9月13日掲載記事「安倍暗殺事件公判準備を巡る4つの謎」で指摘したように、6月12日に奈良地裁へ配送された大量の減刑嘆願書が入った郵便物に金属探知機が作動したというサル芝居ががった”不審物”騒ぎがあり、予定されていた「公判前整理手続き」は無期延期されていた。しかも「第1回公判前整理手続きの期日は取り消された」と報道された。不審物騒ぎは期日を取り消すほどの重大事件では決してなく、速やかに再設定すべきであった。10月に入るとようやく「奈良地裁は13日午前10時に第1回公判前整理手続きを開く」と発表され、予定通り開かれた。
ところが、である。
報道を見る限り、弁護人はメディアに山上被告の欠席を告げ、「弁護側から検察に対し証拠開示請求を行い、手続きは約20分で終了した」と述べただけだ。しかも次回整理手続き期日は未定。裁判員裁判の導入に伴う公判前整理手続きの目的は「裁判の迅速化と充実化」にある。安倍暗殺事件の公判の流れは明らかにこれに逆行している。
メディアはこれに一切疑義を唱えない。疑わないメディアは報道機関に値しない。英字紙には18個のピューリッツァー賞を受賞しているフィラデルフィア・インクワイアラー(The Philadelphia Inquirer)をはじめinquiry(問い、探求)する人を指すインクワイアラー(Inquirer)と命名された新聞が多い。権力の行使を監視しながら「問いかけ」、行使のあり方を徹底して疑い、真相を「探求する」ことこそジャーナリズムだからだ。
山上被告の弁護人に対し、「欠席した被告人に不利益はないのか」「なぜ手続きをわずか20分で終わらせたのか」「次回手続きの期日はなぜ未定なのか」「証拠開示請求で検察にどんな要求をしたのか」「検察はいつ、どの程度証拠開示を行うと答えたのか」等々の基本的な問いを投げかけた報道機関は見当たらない。少なくともこれらの問いかけがあったとの報道は一切ない。整理手続き初会合が20分で終わったとすれば、それは裁判所や検察が「木で鼻を括った」対応をした証である。この「20分会合」すら伝えなかった方が報道機関の絶対多数派である。
安倍暗殺事件はさらに闇に覆われつつある。繰り返すが、前回指摘したように「警察、検察と裁判所がタッグを組み、それにメディアが加担して山上被告と弁護人の主張をできるだけ矮小化しようと動いている」とみなさざるを得ない。ただし弁護人が司法当局に対して毅然とふるまっているとは思えない。報道内容から判断すると、腰抜け対応と言える。
参照記事:安倍暗殺事件公判準備を巡る4つの謎 永遠に交わらない事件の「真相」と山上被告の起訴事実 | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)