「日本のウクライナ化」「日本は東のウクライナ」。こんな言葉がメディアに横行し始めた。2012年の3次アーミテージ報告書で要求された日米軍事統合の柱となる集団的自衛権の行使容認が2015年新安保法制施行で実現。2020年の5次報告書では「米国にとって日本は『不可欠かつ以前より対等な同盟国』」と米側はおだてあげた。だがその実態は、自衛隊を米軍の指揮下に置いて補完部隊とし、兵器もその開発もすべて米国が供給、実施し、日本全土が対中国核ミサイル基地化されることに他ならない。確かに日本の岸田政権は米英に代わって中国と戦う「東のウクライナ」になるよう強要されているが、相手の中国には日米・中対決の火薬庫とされる台湾侵攻の意思は希薄だ。中国封じの要衝であるフィリピンやインドネシアをはじめ東南アジア諸国は米英になびかず、韓国も米国と一線を引く。つまりロシアにとってのNATO東方拡大が中国にはない。あるのは兵器ビジネスを繁盛させる「台湾有事逼迫」の扇動だけだ。
扇動の主たる担い手は、商業メディアである。1月11日にワシントンで行われた岸田・バイデンによる日米首脳会談や2プラス2会合を受けての声明を読むと、その趣旨は「日本列島を軍事要塞とする」となる。1983年に訪米した当時の中曽根康弘首相はレーガン大統領と会談し、「日米両国は太平洋を挟む運命共同体」との認識を表明。米メディアとの朝食会では日本列島を不沈空母に見立てる発言をしたため、これが日米メディアで煽られた。国会では「専守防衛を逸脱している」と論議となった。メディアは「バックファイア」と呼ばれるソ連空軍の超音速爆撃機TU22M(ミサイル爆撃機)の侵入に対して日本列島を巨大な防壁とするというのが中曽根発言の真意と解説した。
今回の岸田訪米では日本列島を「盾」から「矛」へ転換する象徴となる「敵基地攻撃能力保持」宣言が最大の「土産」として献上された。奄美、沖縄から台湾に近接する八重山諸島に中国に向けたミサイル基地群が設けられ、敵基地攻撃体制の最前線作りは既に終えている。さらに敵ミサイル迎撃のための「統合ミサイル防衛(IAMD)、米日統合の「情報収集・警戒監視・偵察・ターゲッティング」のネットワーク(施設)を領海を含む日本全域に張り巡らすことになった。
敵基地攻撃の最前線とされた南西諸島が攻撃された場合を想定し、米側は離島防衛に即応する「海兵沿岸連隊(MLR)を設けるという。しかし、非武装の一般住民をどう救助するかについての言及はまったくない。南西諸島のみならずや日本本土の在日米軍基地や自衛隊基地が攻撃された場合の住民救助についても言及がない。「敵の基地攻撃ミサイルへの迎撃が失敗した場合は、米軍、自衛隊関係者と一緒に死ね」と言われているに等しい。
また米政権が昨年末公表した「核戦略見直し」(NPR)について協議され、米側は米国の「核の傘」で日本への攻撃を思いとどまらせる「拡大抑止」を日本側に再確認させたと報道された。同じ言葉が反覆されている。問題は「核持ち込み自由」で有名無実となっているはずの非核三原則遵守だけではない。「拡大抑止」は「自国だけでなく、同盟国など他国が攻撃を受けた場合にも反撃する意図を示すことで、同盟国等への攻撃を思いとどまらせること」と定義されているが、その信ぴょう性はゼロである。同盟国が核攻撃されたら、自国が核で報復されることを前提に同盟国の敵に核攻撃することなどありえないからだ。
すべてが米英の利益に沿ってことが進められている。日本にできることは指示に対する「イエス」という返答だけなのだ。すべて国会での論議を無視し閣議で決定した。完璧な民主主義の破壊だ。これが戦後78年目の米日関係の厳然たる現実である。とにかく米欧兵器産業ビジネスとそれを取り巻く巨大な既得権グループへの日本の大衆の反逆ー。もはやこれを待つしかない。
ある台湾ウオッチャーは、「中国の習近平国家主席は2023年の『新年のあいさつ』で、台湾民衆に向け、(台湾海峡の)両岸は家族であり、両岸同胞が幸福のためにともに歩もうという、極めて穏健なメッセージを送った。台湾統一には一切触れず、1年後に控える台湾総統選での政権交代の可能性を意識して、中国との関係改善こそが台湾に「平和、安定、発展」をもたらすと、台湾民衆に直接訴える『和平攻勢』に出た。」と伝えている。
また2022年12月8日掲載記事「『中国の台湾侵攻』はないー」 ようやく現れた日本人の良識論」をはじめ、中国指導部の台湾に対する姿勢とプーチン・ロシアのウクライナ東部(ルガンスク)領有権を巡る主張との「大きな距離」を冷静に観察している議論に注目すべきである。