8月6日広島、9日長崎、そして8月15日と敗戦と戦後を回顧する季節がまた巡ってきた。安倍暗殺事件の衝撃は戦後日本政治の闇を白日の下にさらす絶好の機会を与えた。だが既成メディアはおざなりなマンネリ報道を続けている。旧統一教会と自民党との関係に触れても、両者を生み出した冷戦構造下の米工作機関CIAがどのような役割を果たしたかには決して踏み込まない。戦後日本を半永久的に支配する自由民主党とは米CIAやネオコンのパペット・代理組織である。この闇に触れるのはタブーなのだ。本ブログではまずは韓国・統一教会に渡った日本からの資金の一部が米国経由で日本に還流され、自民党・安倍「清和会」や二次にわたる安倍政権を支え、メディアを装う国家主義者・右翼組織などに配分され活動を支えていたのは間違いない、と問題提起したい。

■統一教会の本拠はワシントン

1954年創立の統一教会は1970年代になると文鮮明総裁が米国を拠点に活動を始める。霊感商法でカモにした日本の信者から吸い上げた資金はいったん韓国の本部に送られるが、その多くが布教を世界に広げるために軸足を置いた米国での活動資金に使われた。統一教会がどれほどの金を集めたのか正確には不明である。だが文春は1999年からの9年間で計4900億円、年約500億円が日本から韓国に送金されたと報じている。 米ニューヨーク・タイムズによれば、1976年から2010年までの35年間に、日本で集められた資金のうち(韓国経由で)米国の旧統一教会に送金された額は36億ドル(4000億円)を超えているという。

1961年クーデターで誕生した朴正煕軍事独裁政権はスパイ機関KCIA(中央情報部)を設立した。KCIAの初代局長金鍾泌は統一教会信者の増加に努め、後に首相にもなった。1963年に起案されたCIAの内部文書によると、「金鍾泌はKCIAの長官として統一教会を組織化し、2万7000人の信者がいる同教会を政治的なツールとして使っていた」という。CIA、統一教会、KCIAは一体なのである。

1972年に文鮮明がワシントンに拠点を移したのは、KCIAの勧めによるという。ワシントンを拠点にしたCIAと一体となったロビー活動の影響は世界に広がる。韓国軍の将校から教団幹部となった朴普煕(1930-2019)とともに文は米国でニューズ・ワールド」、「ニューヨーク・シティー・トリビューン」、米紙『ワシントン・タイムズ』を刊行、後にUPI通信までを買収した。「韓米文化自由財団」、「カウサ・インターナショナル」、「世界平和連合」、「韓国文化財団」、「中南米統合機構」、「世界平和頂上会議」、「世界言論人協会」などを多岐にわたるロビー活動の足掛かりにしている。

■米ネオコンとも一体化

米国内で影響力が急速に広がった。だが同時にこのカルト教団への懸念が、米政界で強まる。1977年にまとめられた米下院国際情勢委員会報告書によると、100人以上の米議会議員がKCIAと文鮮明による韓国のロビー工作に関与したと指摘されている。この騒動がいわゆる「コリア・ゲート」である。

しかし米政界への接近は、リチャード・ニクソンに始まり、ワシントン・タイムズを愛読したドナルド・レーガン元大統領との親密な関係が取り沙汰され、CIA長官を務めたジョージ・H・W・ブッシュ元大統領は統一教会イベントに繰り返し登場した。米ワシントン・ポスト紙によると、1回の講演料は8万ドルを超えていたとみられる。統一教会を主要資金源としたブッシュ一族に対する教会のロビー活動の動きを探れば、ネオコン、CIA、統一教会との関係がはっきり見えてくる。

統一教会はブッシュ親子の取り巻きで冷戦終結後の米一極覇権戦略を実行した米共和党ネオコンのディック・チェイニー、ドナルド・ラムズフェルト、ポール・ウオルフォビッツらとの関係も深める。2001年ブッシュ子政権発足に伴い権力の座に就いた彼らはブッシュ子政権の副大統領、主要閣僚としてジャパンハンドラーとともに小泉、安倍政権に自衛隊の海外派兵、米軍・NATOとの集団防衛を促していく。

2017年発足のトランプ政権でもネオコン支配が続く。2021年5月に旧統一教会の関連イベントにいずれもマイク・ペンス前副大統領、マイク・ポンペオ前国務長官、マーク・エスパー元国防長官や潘基文・元国連事務総長も登場。同年9月、ドナルド・トランプ前大統領も別の旧統一教会系のイベントでスピーチしている。ペンスは2018年にネオコンの牙城ハドソン研究所で「邪悪な中国共産党」との戦いを呼びかけ、ポンペオは2020 年に歴代米政権が続けてきた中国の経済発展を支援し民主化を促す「関与政策」を失敗と断じた。二人の演説は対中新冷戦宣言と呼ばれるが、彼らは長年統一教会と関わったネオコン人脈の一角である

■清和会の興隆:ネオコン、CIA、統一教会

岸信介、福田赳夫、安倍晋太郎率いた派閥を継承する自民党清和会(安倍派)の2000年森喜朗政権発足以降の興隆は冷戦終結後の米ネオコン台頭と不即不離の関係にある。それを繋いだのが統一教会、CIAだ。清和会が安倍晋三をいただき、吉田茂、池田勇人を源とする「宏池会」や田中角栄系の「経世会」などのかつての保守本流派閥を傍流に押しやり主流となったのはネオコン、CIA、統一教会の後ろ盾があったからだ。

換言すれば、ネオコン主導の2001年9月米同時多発テロに伴うアフガン侵攻、2003年イラク戦争遂行は日本の保守政治の大転換を必要とした。本格的な清和会内閣を率いた森後継の小泉純一郎が自民党総裁選絡みで「自民党をぶっ壊す」と啖呵を切ったのは「旧来の田中角栄系『経世会』や『宏池会』支配の自民党をぶっ壊す」ことに他ならず、小泉の発言は米ネオコンの代弁とみるほかない。

清和会が台頭する以前から統一教会は日本の政界との太い繋がりを印象付けていた。米国で脱税で実刑判決を受けた文鮮明が、1992年3月に入管法の規定では入国できないはずなのに、当時の金丸信自民党副総裁の指示による超法規措置で日本入国を果たしたことだ。当時日本では統一教会の霊感商法が広がり、社会問題となっていた最中であり、自民党副総裁が超法規的措置を入管当局に打診するのは異常な出来事であった。

金丸は1990年9月、社会党一行に自民党議員が加わる形で金丸訪朝団を結成、北朝鮮を訪問している。ある団員は、北朝鮮からの良質な砂利など建設資材の大量輸入の仲介で自民党建設族は大いに潤ったと明かした。北朝鮮出身の文鮮明は91年末、ソ連崩壊と同時期に北朝鮮を訪問し、当時の金日成主席と会談、35億ドルの経済支援を約束した。以前から北に太いパイプを有していた文鮮明が金丸訪朝の仲介をし、それが文の日本入国を巡る超法規的措置に繋がったとみても大過なかろう。

■統一教会の悲願:安倍政権誕生

日本の信者らの話によると、安倍晋三の父晋太郎氏が1991年に67歳で亡くなった時、統一教会幹部らは非常に無念がっていたという。1987年に中曽根康弘首相が退陣にあたり竹下登を後継指名したことは日本の教団上層部に政界へのより深い関与を志向させた。統一教会と強く結びつく晋太郎の総理大臣指名挫折が息子晋三への期待をいやがうえにも大きくした

安倍は2006年9月20日予定の自民党総裁選挙への出馬に備えて新書『美しい国へ』を出版。50万部を超すベストセラーとなる。このタイトルは日本の統一教会初代会長久保木修己(1931-1998)の遺稿集「美しい国 日本の使命 」から借用したものだ。戦後最年少で日本の首相となった安倍晋三は「統一教会・自民党」政権を発足させたのだ。それは森、小泉と続いた自民党清和会政権を盤石なものにしようとする米ネオコン、CIAの後ろ盾、さらには人的、資金面での統一教会の支援がなければなりたたなかったはずだ。小泉が閣僚も党要職も未経験の安倍晋三を党幹事長に抜擢、続いて官房長官に就かせた背景はここにある。

2007年に1年で退陣した安倍政権を2012年末に再登場させるに当たり、数多な安倍応援団が組織される。5万人から6万人の統一教会の教団員が自民党員となり総裁選で安倍に投票し、日本会議を親米反中団体へと変質させ、中国、韓国をヘイトするさまざまな刊行物・インターネット媒体が出現、保守系の学識者、知名人らの呼び掛けによる「安倍総理を実現する会」等々の結成があった。英誌「エコノミスト」は再登場した安倍を表紙でスーパーマンになぞらえ歓迎した。

そこにはバブル経済崩壊後の日本の経済的衰退が米国の周到な策略であることを覆い隠し、日本人の怒りと嫌悪をもっぱら台頭した中国に向けようとする米権力中枢の意向があった。統一教会とその傘下の諸団体がそれと足並みをそろえて安倍応援のため多額の資金援助したことに疑いの余地がない。