世界に蔓延する新型コロナ禍の背後では政治的思惑がむき出しになっている。それを改めて印象付けたのがインドへのバイデン米政権のコロナ感染対策への支援である。一日35万人が強力な変異ウィルスに感染するインドの非常事態に対し、中国がワクチン提供を申し出ると、すぐさま米政権はこれに対抗した。前掲記事「ワクチン追加供給は米国の思惑次第」では対中国政策で米国の指令に逆らう日本と韓国には米国製ワクチンの供給を遅延させていることを指摘した。日本は苦吟している。対照的に、中国包囲網の核となる米豪日印4カ国・クアッドの一角インドが中国に支援の申し出を受けると、米国はすぐさまこれを阻止するためインド「救援」に乗り出した。あまりに露骨だ。
ニューズウィーク誌は4月28日ウェブ版に「最悪のコロナ感染拡大中のインドに、救いの手を差し伸べたのは『宿敵』中国」との見出しで次のような記事を掲載した。
「<長年にわたりインドとの国境紛争を抱えてきた中国だが、インドの苦境に対してワクチン提供を申し出た>
インドで新型コロナウイルスが猛威を振るっている。4月22日には1日の新規感染者数が31万人以上と、不名誉な世界記録を樹立してしまった。
ワクチンを確保しようにも、13億人もの国民に行き渡らせるのは容易ではない。近年、関係を強化してきたアメリカも、ワクチンに関しては「アメリカ・ファースト」を徹底しており、すぐには助けになってくれそうにない。
そんななか、長年の国境紛争で複雑な関係にある隣国・中国が支援に名乗りを上げた。中国外務省の汪文斌(ワン・ウエンビン)報道官は4月22日、『インドが(新型コロナを)管理下に置くために必要な支援を行う準備ができている』と語った。
中国は新型コロナのワクチンは「公共財」だとして、中国製のワクチンを世界83の国と機関に供給してきた。汪は具体的な支援内容には触れなかったが、純粋な善意であれ、何らかの計算があるのであれ、インドが今、喉から手が出るほどワクチンを必要としているのは間違いない。」
この記事の後をすぐさま追いかけるように日本のNHKは同日こんなニュースを流した。
「米バイデン大統領 インドにワクチン提供の考え示す
新型コロナウイルスの感染者が爆発的に増加し、医療体制が危機的な状況に陥っているインドに対して、アメリカのバイデン大統領は、医療用の酸素などに加えてワクチンも提供したいという考えを示しました。
インドではこのひと月余りで新型コロナウイルスの感染者が爆発的に増加し、首都ニューデリーでは医療用の酸素が大幅に不足するなど、医療体制が危機的な状況に陥っています。
バイデン大統領は27日、ホワイトハウスで記者団に対し『インドが必要なひととおりの支援を直ちに送る』と述べ、抗ウイルス薬「レムデシビル」やワクチンの製造に使う装置の部品を提供すると明らかにしました。
さらに、前日に行ったインドのモディ首相との電話会談について『ワクチンそのものをインドに送ることができる時期について話し合った。私はそうするつもりだ』と述べ、すでに明らかにしている医療用の酸素などに加えてワクチンも提供したいという考えを示しました。
アメリカは、イギリスの製薬大手アストラゼネカなどが開発したワクチンおよそ6000万回分を必要な国に提供する方針をすでに明らかにしていますが、提供先は検討中だとしています。インドに対してはイギリスなど各国や企業が支援を本格化させています。」
この記事は中国の動きを無視している。「インドに対してはイギリスなど各国や企業が支援」と米英を主役にした。明らかに意図的だ。
一方、日本の菅政権は政権浮揚、総選挙結果は一にも二にもワクチン接種の劇的進捗にかかっているとみて躍起になっている。ワクチン提供は米英企業だけに依存する。バイデン米政権は台湾有事に日本(自衛隊)を積極関与させるべく菅政権を土俵際に追い詰めた。
日米安保破棄と中立化を前提としない限り、中国やロシアのワクチン提供を受け入れる政権は日本では存続できないのだろうか。思案のしどころである。