米英による謀略の歴史を直視せよ ハーシュのウクライナ戦争巡る特報に際して 3月7日更新

この2月に米国のジャーナリスト、シーモア・ハーシュが「ドイツとロシアを結ぶ天然ガスパイプライン・ノルドストリームの爆破はバイデン米大統領が指示した」との画期的なスクープを行った。調査報道によると、2022年6月の北大西洋条約機構(NATO)軍事演習「バルトップス22(Baltops-22)」に参加した複数の米国人ダイバーらが「ノルドストリーム」の下部に爆破装置を設置し、それを3か月後にノルウェーが作動させたという。爆破をロシアのせいにしていた米政府は直ちに全面否定、米英の主流メディアの大半は当然の如く無視を続けている。米ジャーナリスト、ジョン・ドゥガンはNATOの軍事演習参加者から匿名の暴露書簡を受け取っている。このスクープはウクライナ戦争が米英により仕組まれた謀略であることを完膚なきまでに暴いた。米側が否定を続けるには報道内容が虚偽であるとの証明=反証を必要とする。無視を続ければスクープの正しさを認めることになる。ハーシュは「まだ一塁にいる」と語った。米英による謀略の歴史はもっと直視されなければならない。

<注:ハーシュらのスクープは2014年7月の東部ウクライナ上空でのマレーシア航空機撃墜事件は米英が背後で動きウクライナ軍に実行させた嫌疑濃厚と主張した1月7日掲載記事「『すべてロシアの責任』ー漂う米英による謀略の腐臭 マレーシア機 撃墜最終報告書」での主張を補強する形となった。>

米人ジャーナリストのスクープ記事はすでに多くのオルタナティブメディアや中露の報道機関が詳しく紹介しており、内容は省略する。

ロシアによるウクライナ軍事侵攻から1年。ここでは米英が仕掛けたウクライナ戦争を巡り西側が大義として掲げる「人類が二度の世界大戦を通じて確立した『武力行使による領土・現行秩序の変更は違法』とする国際規範をプーチン・ロシアは破壊した」との論拠を点検する。

それはウクライナ紛争の直接的原因がネオナチ支配のウクライナ軍によるウクライナ東部・南部のロシア系住民=ロシア語話者への殺戮、迫害にあるからだ。1917年から1920年にかけて存在したウクライナ国あるいはウクライナ人民共和国を含め、ウクライナという国は正式な国家としては存在していなかった。国の境界も線引きに重大な問題があり、それは1991年のソ連崩壊に伴うウクライナ独立に引き継がれた。

欧米列強の植民地支配に苦しんできた第三世界=グローバルサウスの国際法規範についての見解は異なる。彼らは英国をはじめとする欧米列強が定めた恣意的な国境線引きにいまだ苦しんでいる。この国境線は数多の民族紛争の元凶となっている。

地図を見れば、アフリカや中東地域の国境線は長い直線が非常に多い。人々が生活圏として自然に形成した集落や民族の境界が直線になることはあり得ない。湖、山、川などが自然発生的な集落の境界となってきた。直線の境界は政治の産物だ。

アフリカでの直線の国境線は、エジプトとリビア、エジプトとスーダン、リビアとチャド、アルジェリアとニジェール、アルジェリアとマリ・モーリタニア、マリとモーリタニア、ナミビアとボツワナ、タンザニアとケニア、アンゴラとナミビア、エチオピアとソマリアとの間に10本もある。1885年のベルリン会議以降「列強によるアフリカ分割」が行われた際の支配地の境界画定は列強各国の利害調整の産物だった。実際、リベリアとエチオピアを除くアフリカのすべての地域が列強によって分割支配されたのであった。

アフリカ分割に参加して利益を求めた国は、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ポルトガル、ベルギー。現在の欧州連合(EU)の主要国であり、事実上ウクライナ戦争に加担する北大西洋条約機構(NATO)加盟国だ。

中東地域にもよく似た事情から幾つもの直線の国境線がある。列挙してみると、イエメンとオマーン・サウジアラビア、サウジアラビアとイラク、シリアとイラク・ヨルダン、アラブ首長国連邦とオマーン・サウジアラビアがある。オスマン帝国からの独立を望むアラブに対して、英国は支援を約束したにもかかわらず、裏でフランスとオスマン帝国打倒後のアラブ分割について秘密協定であるサイクス・ピコ協定を結んだ。

独立を目指してオスマン打倒に協力したアラブを裏切り、レバノン・シリアはフランスの、イラクとパレスチナは英国の統治領となった。シリア地域で直線の国境線によって国々が成立しているのは、英国とフランスがアラブ人をだまして行った妥協と秘密談合の象徴である。

近年、内戦や紛争の続く旧植民地の中東や北アフリカからの欧州への難民の移動が続いた。EU諸国が扉を緩めたら一挙に殺到した。難民の多くはイスラム教徒。文化的な摩擦や大きなテロ事件が続いた。欧州諸国には宗教的な緊張が高まっている。

サッチャー元英首相は1988年に「西洋人が世界の多くの土地を植民地化したのは、すばらしい勇気と才覚の物語でした」と植民地支配を肯定する発言をした。これが欧米支配層の本音であろう。しかしもしそうなら、かつて西欧列強が支配した地域が理不尽な混乱に陥って出口すら見出せない現状を理解できなくなる。

<注:アフリカの紛争一覧 - Wikipedia>

2022年3月3日の国連総会でのロシア非難決議では欧米日など141か国が賛成、ロシアのほかベラルーシや北朝鮮など合わせて5か国が反対、中国やインドなど合わせて35か国が棄権した。一方、対ロシア制裁(輸出規制)の参加国は40カ国にも満たない37カ国だ。アフリカや中南米諸国などの多くはロシアを建前として非難するが、制裁には加わらないとの姿勢を貫いている。

国連のロシア非難決議を棄権した南アフリカのパンドル国際関係・協力相は、南アの姿勢について「非同盟運動のアプローチを採る」と語り、「イスラエルがガザを軍事攻撃し殺戮と破壊を繰り返したとき、国際社会がウクライナへの侵攻時と同じことをできないというのはダブルスタンダードだ」と米英を批判した。

ハーシュとドゥガンのスクープは米英のダブルスタンダードを丸裸にした。そこには彼らが常に口にする「正義」も「人道」もない。あるのは米英権力中枢の権益の確保と拡大、換言すればそれを阻害する勢力の破壊である。しかも彼らは破壊工作に用いる手段に躊躇することはない。天然ガスパイプライン破壊は脅威となったドイツとロシアの経済の破壊が目的なのである。

日本を含め主要先進7か国(G7)と名を変えたかつての欧米列強は、もはや主要国でなくなりつつある。1970年代に世界GDPの7割を占めたG7のGDPは今や4割を割るところまできている。中国、インド、ロシア、ブラジルをはじめ新興大国がG7を包囲する形で世界をリードしている。その中核は中露主導の上海条約機構(SCO)というユーラシア同盟であり、日本の既成メディアの報道に依存しているとそれに気づけない。

「先進諸国」は内では限定的な法の支配に基づく自由な市民社会を形成したが、近年でも典型例となったアフガン、イラク侵攻にみられるように国際法違反の軍事侵攻を繰り返してる。SCOに「客員参加」した東南アジア諸国連合(ASEAN)の多くの国が米国に追従するばかりの日本を蔑視し始めている。この10年ワシントンの指示で日本の首相が米国離れを諫めようとASEANを歴訪しても何の成果も得られなくなっている。日本の政府開発援助(ODA)供与も中国の圧倒的な経済力の前に威力を失った。

G7が声高に唱える『武力行使による領土・現行秩序の変更は国際法違反で許せない』という大義名分に潜む欺瞞はもっと明るみに出さなければならない。