自民総裁選はCIA対日工作の檜舞台 高市売り出しへ

これまで本ブログはほんの一部の記事を除き、日本をハンドルする米国の支配層について具体的に指摘するのを控えてきた。せいぜい軍産、金融を柱とする米支配層、ディープステイトにとどめた。現在、9月29日の自民総裁選とそれに続く総選挙を控え、ワシントンの動きが非常に活発化しているのはいうまでもない。敗戦後日本をコントロールしてきたのは一貫して米国の支配勢力であった。その拠点は敗戦後間もなく発足して1960年代までは戦前・戦中期の元駐日大使ジョセフ・グルーら国務省人脈とウォール街が取り仕切ったアメリカ対日協議会(ACJ)。その後は今回の総裁選候補の河野太郎の卒業したジョージタウン大学の付属機関としてヘンリー・キッシンジャーらが設けた国際戦略問題研究所(CSIS)が学外組織として発展したCSISがそれを担っている。このシンクタンクは対日司令塔の役割を果たし日本政府を意のままに動かすアーミテージ報告書とそれに関わるジャパンハンドラーで知られる。一方、ロックフェラー財閥の取り仕切る外交問題評議会(CFR)は戦前から一貫して対日工作に関与してきた。彼らは次の次を見据え、安倍路線に磨きをかけた「高市政権の売り出し」に余念がない。

■総裁選:CIA対日工作の檜舞台

米支配層の関心は、対米隷属政権の維持、市場原理主義(新自由主義)の維持である。日本の政権はこの要請を満たさねばならず、枠外に出た政権は潰される。彼らは次期首相候補者を精査して、選別。メディアを使って首相候補に祭り上げる。これが70年以上延々と繰り返されてきた。CIAによる対日政治工作は間断なく展開されている。米国の裏金で作った自民党の総裁選びは彼らの檜舞台である。

2012年以降の安倍・菅政権で10年近く副総理兼財務相に居座る麻生太郎は改めて指摘するまでもなく吉田茂の孫だ。吉田元首相は、明治維新で坂本竜馬を仲介に薩長に武器を売っていたグラバー商会の親会社ジャーディン・マセソン商会の横浜支店長、吉田健三の養子である。つまり、この150年余り日本の権力層の背後にあった英米の巨大金融資本と深くつながり、維新の三傑大久保利通の実子牧野伸顕を岳父とし戦前・戦中期は対英米融和派であったためため、吉田は新憲法公布前に敗戦後三番目の首相に祭り上げられた。この時首相に内定していた鳩山一郎は連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)に公職追放されている。麻生を副総裁・財務相に据え続ける勢力が透けて見えてくる。

【写真】GHQの追放通知書を手にする鳩山一郎。戦後初の1946年4月総選挙で日本自由党が第一党になり、鳩山総裁は首相指名を待つばかりとなった。だが就任を目前にして戦前の統帥権干犯問題を発生させたことなどを問題とされ同年5月7日に公職追放された。吉田茂が後継総裁に指名され5月22日に第一次吉田内閣が発足する。

 

自民党が1955年に保守合同によって生まれた際、大量の資金が米国から流れた。岸信介や佐藤栄作がCIAから資金を受け取ったことも公然の秘密である。近年米支配勢力が送り出してきた人物は渡辺喜美、橋下徹、小池百合子、小泉進次郎、玉木雄一郎、河野太郎らが挙げられる。公職選挙法の制約を受けない総裁選びの結果は金次第と言っても過言ではなかろう買収資金に司直の手は入らず、潤沢な資金は総選挙や参院選の裏金に回せる。米英の傀儡である安倍晋三と麻生太郎が決定的な力を持つのはこのためであろう。

米支配層は鳩山民主党政権が発足した2009年の過ちを繰り返さないことを至上命題とした。そのための戦術は自公と自公にかわる第二保守党による二大政党体制の構築である。「第二保守党」の候補として、「維新の会」、「希望の党」、「国民民主党」などの育成に力が注がれてきた。同時に反自公勢力の結集である野党連合を阻止するため、分断戦術が取られている。

彼らが最も恐れるのは野党連合政権を提唱する日本共産党である。かつての「敵の出方論」を持ち出して「日共はまだ暴力革命を志向している」と誹謗中傷をエスカレートさせた。共産党をできるだけイメージダウンさせ、反自公陣営を「共産党と共闘する勢力」と「共産党とは共闘しない勢力」に分断する。こうすれば確実に総選挙は乗り切れる。

■日本会議を親米化

「戦後レジュームの脱却」、「日本を取り戻す」。2007年に1年で崩壊した第一次安倍政権のおなじみのキャッチフレーズである。日本の戦前体制とその価値観を称賛、教育勅語の一部復活、南京事件をはじめ中国侵略の事実上の否定、従軍慰安婦の日本軍の関与否定、さらには米国の対日占領政策への拒絶的な言辞が相次いだ第一次安倍政権は到底ワシントンに受け入れられるものではなかった。枠をはみ出したのだ。

しかし、2009年の政権交代で登場した鳩山由紀夫民主党政権は東シナ海を「友愛の海」と呼び、沖縄の普天間基地移転では日米合意を覆し「国外、最低でも沖縄県外」と主張、そして日中両国を柱に「東アジア共同体」構想を打ち出した。枠を大幅にはみ出すにとどまらず枠を壊した鳩山の東アジア共同体構想について2009年から11年までオバマ政権で国家安全保障会議NSC)アジア上級部長だったジェフリー・ベーダーは「日米関係の最大の懸念だった」と語っている。

民主党への政権交代でワシントンの安倍晋三に対する見方は大きく変化した。ワシントンは安倍グループやその後ろ盾の日本会議を有効に利用すれば中国封じに極めて有効と考え、彼らとジャパンハンドラーの拠点・CSISをはじめワシントンとの関係を密なものにしようと動いた。下野した安倍らのワシントン詣でが頻繁となる。戦前回帰を志向するかのように振る舞った安倍を支えた日本会議は完全にワシントンに取り込まれ、親米組織となった。日本会議は米国による日本への治外法権支配の象徴で、戦後レジュームそのものである「日米地位協定」を否定的しない。田久保忠衛・日本会議会長は「地位協定をどう考えるのか」との質問に何かを恐れるかのように口を閉ざした。

日中友好の流れが断ち切られ、日中間の軍事的緊張を一気に高めたのは鳩山の後任の菅直人政権。中国との関係悪化の決定的な引き金となったのは2010年9月初め、海上保安庁が尖閣諸島周辺で操業中の中国漁船の船長を逮捕した事件だった。この逮捕劇の責任者で当時の国土交通大臣・前原誠司は長年にわたりネオコン系の米シンクタンクやCSISと深いつながりを持つ。

後継の野田佳彦首相は敗北確実な情勢の中、2012年12月に内閣総辞職し、総選挙で予想通り民主党を惨敗させて安倍超長期政権を招来させることになった。安倍グループの後ろ盾はネオコンだったと見て間違いない。特に冷戦後の米国の単独覇権による新世界秩序を唱えた1992年機密国防戦略書の執筆責任者とされるポール・ウォルフォウィッツの教えを受けた人脈との関係が深いとみられ、再登場した安倍政権が米国の覇権の維持へ100%日本を関与させたのは当然の流れだった。2007年8月の安倍第一次政権崩壊を受けるかのように、日本会議を背後に追いやる「兄弟組織」として公益財団法人・国家基本問題研究所が設立され、櫻井よしこが理事長、日本会議会長の田久保は副理事長に収まった。彼らの安保・外交政策を巡る主張は高市の主張と瓜二つである。この流れにCIAの手が入っているのは疑いようがない。

■河野は枠外、岸田は短期?

2021年総裁選のトップランナーとされた河野太郎や岸田文雄のいう自民党改革、党風刷新とは安倍、麻生外しに他ならず、それは米国が許さない。例えばアーミテージ報告書が原発再稼働を命じた時期に「原発ゼロ」を叫び出したこと一つとっても彼らにとって「河野太郎の罪は重かつ大」である。かつての「軽武装・経済優先」の宏池会路線を踏まえ、新自由主義を見直して日本型資本主義を唱道し軍拡に躊躇する岸田は勝っても長くは「使えない」。「修正」し磨きをかけた安倍の分身・高市早苗に白羽の矢が立ったのはこのためだ。今回の立候補は”日本のサッチャー”として初の女性首相高市早苗ブームを近い将来巻き起こすための準備と思える。安倍晋三の高市支持は米国の意向そのものと見て大過ない。

自民党総裁選4候補による討論での安全保障論議で高市は「敵基地無力化」を主張、米国製中距離ミサイル、精密誘導兵器の配備をはじめ軍拡を「積極的に進める」旨の発言をした。これに対し河野氏は「アメリカだけが引き金に指をかけているミサイルを日本に置いたからといって、日本の抑止力が高まるわけでない」と反論、「『敵基地ナントカ能力』みたいなものはかえって(日中関係を)不安定化させる」とけん制した。米支配勢力にとって高市発言のポイントは「防衛費をGDP1%以内との議論はナンセンス。必要に応じて費用は変わる」とし、米国が前政権以来求める「防衛費倍増の国内総生産(GDP)の2%、10兆円規模」を口にしたことだ。彼らにとって「引き金に指をかける」のが誰であろうと問題ではない。要は米英軍需産業と投資家がいかに潤うかである

政界、官僚、巨大企業経営者、そして多くのメディア関係者は安倍・高市グループの背後の動きを察知し、それに追随し、口をつぐんでいる。それは総裁選、総選挙後も続くに違いない。(続く)