米・日・比の対中軍事連携阻止へ 岸田、マルコス訪米で動くドゥテル前比大統領陣営

シンガポールからの報道によると、米中二大国のうちどちらか一つと同盟を結ぶことを余儀なくされた場合、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10か国では中国を選ぶと答えた割合が米国を上回り初めて過半数を超えた。ASEAN諸国は近年、ワシントンに対し「中国、米国の二者択一を迫るな」と反発。日米が共同してASEANに中国包囲網への参入を誘ってもベトナムを除きそっぽを向かれてきた。フィリピンでは反米路線を打ち出したドゥテルテ政権が2022年6月に任期満了に伴いかつての独裁者マルコスの息子政権に代わって状況が一変した。マルコスJr大統領は4月に訪米する日本の岸田首相と歩調を合わせワシントンを訪問、米・日・比が共同しての対中軍事連携を討議する。こんな中、6年間の脱米自立の外交努力を台無しにするマルコスJrにドゥテルテ陣営が”宣戦布告”した。

現地からの報道によると、今年1月に、2020年に二人三脚の形をとりフィリピン正副大統領選を制したマルコスJrと前大統領の長女サラ・ドゥテルテの蜜月が終わったとされる。2028年の次期大統領選の最有力者のサラ・ドゥテルテ副大統領が辞任を示唆したのに続き、弟のダバオ市長セバスティアン・ドゥテルテがマルコスJrに公然と辞任を求めた。すると父親の前大統領も憤然とマルコス批判を始めた。ひとえに政権移譲の約束である「米国、中国いずれにも偏らない外交路線の維持」をマルコスJr政権が放棄し、米国にすり寄ったためである。さらにマルコスは1986年に国外逃亡した父マルコスは独裁者ではなかったと主張、マルコス家が国富を簒奪したことはないとも発言。20年あまりに及んだ戒厳令下で苦しんだ国民を憤慨させている。

最も議論となっているのがマルコスを追放した1986年政変を受けて民主主義と人民の自由を保証し、戒厳令発布を制限する1987年制定の現憲法の改正をマルコス陣営が提起していることである。表向きは「現憲法は外資規制が厳しく、外国企業誘致の障害になっている」として規制の緩和に向けての改憲を訴えているが、ドゥテルテ陣営は大統領任期を1期6年とする現憲法の条項の改定をはじめ独裁体制復活に向けたマルコスJr陣営の策動の一つとみて猛反発している。Jrが米国にすり寄るのは長期親米政権確立を訴えて米国の後ろ盾を得たいがためであろう。

2016年フィリピン大統領選ではドゥテルテは2位に600万票もの大差をつけて圧勝。副大統領選に出馬したマルコスJrは2位に終わっていた。2022年大統領選にあたりドゥテルテ陣営にはサラ・ドゥテルテを大統領候補とする動きも強くあったが、世襲批判を避け、マルコスJRに譲った経緯があった。しかも、事実上追放された独裁者マルコスの息子に大統領選立候補資格なしとの憲法解釈もあった。今日の事態を予測してドゥテルテはマルコス勢力の再追放に向けた準備を行ってきたようだ。

バイデン米政権は4月11日に岸田文雄首相とフィリピンのマルコス大統領をホワイトハウスに招き、バイデン大統領を交えた初の日米比首脳会談を開くと発表している。これがフィリピンでの反マルコス・反米運動の大きな弾みになる可能性がある。1986年民主革命の再来へとつらなれば、フィリピンは1946年の独立以来2度目の「対米自立」を果たす。対照的に1945年以来米国に従属するばかりの日本の「自立」は夢というべき状況にある。

 

関連論考

習近平、ドゥテルテの結束で綻びる日米の中国包囲網  ~中比軍事連携と新安保法制 | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)