田中金脈追及から半世紀経てまた「政治とカネ」の問題の浮上だ。それも文春砲とそれにリークした検察にすべてのメディアが踊らされている。つい先日までの岸田首相の低支持率とレイムダックぶり、辞任時期の憶測を巡る報道は忘れたかのように、12月13日の臨時国会閉会後に始まるとみられる政治資金パーティ「裏金」疑惑での自民党安倍派大物議員に対する強制捜査をスクープしようとの一点に全メディアの関心が集まっている。「他社に抜かれるな」「他社より1分1秒でも早く動きを速報せよ」ー。社会部、政治部を中心に”非常時体制”が敷かれ、記者、デスクから部長、編集局幹部までが徹夜態勢を敷く。「死んでもラッパを離すな」との皇軍兵士魂の脈々と生きるファッショ型報道が展開される。そこでは検察や文春と繋がる国外勢力=米権力中枢はどう動き、日本の政治をどうしようとしているのかという「最も大切な問題」が報道から抜け落ちてしまっている。
日本の検察庁や財務、外務両省は決して日本の「国民」に向かって仕事をしているのではない。彼らはワシントン、ニューヨークの米権力中枢の代理機関である。民主党政権で首相を務めた鳩山由紀夫や菅直人が退陣後告白したように、この代理機関が時の政権を動かす。ならば今回は何が蠢いているのか。それは戦犯容疑者から釈放された岸信介を祖とする復古主義右翼の主流派閥安倍派(清和会)を御用済みとして切り捨て、戦後保守本流ながら現在は第4派閥の宏池会を再び主流に返り咲かせる工作である。日米開戦に反対した対米協調派の樺山愛輔、牧野伸顕、木戸幸一、幣原喜重郎らとともに開戦後は早期終戦工作を行い、憲兵隊に逮捕された吉田茂を祖とする人脈が戦後保守本流である。吉田学校を引き継いだ元首相池田勇人が宏池会を創設し、宏池会支配の時期は霞が関のエリートを自負する大蔵官僚上りが総理総裁となる場合が多かった。この官僚派政治家人脈の末裔が岸田文雄である。吉田茂の孫麻生太郎は親ネオコンのタカ派となり宏池会を脱会し、米権力中枢に最も近い政治家となった。だが時折「大宏池会結成」の声を上げてきた。最大派閥となった安倍派を用済みとして切り捨てる実行部隊が東京地検特捜部なのだ。岸田政権生みの親麻生が米ネオコンと組み背後で暗躍している。この視点が既成メディアに欠けている。
今日、田中角栄失脚のきっかけとなった金脈問題やロッキード事件についてその真相がかなり掘り起こされてきた。しかし、1970年代の半ば、信濃川河川敷の土地ころがしが田中金脈として暴かれたのをきっかけに、田中には「金権政治家」のレッテルが張られた。そしてあのロッキード疑獄捜査は元首相田中の逮捕という結末を迎え、起訴された田中は闇将軍、キングメーカーとなった。これはヘンリー・キッシンジャーが回顧しているように、日中国交正常化、中東エネルギー・アラブ外交、対ソ連政策という田中政権によるワシントンの顔色をうかがうことのない独自外交が米権力中枢の逆鱗に触れたためである。田中追い落とし工作がCIAと文春の二人三脚で始まったことは今や常識となっている。だが、当時のメディアは今日の政治資金パーティ「裏金」疑惑を巡る動きと同様、金権政治問題のほかに「もう一つ重要な問題」があることを看過していた。田中を疑獄事件の主犯とした動きには謀略という側面があったことだ。
戦前の対米協調派はNYウォール街とワシントン国務省の米エリート人脈と結ばれていた。関係の深まりは、関東大震災の復興国債引受をJPモルガン銀行を中心とする米金融資本に委ねたことだ。麻生太郎の実母の父、吉田茂の養父吉田健三は英国商社ジャーディン・マセソン商会横浜支店長として日本政府を相手に軍艦や武器、生糸を売買し業績をあげた人物。吉田は養父の死後莫大な遺産を相続して英国人脈を受け継ぎ、駐英大使として外交官生活を締めくくった。麻生の祖母夏子(麻生多賀吉の実母)の実兄加納久朗は国際為替銀行として日本の貿易金融を一手に担っていた横浜正金銀行のニューヨークやロンドンの支店長として赴任。ロンドンで駐英大使吉田茂や留学中の麻生多賀吉と親交を結び、英経済人との交流・対話に尽力した。また牧野伸顕、近衛文麿、木戸幸一、原田熊雄ら宮中の反軍グループと連絡を取り合っていたという。ロンドン支店支配人となって国際決済銀行(BIS)理事会副会長にも就任している。ニューヨークではロックフェラー、モルガンらに加えロスチャイルドなどユダヤ金融資本家との交流を深めたとみられる。大戦中も日本国債の利払いを継続し、戦後の日本の信用力確保に努め、戦後はGHQと財界の連絡役となり、ドッジ・ライン実施に際してジョゼフ・ドッジに意見表明と情報提供を行った。
以上を念頭に入れただけでも、麻生太郎は加納のウォール街やロンドンシティ、さらには吉田のGHQとの深い絆を引き継ぎ、群を抜いた対米コネクションがある。米ネオコンが接近し、米英権力中枢の代理人役を果たすようになったのは自然な流れと思える。今回の政治資金パーティ「裏金」疑惑を読み取るには、この麻生のバックグラウンドの点検が必須となる。
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