本格捜査は期待できず 「桜を見る会」事件雑感

本ブログでは安倍復活、来年9月にも再々登板あり、と繰り返し書いてきた。退陣後の安倍前首相の異様なまでの”活躍ぶり”はここで繰り返し指摘するまでもない。菅首相・二階幹事長ラインがこれをどうみているかが気になった。こんな中、安倍首相(当時)主催の「桜を見る会」前夜に安倍氏の後援会員を招いて開いた「前夜祭」に安倍氏側が数百万円を補填していたことがホテル側作成の領収書と明細書で判明した。これで安倍氏の国会答弁が虚偽だったことが明らかになり、東京地検特捜部が捜査に乗り出した。背景をどう見るべきか。

■虚偽答弁判明で政治生命尽きる?

日本共産党の機関紙・赤旗などによると、安倍氏側が2019年までの5年間に、費用の不足分として総額約916万円を負担していたことが分かった。支払いを受けたホテル側が発行した領収書の宛名が、安倍氏が代表を務める資金管理団体「晋和会」だったことも判明。東京地検特捜部は、安倍氏側が不足分を補塡していたことを示す証拠とみて、政治資金規正法違反(不記載)にあたるかどうかを調べているという。

問題は、安倍氏が国会答弁で「すべての費用は参加者の自己負担で支払われており、事務所や後援会の収支は一切なく、政治資金収支報告書に記載する必要はない」と説明、「ホテル側から明細書の発行はなかった」と述べていたことだ。さらに安倍氏は本会議、委員会などでの答弁で、「事務所は関与していない」が16回、「明細書がない」が10回、「差額の補填はしていない」は7回にのぼるほか、当時官房長官だった菅義偉首相も同様の答弁を繰り返していた、と赤旗は伝えている。

「権力追及」を売りにする日本の一部メディアは、事件を仕掛けたのは菅官邸で、「安倍の来年9月の復権に向けた動きを官邸が検察を使って封じようとしている」「虚偽答弁判明で安倍の再々登板はなくなった」という線で報道している。確かに、黒川東京高検元検事長の定年延長と検事総長就任のとん挫で現在の検察首脳は安倍氏への過剰な忖度を必要としないのかもしれない。

■米国からのシグナル

しかし、東京地検特捜部はワシントンと深く繋がっている。日本学術会議問題で野党の杉田和博官房副長官の国会での証人尋問要求が一月も経たずに雲散霧消したように、安倍氏本人の年明け通常国会での尋問も、任意にせよ検察からの事情聴取もないまま、この「事件」はものの1月で越年とともに立ち消えになるように思えてならない。

特捜の「捜査着手」とそのリークは米国からの何らかのシグナルではないのか。

安倍氏公設秘書の任意事情聴取は、中国と日本を核とした世界のGDPの3割を占める東アジア15カ国による地域包括的経済連携(RCEP)の調印、習近平の環太平洋経済連携協定(TPP)参加意向表明、そして延期されている習近平国賓訪日の瀬踏みとも思える中国の王毅外相の訪日と時期が重なった。

ここで想起すべきは米国が民主、共和両党の壁を越えて「日本の対中融和」を強くけん制していることだ。

ワシントンの超党派のシンクタンクで対日司令塔「戦略国際問題研究所(CSIS)」は今年7月に「日本における中国の影響力」と題する報告書を作成し、発表した。そこで安倍前首相の対中姿勢を対中融和の方向へ大きく動かしてきた人物として首相補佐官の今井尚哉氏の名を明記。さらにその今井氏が長年の親中派として知られる二階俊博自民党幹事長と一体となって米国の意向を無視するような形で親中政策を推進してきた、と非難した。報告書作成には米政府も直接かかわったとされる。

■対中融和は許さず

想像するに、オバマとともに対中関与政策をかなぐり捨てたバイデンの陣営は安倍氏に「復活したければ今井をはじめ対中ビジネス拡大に執着する経産省側近グループを切り、自民党親中派を締め上げよ」と指示しているはずだ。これに従えば、恐らく「桜を見る会」の捜査は秘書在宅起訴レベルでのトカゲのしっぽ切りで終わり、安倍氏は禊(みそぎ)をすますことになる。

もっとも、来年1月20日の米新政権発足までの「空白期」に特捜捜査が行われたことは菅・二階ラインが検察と組んで安倍をけん制しているとの見方も成り立つ。だがやり過ぎれば自分たちの尻に火が付くことを彼らは誰よりも自覚しているはずだ。

かつてソ連封じのためならナチスにすら資金援助したウォール街をはじめ米保守本流にとっては日本で起きている「桜」騒動など蠅の羽音にも足りない些末事である。彼らは中国封じに最も役立つ日本の政治勢力を「この程度のこと」で潰すことはない。