日米合作で岸田政権延命も つばさの党国策捜査で立民攻撃、自民浮上?

5月20日掲載記事「「日本」という宿痾ー岸田政権にみる延命のための服従」で「岸田首相は『自民党総裁再選で米国が全面支援する』との密約も取り付けたようだ」と推測した。自民党は4月の3つの衆議院補選で全敗、5月の静岡県知事選でも敗れて岸田政権に不信任が突き付けられた。だが総裁選まで4か月を切っても岸田降ろしの動きはまったく表に出ない。支持率は危険水域の30%を大きく切り20%ラインすら下回るようになって久しい。「このまま岸田政権下で総選挙をやれば自民は大きく過半数割れし、政権交代もある」と考えるのが常識である。だが岸田総裁の椅子は揺れていない。体どうしたことか。謎解きのカギの1つは「つばさの党」幹部逮捕で警視庁が特別捜査本部を設置したことにある。捜査を進展させて、9月の総裁選前に総選挙を実施。有権者に対しかつての「悪夢の民主党政権」というネガティブキャンペーンを徹底増幅させ、後継の「立憲民主党」を惨敗させるー。これが日米合作の自民党政権存続の道であり、岸田政権延命にもつながりそうだ

■検察介入、政治色帯びる特別捜査

4月の衆議院選補選で東京15区補選における「つばさの党」の代表らの敵対する陣営への行動が話題になった。敵陣営の弁士が選挙カーの上で演説していると、自陣営の選挙カーを接近させ、聴衆との間に割って入り、さらには真向いの公衆電話の上に座って、拡声器を使って大音量で怒鳴るなどかつてない異様な選挙活動を展開した。これを受け、警視庁は5月17日、つばさの党代表の黒川敦彦(45)、補選に立候補して落選した党幹事長の根本良輔(29)ら3容疑者を公職選挙法違反(自由妨害)で逮捕した。そして18年ぶりに、特別捜査本部を設けた。

警察が進めているのは逮捕容疑の「選挙の自由妨害」を巡る捜査ではない。警視庁は警視総監を本部長とし、捜査に東京地検を介入させる異例な特捜体制を組んだからだ。殺人事件などで設置される捜査本部は所轄署の署長か警察本部の部長クラスが本部長を務める。特別捜査本部が設置されたということは事件を極めて重大な案件と位置付けているからだ。これは事件捜査が濃い政治色を帯びた国策捜査であることを示唆している。黒川容疑者と袂を分かった元NHK党の立花孝志は、2023年統一地方選挙の最中に投稿したユーチューブ動画で「都内で応援演説していると、黒川たちから猛烈な攻撃を受け、たまらず所轄署に相談したら二人の刑事が現場に立ち会ってくれた。」「しかし、検察が『立件は難しい」と首を縦に振らず、結局、強制捜査に至らなかった」と証言している。それが今回、一転して検察が捜査にまで介入してきたのだ。東京地検特捜部とワシントンがつながっていることは戦後史を多少なりとも学べば理解できる。上に「捜査は濃い政治色を帯びている」と書いたのはこのためだ。

つばさの党幹部摘発へ踏み切ったのは2024年5月半ば。9月末の自民党総裁選まで残すところ4か月だった。検察当局は黒川容疑者らを摘発して「背後関係」の解明とさらなる関係者摘発へと発展させ、総裁選前に予想される6月にも解散される総選挙で反自民勢力に致命的打撃を与えようとしているのではないか。反ワクチンや陰謀論を唱えている活動家と貶められた黒川容疑者に率いられる「つばさの党」は一部勢力から執拗に“陰謀論の総合商社”と揶揄されてきた。政見放送で「世界の政治と経済はロスチャイルド、モルガン、ロックフェラーなどの金融財閥に支配されている」と語った黒川容疑者は安倍暗殺直前の2022年6月にNHK党幹事長として参院選前のNHK日曜討論に出席=写真。「安倍晋三氏は外国勢力の統一教会と癒着」「(統一教会同様)CIA資金で作られた自民党は日本国民のための政党ではない」と発言。その後「安倍のせいだ、安倍のせいだ、おじいちゃんの時からCIA」と歌い始めた。前代未聞のパフォーマンスだった。だが主張は総じて正鵠を射ている。黒川容疑者の振舞い方の是非はさておき、このような常識の範疇に入る告発を陰謀論として排除したい勢力米英権力中枢であり、その代理者らが自分らの陰謀の露呈を恐れて「陰謀論」を流布しているにすぎない。

 

 

■米の悪夢:「対米自立」での左右共闘

2012年末に自民長期政権に代わった民主党政権はわずか3年で崩壊した。政権復帰した自民党の安倍第二次政権は「悪夢の民主党政権の3年」と執拗に貶め攻撃した。安倍政権は安保外交政策を最重視する米側の指示通りに団的自衛権行使を閣議決定で容認し、自衛隊を米軍の指揮下に置く補完部隊とした。その後、岸田政権は防衛費倍増の大軍拡へと踏み切り、中国を睨む東シナ海の南西諸島に敵基地ミサイル攻撃のための自衛隊基地を設け、けなげなまでに中国包囲網形成に尽力した。民主党政権、とりわけ鳩山由紀夫政権が自主独立・対米従属脱却を強く掲げたことは「宗主国」米国にとって悪夢であった。米権力中枢の意思に忠実に従わざるを得ない安倍二次政権に「悪夢の民主党政権」を繰り返し唱えさせ、日本に対米自立を唱える野党勢力へ二度と政権を渡さないとの強固な意思を米国に代わって表明させたとみるべきだ。

つばさの党の主要政策をみると、「対米自立・反グローバリズム(日本は地位協定など不平等条約をいまだに米国と解消できず、対等な立場ではありません。対米自立は反米ではありません。NOを言える日本として、多国籍企業が日本市場を食いつぶすグローバリズムに対抗していきます)」を柱に「中央銀行制度の抜本改革(今の日本は実体経済にお金が回らずに、金融経済にばかりお金が集まる歪んだ資本主義になってしまっています。中央銀行制度を作った国際金融資本家から、通貨の発行権を民衆の手に取り戻し、信用創造する権利の民主化を目指します)」、「消費税ゼロ・金融資産課税(消費税は実際には福祉にほとんど使われていません。大企業の法人税を下げる一方で、庶民に対する課税を増やしてきたから、 大企業の内部留保は増え続け、実質賃金は下がり続け、現在のような格差社会になってしまいました。消費税は廃止し、大金持ちの金融資産にほんの数%課税すればいいのです)」がある。

さらに「ベーシックインカム・ベーシックキャピタル」(現状の社会保障は維持した上で、国民に一定のお金を毎月配るベーシックインカム。基本的人権としてのベーシックインカムを保障する……)を訴え、跋扈するグローバリズムや新自由主義に対決する欧州の社会民主主義政党で議論が進められている福祉政策の再構築を試みようとしている。ところが政治を民衆の手に取り戻そうとする極めてリベラルな政策を挙げる一方で、左翼・リベラルの自称を拒むようになった「つばさの党」は男系男子皇統の護持や神道的世界観の維持を挙げ、対米自立を唱える右翼勢力と同調しようとしている。

日本の右翼には「対米自立には核武装が必須」と唱え、日本社会に一定の影響力を持つグループがある。右派政治団体「くにもり」を中心に2024年5月末に東京都心で1万人規模とされる「、反ワクチン、反グローバリズムを訴え、スローガンの「日本を取り戻せ」を叫んで厚生労働省経由のデモ行進を行った。日本の公安機関と米諜報機関にとって警戒すべきは同じく反ワクチンを唱える「つばさの党」がこれと連携することだった。黒川容疑者は数年前からこの団体主催の討論会に出席するなど、共闘を始めている。本ブログは一貫して米国の対日占領政策の要諦は「共産主義者・社会主義者とともに反米右翼勢力を同時に封じ込めることにあった」と強調してきた。経済格差の著しく進む今日の日本の状況下では、「対米自立」勢力が左、右の壁を越えで協同を進めればある時点で支持が急拡大する可能性はある。「つばさの党」が特捜対象になったのはこのためと思われる。TVを含め一般メディアが上記大規模集会デモを報じることはなかった。

■”選挙の神様”・元全学連活動家の支援

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構や大阪大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー(VBL、現大阪大学産学共創本部)の研究員を兼任し起業家を志していた黒川容疑者は2008年リーマンショックで「今の金融業界に未来はない」と考え、故郷の愛媛県今治市に戻りミカン栽培や地域振興事業などに従事していた。2015年に安倍政権は集団的自衛権行使容認に伴う新安保法制施行を強行、地元今治では加計学園グループ岡山理科大学獣医学部新設計画で当時の安倍首相の関与があったとの疑惑が持ち上がる。2017年5月、市民団体「今治加計獣医学部問題を考える会」を結成して共同代表に就任。民主党を継承した民進党の「加計学園疑惑調査チーム」の会合で講師を務めて政界と接点を持ち、反安倍論者としてマスメディアに登場するようになった。

加計学園問題で名を知られるようになった黒川容疑者に無党派選挙運動のプロと呼ばれる人物二人が接近した。両人とも黒川とともに2017年9月に都内で開かれた「森友・加計・新党構想」をテーマにした講演会に参加し、黒川はその後の政治活動で”選挙の神様”とされる二人に指示されるようになったとみられる。

その一人が三派系全学連の元学生運動家斎藤まさしである。1983年田英夫社会民主連合代表や八代英太宇都宮徳馬らとMPD・平和と民主運動」を立ち上げ、1996年には「市民の党」を結成し関東圏を中心に無党派候補者を地方議会に送り込んできた。1980年総選挙で菅直人元首相が初当選した際に選挙を応援。主に民主党から国政選挙に立候補した候補者の選挙支援を目的とする政治団体「政権交代をめざす市民の会」も立ち上げ、約100人の選挙支援を行った。中村敦夫(元参議院議員)、秋葉忠利(元衆議院議員、前広島市長)、堂本暁子(元千葉県知事)、嘉田由紀子(参議院議員)、川田悦子(元衆議院議員)、大河原雅子(衆議院議員)、黒岩宇洋(元衆議院議員)山本太郎(参議院議員)、喜納昌吉(元参議院議員)ら多数が当選した

もう一人の田中正道の経歴は詳しくは不明。父親が反社組織の構成員で自らも一時ヤクザとなって服役経験もあるとの説も流されている。風貌からも左翼活動家にはみえない。しかし、上記2017年9月の黒川とともに出席した講演会には「写真右=。したがって斎藤まさしとともに1990年代から主として民主党候補者の支援活動に従事してきたとみられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

中核派の活動家だったと言われる斎藤まさし(上の写真左、右は田中正道)が支援してきたのは主として民主党のリベラル派である。2017年10月、小池百合子東京都知事の提唱する「希望の党」と合併しようと旧民主党民進党が動いた際、小池が(日米安保維持、改憲で一致しない)人は排除すると発言。この時一部メディアは「リベラル派大量虐殺」と報じ、リベラル派は立憲民主党結成と動いた。

■リベラル派徹底排斥も

1991年のソ連邦崩壊に伴い、90年代半ばには日本社会党も消滅。多国籍資本の進めるグローバリズムと新自由主義に対峙し、安保破棄、護憲、原発ゼロを掲げ、労働者保護・格差是正を重視して最低賃金 、労働条件の規制、労働時間の制限、労働者の 団結権の確保などを訴える中道左派を含むリベラル派の数は激減した。ソ連邦崩壊が社会主義・マルクス主義の完全敗北と受け取られた日本では草の根の保守主義と反共意識が跳梁跋扈、左翼は右翼と同様、一般人のタブー・危険思想とされた。それに付け込んだ米英多国籍資本によるグローバリズムの嵐が吹き荒れ、労働組合はほとんどが御用組合と化し、学生運動はなりを潜め、大学は就職予備校となり、日本企業の有力株主には外資が名を連ね、非正規雇用率は日雇いを含め50%に迫り、若年者中心に年間自殺者は3万人を超え、日本人労働者の実質賃金も日本のGDPも減少の一途。長いデフレ不況が続く、いわゆる「失われた30年」である。

小池率いた希望の党による民進党(旧民主党)吸収は日本における二大保守政党体制形成の企みであった。したがって日米安保に異議を唱える、つまり対米自立・反米派は徹底排除して米国に従順な親米党派で日本の政界を埋め尽くそうとする試みであった。この動きの背後に米権力中枢の意向があるのはいうまでもない。日本の政界から反米野党勢力を排除して翼賛体制を構築する動きが起き、それは今日も続いている。共産党の孤立と並び、立憲民主党をいかに解体するかが大きな課題となっている。上記斎藤まさしや田中正道、さらには資金を含め「つばさの党」や黒川容疑者を援助している人物が特捜本部のターゲットになっているはず。

「つばさの党」摘発は大掛かりな上記リベラル派の粛清へとつながる可能性がある。例えば、民主党政権で首相となった菅直人と斎藤まさしは菅の衆議院初当選以来の付き合いという。何らか活動資金に絡む問題をでっちあげて斎藤や田中を事情聴取あるいは身柄拘束し、菅や民主党リベラル派を過激派上りとして週刊誌メディア、テレビ、新聞、ネットを総動員して攻撃すれば立憲民主党は致命的な打撃を被る。「国民の平和と暮らしを守る」を目的に緊急避難政党として2019年5月に小林興起黒川敦彦天木直人らによって政党連合「オリーブの木」が結党された際、斎藤や田中らも関わっている。彼らは反安倍政権・対米自立・護憲の立場を共通とする政党連合・一つの政党となることで「参院選での共通議席獲得」を呼びかけた。下の写真にみられるように、この際、田中は小沢一郎、菅直人、日本共産党トップ、立憲民主党有名幹部らと交流したのではないか。この写真はどのようにでも悪用できる。米諜報機関は邦字メディアに深く入り込んでいる。

黒川容疑者は2019年の参議院選挙後に右翼勢力と近づき始めたようだ。政治団体「オリーブの木」が護憲対米自立反グローバリズムの点で結集したたため、反米右派も加わりやすかったようだ。しかし、参院選敗北後に、これに嫌気をさした著名な小林興起元衆議院議員や元外交官の天木直人らの脱会が相次いだ。過激な「選挙妨害」活動開始後、斎藤らと黒川容疑者との付き合いがどうなっているかは不明。だが右翼と付き合い始めた黒川が靖国神社に参拝したり、右派政治団体主催の討論会に出席したことで絶縁している可能性が高い。ただ黒川や根本らの2024年4月衆院補選での過激なパフォーマンスは1960年代後半の全共闘活動家の大衆団交などでの派手なふるまいを彷彿させるものがある。今日の日本の政治状況に絶望してのふるまいとも読める。

 

■岸田政権延命はあるのか

岸田首相の「お膝元」である衆院広島1区にある府中町で5月26日投開票された町長選で自民・公明推薦候補が落選。首相の選挙区では昨年11月の海田町長選でも自民推薦の現職が敗れており、今総選挙すれば岸田首相自身が落選するとの声も上がり始めた。こんな中、木下博勝医師がインスタグラムで「自民党関係者から、驚いたことに、岸田総理は、次の総裁選も自分が勝てると思っているらしいとの情報に接した」「流石に支持率やその他を勘案しても、到底難しいとは感じないのだと驚きました」と伝えている。

岸田政権の存続のためには9月末の総裁選挙前に解散総選挙を実施して自民党を圧勝させ、無選挙で総裁選を乗り切るほかはあるまい。支持率上昇策はあるのか。バイデン米政権はNATOに事実上加盟してのウクライナ援助を理由にノーベル平和賞の授与をノルウェー政府に働きかけているというが、9月の総裁選には間に合わない。ならば北朝鮮を電撃訪問し拉致被害者と同時帰国するしかあるまい。米英の対北裏ルートの助力を得て、これが実現する可能性は低くない。だがかりに成功したところで小泉劇場的な成功を期待できるのか。だめなら残るは「つばさの党」事件を一大政治スキャンダルとし、総選挙圧勝の道を開くしかない。岸田本人は「次の総裁選も自分が勝てると思っている」と言うのだから…。逮捕者は計何人になるのか。起訴初公判の期日、起訴状や冒頭陳述の内容。それらは総選挙、総裁選期日を睨みながら決定するのではなかろうか。今後3か月の動きに注目したい。