆弾/ミサイル投下によるものなのか、ロシア製のモノなのかの確認を急ぐべきだ。
空襲したロシア軍機の機影を映した写真はまったく見当たらない。被爆した病院の写真のみが強調されている。ゼレンスキー大統領が投稿で「子どももがれきの下にいる」と訴えたが、子供の救出作業を写したシーンもない。ウクライナ当局は西側メディアに被爆した建物の写真多数を提供しているが、死傷した子供の写真は皆無。建物から避難している女性を救出しているかのような集団の写真はある。全員無傷にみえる。
ワシントンからの情報によると、ロシア軍はウクライナ軍の対空ミサイルに抵抗され制空に失敗しているという。ならば破壊された病院の多数の写真が公開されているが、破壊は空爆ではなく、地対地ミサイルなど陸からの可能性も大である。
日本のメディアは写真付きでロイター電を大きく報道し、ここぞとばかり「ロシアの非人道的な無差別攻撃」を糾弾している。写真では猛烈な爆風で建物の窓は吹き飛び、内部の破壊もひどい。これで「17人の負傷」とはにわかに信じがたい。
さらに疑えば、誤爆だったかもしれないし、爆撃がウクライナ側の自作自演だった可能性すらある。
ウクライナ側の偽旗作戦でないことを明らかにしたうえで、ロシアを非難するのが報道のあるべき姿である。読み手もこれを胸に刻むべきだ。
ところで、マウリポリはロシア系住民の支配的居住地域であるウクライナ東部ドネツク州南部の都市。ウクライナ政府軍・親衛隊と分離独立派による激しい戦闘の舞台となっていると伝えられる。ウクライナ国家親衛隊の極右アゾフ大隊が拠点を置いており、ロシア軍は彼らの排除を軍事作戦の目標に掲げている。
案の定、翌10日のロイター通信によると、ロシア側は「病院をアゾフ大隊が拠点として占拠しており、攻撃した」との声明を出した。ラブロフ露外相も同様の発言をしたと伝えられる。
小児病院空爆、少女含め3人死亡 ロシア側は「過激派の基地」と主張 (msn.com)
日本時間の11日午前になってようやく、日本のメディアは被爆したとみられる建物の階段を下りる妊婦の写真(左)を掲載した。その顔には血らしき赤いものがついているが傷はない。パジャマは全く汚れておらず、不自然さをぬぐえない。
写真掲載が遅れたのはウクライナ当局の西側メディア(米通信社)への提供が1日以上遅れたためだけであろうか。爆撃の起きた9日に提供されていればすぐに配信、掲載されたはず。ではなぜ遅れたのか。疑問は尽きない。
ただロシアがウクライナに全面的に軍事侵攻したのは紛れもない事実。米NATOに付け入る隙を与えてしまった。
熾烈な情報戦の中、日本を含む西側メディアは個々の事象を慎重にチェックしたうえで報道してはいない。実態はその逆だ。ひっきりなしに入る情報を精査の余裕なく処理するのに精いっぱい。いずれにせよ一方に偏向していることだけは確かである。