欧米列強に対抗する新興国の結集体=E7 G7の衰退、ウクライナ戦争と対露制裁で加速

先進国首脳会議、主要国首脳会議と自称してきたG7の衰退が著しい。少なくとも30年前まではG7を「世界で最も裕福な国々の集い(the meeting of world richest countries)」と表現していたアジア、アフリカ、中南米のいわゆる第三世界・グローバルサウスの国々の近年の経済成長は著しく、かつて欧米列強と称されて世界を植民地化し収奪してきた旧宗主国に団結して対抗する動きを見せている。この動きはウクライナ戦争を口実とする米国主導の対ロシア制裁への反発で加速した。その旧宗主国代表の集いがG7であり、米欧日は追い詰められている。19日から開催されるG7広島サミットは初めて「グローバルサウスとの協調」を掲げた。だが時すでに遅し。米国と並ぶ超大国となった中国を筆頭に大半の国がG7に背を向ける中、5月19日に開かれたG7広島サミットは「斜陽を覆い隠せぬ」会合となった。

■G7に対抗するE7

中国、インド、ロシア、ブラジル、インドネシア、メキシコ、トルコは反欧・新興国としてG7に対抗する主要新興7カ国(E7)と呼ばれつつある。世界経済に占めるE7の国内総生産(GDP)シェアは10年以内に確実にG7を凌駕するとみられている。中国は明らかにG7広島サミットを念頭に置き中東、アフリカ、中南米、欧州に王毅外交担当国務委員、秦剛外相,李恵ユーラシア問題特使らが積極的な外交攻勢をかけている。習近平国家主席は中国・西安で5月18日から中国・中央アジア5カ国首脳会議を開いた。広島サミット前に行った日本の岸田首相の連休中のエジプト、ガーナ、ケニア、モザンビークのアフリカ4カ国歴訪、林外相の反米・ボリバル同盟加盟国を避ける形でのペルー、チリ、パラグアイなど中南米5カ国歴訪は、焦るワシントンの指示を受けての中国後追い外交であり、さしたる成果はなくバラマキ外交に終わったはずだ。

5月3日付の朝日新聞記事は「G7はロシアへの圧力を強めるためにもグローバルサウスをG7側に引き寄せようと躍起だ。」と報じている。これは事態を逆転してとらえたプロパガンダ記事である。新興国・途上国はロシアのウクライナ侵攻を口実に実施した対ロシア経済制裁が世界経済を混乱させているが故に、ウクライナでの米欧主導の対ロシア代理戦争に反発しているのである。したがってウクライナ和平を進めロシアへの圧力をやめない限り、「グローバルサウスをG7に引き寄せる」ことはできない。

実際、E7のうち広島サミットに招待されているのはインド、ブラジル、インドネシア。うちインドはG20の議長国、インドネシアはG20前議長国でASEAN現議長国であるため「招待を断れない」立場にある。中国の主導するE7は米欧で生み出されて久しいカジノ化したバブル資本主義が繰り返す金融危機の発生から身を守るため米ドルに代わる新らたな基軸通貨の形成に動いており、「グローバルサウスを引き寄せよう」とするG7の魂胆に乗るわけがない。ブラジルのジルマ・ルセフ元大統領がブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興国5カ国BRICSが創設した新開発銀行(上海「BRICS銀行」)の新総裁に就任した。これは米国主導の戦後世界秩序の象徴であるIMF・世銀体制に挑む新興国の並々ならぬ意思を象徴している。

■「米欧か、中国か」の選択拒絶

2022年3月2日に国連総会緊急特別会合でロシア非難決議に賛成に回らなかったのは52カ国。アフリカのエリトリアを含む5カ国が反対、棄権した35カ国のうちスーダン、中央アフリカ共和国、マリなどアフリカ諸国が17カ国とほぼ半数を占めた。ロシアはスーダン、中央アフリカ、チャド、ニジェール、マリなどの西アフリカにもネットワークを拡大し、資源開発などに協力してパートナー国を増やしてきた。2016年以降、ロシアの民間軍事会社ワグネルの傭兵がアフリカ大陸10カ国以で確認されている。

さらに「一帯一路」構想をグローバルに展開する中国はアフリカでも絶大な存在感を示している。中国の開発系銀行が2007年から2020年までにサハラ以南のアフリカで230億ドルに上るインフラ投資を行った。これは米国、ドイツ、日本、フランスの支援合計額の倍以上、世界銀行の支援額を上回る。これに対して、米国は昨年末、アフリカ49カ国とアフリカ連合(AU)との首脳会議をは8年ぶりにワシントンで開き今後3年間でアフリカ各国に対して550億ドルの支援を表明。AUのG20(主要20か国)のメンバー入りを支持した。日本は米国の意を受け中国に対抗して国連や世界銀行、AUなどと共催で1993年からすでに8回ほど「アフリカ開発会議」を開催している。

しかし、アフリカ諸国は「米国か中国、ロシアか」の選択を避けている。これは東南アジア諸国連合(ASEAN)のリーダー国・シンガポールのリー・シェンロン首相の発した「米国か、中国かの選択を迫るな」との姿勢と軌を一にするもので、暗に旧宗主国米欧による干渉と欺瞞に反発したものだ。ドイツの国際放送ドイチェ・ヴェレは、2017年9月にリー・シェンロン首相が中国を訪問した際「中国メディアは『外交政策を米国ではなく中国重視にへ方向転換した』と分析している」と伝えた。

欧米列強の植民地支配に苦しんできた第三世界=グローバルサウスの国際法規範についての見解は異なる。彼らは英国をはじめとする欧米列強が定めた恣意的な国境線引きにいまだ苦しんでいる。この国境線が数多の民族紛争の元凶なのだ。

地図を見れば、アフリカや中東地域の国境線は長い直線が非常に多い。人々が生活圏として自然に形成した集落や民族の境界が直線になることはあり得ない。湖、山、川などが自然発生的な集落の境界となってきた。直線の境界は政治の産物だ。

アフリカ地図に引かれた直線の国境線は、エジプトとリビア、エジプトとスーダン、リビアとチャド、アルジェリアとニジェール、アルジェリアとマリ・モーリタニア、マリとモーリタニア、ナミビアとボツワナ、タンザニアとケニア、アンゴラとナミビア、エチオピアとソマリアとの間に10本もある。1885年のベルリン会議以降「列強によるアフリカ分割」が行われた際の支配地の境界画定は列強各国の利害調整の産物だったアフリカ分割に参加した国は、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ポルトガル、ベルギー。現在の欧州連合(EU)の主要国であり、事実上ウクライナ戦争に加担する北大西洋条約機構(NATO)加盟国だ。AU(アフリカ連合)をG7に引き寄せるには欧米日はあまりに重い負の遺産を背負っている。

■「衝撃を受けた」とのマクロン発言

G7加盟国の中で危機感をいち早くあからさまに表明したのがフランスだ。マクロン仏大統領は2023年2月のミュンヘン安保会議で「我々がいかにグローバルサウスの信頼を失ったかに衝撃を受けている」と述べた。それはアフリカの旧植民地国が中国、ロシアの方に向かっていることの言い換えであった。4月に日本で開かれたG7外相会議の共同声明には「グローバルサウスと呼ばれる途上国・新興国との連携を重視し、アフリカ、中央アジア、中南米の国々との協力関係を深める方針」を掲げた。裏返せば米欧主導の世界が転換を迫られていることの表明である。ドイツのベアボック外相は「G7の結束が他国との隔たりになるのを避ける必要がある」と指摘し、「債務や飢餓問題への取り組みを通じ、新興・途上国の信頼を得ることが重要だ」と訴えた。

G7加盟国の中で中国、ロシアに対する姿勢で米英日と決定的な温度差を見せつけているのがドイツとフランスだ。本ブログでは2022年11月8日掲載の「独首相訪中の衝撃:G7を空洞化、中露主導の新ユーラシア構想への参入を促進」をはじめ4月20日掲載の「独仏、対中露政策で連携し、米国を翻弄 空文化する日本でのG7外相共同声明」、3月9日掲載の「ウクライナ戦争の真実①ー崩壊へと進む米英主導の秩序、ネオコンの焦燥」などで再三この問題を指摘してきた。またG7を拡大した主要20ヵ国の集いG20がウクライナ戦争勃発を機に米欧と非米欧諸国との意見の対立が激化し、機能不全に陥っている。新興国側が新たな独自な組織E7結成へと動くのは不可避な情勢となっていた。その背景については10月14日掲載の「米国の圧力跳ね返し「プーチンG20招待」貫いたジョコ尼大統領 「米欧主導の世界」に幕」などを参照されたい。

■第三世界けん引する中国

日米・G7応援団のような言葉を臆面もなく吐く御用学者は「G7の存在感は相対的に低下している。G7の世界経済に占めるGDPの割合が低下したことで、中露とグローバルサウスの一部を合わせてE7と呼ばれるようになったが、関係性は曖昧で、共通の概念があるわけではない。グローバルサウスの各国に対しては、インドが首脳会談を開いたり、中国が途上国にとって耳当たりの良い言葉で発展や安全保障などに関与したりする動きはある。しかし、グローバルサウスの各国も決して一枚岩ではない」「世界の中で有意義なまとまりを作っているのは、いまだG7だけだ。まずG7が連帯を示し、さらに賛同国を広げていくことで、十分に存在感を示せる。」(佐橋亮・東京大東洋文化研究所准教授)などとメディアに語る。

「欧州の戦略的自律」を目指す仏独の離反で一枚岩でなくなり、解体の危機を迎えているのはG7である。G7主導で拡大したG20も然りである。オスヴァルト・シュペングラーの『西洋の没落』(Der Untergang des Abendlandes、1918年)「全地球に広がっているヨーロッパ・アメリカ文化の没落の分析」として第二次大戦後も広く読まれてきた。発刊から1世紀経てのG7の顕著な衰退は「西洋の没落」をはっきりと示している。

また欧米諸国の植民地支配から独立したアジア、アフリカ諸国は1955年のバンドン会議に結集し採択された平和十原則に則り非同盟運動を展開した。独立したばかりで国力が著しく脆弱だった「第三世界の解放」を唱道したのが中国である。今日、40年余り実施してきた「改革開放」政策を実らせ超大国となった中国が非米欧世界をけん引しているのは自然な流れと言える。追い詰められた米英が中国を武力行使以外のあらゆる手段を用いて徹底的に攻撃し、事実上の一党支配である共産党体制を破壊しようとしているのはまた必然と言えよう。