対日勧告書・アーミテージ・ナイレポートで知られる米国の超党派シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)が12月7日に第5次となる新報告書を公表した。今回は中国との本格対決を念頭に置き、「日米同盟が初めて対等な役割を担うようになった」と”評価”、米、英、豪、カナダ、ニュージーランドのアングロサクソン5カ国で構成する情報協力機構・ファイブアイズへの日本の参加に初めて言及した。全体としてかつてないほど日本の保守政権を持ち上げ、最大限に対中新冷戦の駒として利用して行こうとする魂胆が露骨に示されている。言葉で最大級に日本政府を賛辞しながら、歴代最長となった安倍前政権が繰り返した「100%米国とともにある」との対米隷属宣言につけ込んだ形となっている。米ハワイ時間で1941年12月7日に起きた真珠湾攻撃の79周年記念日に公表したのも意味深長だ。
■提言はすべて実行
第3次報告書は民主党政権末期の2012年8月、同年末の安倍第二次政権発足を見透かしたように公表された。このレポートは集団的自衛権の行使容認と自衛隊法の改定をはじめとする新安保法制成立を求めた。当時の安倍政権はこれに忠実に従い、日本で60年安保闘争以来の大論議を引き起こしたのは周知の通り。新安保法成立で自衛隊はグローバル化した北大西洋条約機構(NATO)に組み込まれ、米軍とともに世界規模で軍事活動できるようになった。続く2018年10月に公表された第4次報告書では日米統合部隊の創設を提言し、米軍横田基地に既に統合されていた司令部だけでなく、現場においても自衛隊は米軍に指揮される事実上の補完部隊となった。
■対中包囲網形成を巡る難題突きつける
「2020年の日米同盟 グローバルな課題での対等な同盟」と題された今回の第5次報告書で「同盟で初めて、日本が対等な役割を担うようになった」と持ち上げたのは、この10年近くの実績の”評価”であろう。バイデン次期米政権発足を前に、トランプ政権下で低下した米国の国際指導力を回復するには、自由貿易や多国間協調で主導的な役割を果たした日本の協力が不可欠と強調。同盟にとっての最大の難題は中国と明記し、「中国と競争しながら共存する新しい枠組の構築が課題だ」とした。
この新たな枠組みとは対中冷戦遂行のための「多国間協力」機構の言い換えに他ならない。バイデン次期政権がオバマ前政権同様、日米韓3カ国の連携強化を図ることは必至。東南アジア諸国連合(ASEAN)と韓国を米豪日印の4カ国連携・クワッドへ引き込むことを重視しており、菅政権は日韓「和解」を急げとのとの難題を突き付けられている。
報告書は、具体的には、菅首相が早期に訪米し、新大統領と首脳会談するよう要請。核開発を進める北朝鮮問題を巡っても、日米韓3カ国の政策協調が死活的に重要として、日韓関係改善を求めている。
■「シックスアイズ」への言及は限りなく虚言
情報協力については、「ファイブアイズ」と呼ばれるアングロサクソン5カ国の情報共有ネットワークに日本を加え、「シックスアイズ」に変更することを日米が真剣に働きかけるべきだと呼びかけている。
この問題については、既掲載記事「『日本の右翼政権に軛かける』 新日英同盟と拡大NATO 」など一連の論考を参照されたい。「第二次世界大戦を共に戦い、深い信頼があるからこそ、他の同盟国との間よりも高いレベルの機密情報の共有が可能になる」「率直に言って、(ファイブアイズ)メンバー国が日本に対してこの高いレベルの信頼を持っていると言うにはほど遠い」。これがアングロサクソン同盟5カ国の本音である。
報告書は「米国は『シックスアイズ』に変更したい…日米が(英、加、豪、NZの4カ国に)真剣に働きかけるべきだ」と表記しているが、この呼びかけは限りなく虚言と言える。
つまり第5次報告書は「米国と対等の同盟国」となったと日本人の自尊心をくすぐり、日本の世論に働き掛けるプロパガンダとしての色合いが極めて濃い。
■保護国・日本の隷属
日米関係は従属ではなく、隷属と形容すべきだ。日本が「独立」した1952年以降の戦後史を紐解くと、米政府高官はしばしば日本を「保護国」と名指ししてきた。
対米隷属は深刻である。首都圏をはじめ自国の空域さえ自由に使えず、民間機が米軍管理の空域の迂回を強いられている。米軍機事故を含め米兵・軍属による犯罪が日本の当局によって裁かれたことはない。これを許す日米地位協定の見直しにはまったく手が付けられない。この象徴的事例を見ただけでも、日米関係の現状は国際社会の常識からすればあり得ないことだ。
だが日本人の多数派は異議を申し立てない。「日米同盟」基軸が強固な固定観念となり、しかも政官財には絶大な既得権益と化している。今回の報告書は「独立した国同士の同盟であるとの日本人の錯覚」に最大限につけ込むものと言える。