お茶大付属校と筑波大付属校は一本の道を隔てて隣接しているという。その道にまるで橋を架けるかのように特例、期間限定の「提携校進学」制度が設けられ、秋篠宮長男がこの橋を渡って3年。今度は試験とは名ばかりの論文と面接で自宅から2時間を要する茨城県つくば市の筑波大学へとたどり着いた。英国の庇護を受けた薩長藩閥政府は近代天皇制という絶対権威を盾に、帝国領土拡大・アジア侵略を目標にひたすら軍事強国の道を歩んだ。1945年にこの「攘夷のための開国策」は破綻。天皇制はかろうじて存続したが、昭和天皇後の「純象徴天皇」第三代の座を巡り、主権者国民の総意とはまったく離れたところで暗闘が展開されている。
注:2022年10月掲載「右傾化の起点・筑波大学開学50年 統一教会、左派排除、皇室忖度、体制順応を助長」を参照
■危うかった皇室存続
1945年9月2日から正式に始まり、7年に及んだ米国の対日占領統治。翌1946年11月に公布された日本国憲法は獰猛な日本軍国主義を率いた統帥権者天皇を象徴天皇制という檻に閉じ込めた。とはいえ、東京裁判への天皇訴追と天皇制廃止を主張する国が多数派の在ワシントン極東委員会と新憲法草案を起草した連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)民生局とのし烈なバトルに東京のGHQがかろうじて勝てたためである。
極東委員会は日本を連合国が占領管理するために設けられた、11カ国の代表からなる最高政策決定機関。GHQも同委員会の決定には従うものとされたが、GHQは極東委員会が本格的に動き始める前に大急ぎで新憲法草案をまとめ日本の国会に提出した。建前上、日本政府による草案としタッチの差で極東委員会の介入を免れた。「GHQによって日本国憲法が9日間で起草された」といわれるのはこのためだ。天皇制はこうしてぎりぎり生き残ったのに、右翼民族主義者は「占領軍によるペイスト押しつけ憲法。日本を貶めた」と反発してきた。歴史の皮肉というべきだ。
■天皇制の自然消滅図る?
もう一つの大きな要因は戦前・戦中の天皇側近・宮中を中心に日本の支配層中核に対米協調派が存在し、彼らと結ぶウオール街が天皇制存続を支援したことだ。中村正則の「象徴天皇制への道ー米国大使グルーとその周辺」(1989年)などがこの間の事情を明らかにしている。だが米英側は100年も過ぎれば日本の天皇制は自然消滅へと向かうとみていた節がある。
それはGHQが天皇直系を除く宮家の廃止で皇族数を激減させ、さらに天皇の「男系男子」限定を継続させたことではっきりしている。その思惑通りに、現天皇に男子はおらず、今や皇嗣秋篠宮を除けば、次代の天皇となれるのは秋篠宮長男だけとなった。
加えて戦後の平民出身の皇太子妃、皇后さらには秋篠宮妃への宮中人脈とメディアからの徹底バッシングや浩宮の乱(2004年)が明らかにした異様なプレッシャーを体験してきた今や、来春からつくばに通学する秋篠宮長男に嫁ごうとする女性は皆無となる恐れ大である。万一結婚しても男子が生まれる保証はない。現代史研究者によると、秋篠宮は「できれば皇室を離脱したい」と漏らしたことがあるという。
■お世継ぎ巡るバトル
神社本庁や反米右翼団体を筆頭にいわゆる岩盤保守層は男系男子にこだわるが、大勢は女系天皇容認に向かっているとみてよい。それは極右民族主義者らの夢想する「126代にわたる世界に例のない皇統を引き継ぐ男子が統治してきた神国」神話を封じ込めるには、まずは男系男子世継ぎという家父長制度を破壊し、”柔らかい皇室”の制度化を望んでいるからではないか。日本を管理する米英はこの現人神出現の源泉・神国神話の破壊を必要としてきた。そこに現天皇の子が女子一人であることは絶好のチャンスであり、今やメディアも総じて天皇長女を「人徳ある聡明な女性」と絶賛し始めた。
天皇長女が2001年に誕生すると皇室典範の見直しの動きが急となった。男系男子の世継ぎ断絶の危機が訪れたからだ。そんな中、秋篠宮妃が2006年に40歳の高齢出産で男子を生んだ。女系天皇容認の動きはしぼんだ。
なぜ秋篠宮夫妻は自分たちが学んだ学習院を避けたのか。推定の域を出ないが、秋篠宮長男は現天皇の弟の子というハンディがある。このため「平民の学ぶ”高学歴”大学」を卒業させ、キャリアを積ませ、世間に対し新たな天皇像を築くと訴えたかったのではなかろうか。高校時代から研究者を集めトンボ研究論文作成に協力させたり、2021年北九州市主催の「第12回子どもノンフィクション文学賞」に応募して入賞した。こうして高い観察力と執筆能力があることを世間に周知させようとしたものの、明らかな盗用ペイストがばれて評価は地に墜ちた。
この事件はそもそも長男が作文を主体的に書いたのではなく、研究者を含め取り巻きによる合作ではないかと疑われる。「ご指摘に感謝。参考文献を記載すべきだった」との本人によるとするコメントが出されている。しかし、これからの大学での勉学においても同じ状態が、つまり同じメンバーによるサポート体制が続くとの疑念は払しょくできない。これまでの企てはことごとく失敗したように思われる。
幼稚園から大学まですべて推薦で入学したことは庶民の激しい反感を呼んだ。この推薦自体がサポート体制である。特権入学と大半が感じているだろう。
■かえって反感を増幅
皇室忖度の筑波大学=写真=は長男受け入れ積極派の永田恭介学長を異例の10年を超えて在任させている。永田学長の下、同大は国立大学協会長ポストも初めて得た。これから続く「筑波大学ご入学」報道フィーバーは統一教会で汚れた同大学のイメージ払しょくばかりか最大の「広告塔」になると踏んだようだ。
筑波大は今回の推薦要件に「生物界や生き物の仕組みに関する広い興味を有し、調査書の学習成績概評A段階に属する者」を入れた。これも都内からつくばへ長い長い「特別進学橋」を架けたと揶揄されても仕方あるまい。周りの「ヨイショ」に実力がついていけなければ、かつての中学時代の作文応募と同様、長男は周囲のさまざまな思惑に振り回されて主権者・国民の反感と失望を増幅させ、かえって「天皇にふさわしくない人物」との評価を生む可能性は大いにある。
■岐路か末路か
いずれにせよ政官財学の既得権益者、保守層の間では男系男子継続派と女系天皇容認派とが水面下で激しく争っている。
1867年の王政復古の大号令に伴い元号を明治と変えて生まれた近代天皇制は「攘夷のための開国策」=列強キャッチアップ型軍事強国政策の支柱となった。天皇制は攘夷の挫折=1945年敗戦という未曽有の激震にも耐え、象徴として生きながらえた。日米の巨大な既得権益者に支えられて象徴天皇制は存続しているものの、今や国連が「男系男子限定」の変更を勧告するなど大きな岐路に立っている。
岐路でなく末路に向かうのであれば、ようやく明治体制・近代天皇制は終焉へと辿る。それは対米従属脱却と重なるはずだ。
参考記事
象徴天皇制は自壊へ GHQと「小室真子」誕生 2021/10/21
「小室夫妻NY亡命が示唆するもの 米国の私的権力と天皇家の絆」 2021/12/02