2025年1月。米大統領にドナルド・トランプが返り咲く。「もしトラ」が現実となり、日本のメディアは次期大統領の動きに「世界は、日本はどうなる」と上を下への大騒ぎだ。米英アングロサクソン系の報道のみに日々接していれば、どっぷりと米英権力中枢(DS)の反トランプ・プロパガンダに浸かり、まともな世界認識ができなくなる。せめてBRICSポータル、ロシアRTにでも時折目を通せば、脳に違った刺激が加わる。これらもプロパガンダではある。だが、問われているのは、いまや押しも押されぬ米欧世界の対抗勢力となった中露をはじめBRICS、旧植民地グローバルサウスが発信する情報を読み取るリテラシーである。日本の国際報道の大半は英米メディアの翻訳、ないしはそのフィルターを通したものだ。これも日本人にとって「攘夷のための開国」の結末、即ち「対米敗戦の軛」であり、米英との歪んだ「価値観共有」の源泉だ。軛から自由になる一歩として、非英米世界と真摯に対話すべき時期が到来した。それは明治以降の「近代」日本を再構築する手掛かりとなる。
■米国民はトランプに洗脳?
「支離滅裂な発言の乱発」と非難され続けた暴言王ドナルド・トランプを米国の有権者は二度も大統領に選んだ。二度目の2024年11月には民主党候補を一蹴する形で大勝した。2017年から2021年の一期目を終え、再選に失敗すると米司法省はトランプを刑事事件で次々と訴追した。英BBCは「34件の州法違反で重罪人となり、複数の刑事裁判で被告人となっている人物が、政府最高峰の職責に就くことでアメリカはかつてない未知の領域へと進む」ともったいぶって伝えた。
米英有力メディアはトランプの唱える「ディープステート(DS)解体」を「陰謀論だ」と一笑に付そうしている。米有権者の過半がDS陰謀論の教祖に洗脳されているといいたいのだ。実際、日本の大手メディアを退職した、在NY20年余りのフリーランスの邦人女性記者は「完全に洗脳された米国民が担ぐ“新型カルト政権”の恐怖」とのタイトルでこう報じた。
「この先さらにアメリカ人同士の分断が深まり、アメリカはグローバルリーダーではなくなる。ホワイトハウスに住んでいるのは、知的で常識を持った信頼できるリーダーだという認識は無くなって行く。この先10年くらいもっととんでもない人が立候補して来る可能性もある。」
「トランプの集会に行くと、毎回必ず日本人のトランプ支持者のグループがいる。私がトランプに批判的な記事を書くと、SNS上でいろいろと反応して来る。日本の社会の中にも、トランプ、もしくはそれと似た知識もないポピュリストを支持している人がたくさんいる。そういう人たちが増えないように、私たちはきちんと正しいニュースを読み、意見が異なる人たちとも対話すべきだ。」
最大の問題発言は「きちんと正しいニュースを読め!」にある。疑いなく彼女の推奨する「正しいニュース」を提供しているのは、NYタイムス、Wポスト、WSJに代表される新聞メディア、三大放送局+CNN、NEWSWEEKなどの三大週刊誌となる。「知性に欠けるポピュリスト」トランプに寄り添うFoxニュースやSNSのような雑多で裏付けのない情報は避け、日々執拗に反トランプを伝える「正しいニュース」に接し、異なる意見に耳を傾けなさいとトランプ支持者を諭しているのだ。そこにはアメリカはグローバルリーダーでなければならないとの信仰に近い感情、非米欧世界への極端な無関心と蔑視がうかがえる。
一方、中西部ウィスコンシン州に住む米大手航空会社を退職した元機長(ドイツ系白人男性、75)はこう反論した。
「1961年に退任したアイゼンハワー元大統領はアメリカの病根の根深さを警告した。それは軍産複合体の膨張と戦争国家アメリカにおける企業と軍隊の融合が民主主義に対する脅威となったことへの戒めだった。軍需企業に融資するのはウオール街の金融資本。石油産業、IT産業、それにコロナ禍とワクチン接種で大もうけした医薬産業などが加わり、台頭したネオコンとともに米政府を動かしてきた。トランプはこれにCIAを中核とする数多の諜報機関やシンクタンク、それにワシントンの巨大な官僚組織を加えてDSと呼んでいる。権力中枢とも言える」
「2023年度米軍事予算は1兆ドルに近づき、連邦予算の15%、世界の軍事費の4割を占める。ウクライナ戦争支援は700億ドル(10兆円)を超えた。国内はドル高で耐え難いインフレに見舞われ、医療をはじめ福祉政策の貧困で社会格差は広がるばかり。既成メディアは権力中枢に沿った報道をする。我々はブッシュ子、オバマ、バイデンよりはましとみて現状打開を託しトランプを支持した。DSは政府の政策決定に大きな影響を与える上記の既得権益集団だ。陰謀論に洗脳されているわけではない」
上の40歳代とみられる邦人女性記者はトランプに対する嫌悪が先行している。何故ニューヨークを拠点とし、20年余りどのような活動をしてきたかは知るよしもないが、政治感覚は米東部のエリートWASPと同じではないのか。彼らはウォール街の巨大金融資本を牛耳るがゆえに、トランプの出現は未曾有の脅威であり、何が何でもを潰したいと考える。彼女はいわゆる「1%」=米最富裕層に無意識にも同調しているように思える。
米人機長は1949年に生まれ、ベトナム、湾岸、ユーゴ紛争、対テロ戦争、アフガン、イラク、中東、北アフリカ、シリアそしてウクライナ、加えて間断のない「裏庭」中南米の反米政府転覆の企てを目撃した。青年期以来、戦争国家アメリカの介入主義と国内格差拡大を目の当たりにしてきたのだ。当初トランプ唱える「アメリカファースト」を介入主義の放棄と期待した。
それは国際連盟を創設し、米国が民主主義を標榜して国内外の政治体制に介入し変革を追求するのを使命と考えたウイルソン大統領(1913-1921)以前の米国、すなわちモンロー主義への回帰を示唆したとみたからだ。だが、失望の色も隠せない。「トランプは暗殺未遂事件を機に反グローバリズムの手を緩めたのでは」と疑う。イーロン・マスクは強く反対したが、トランプがジョージ・ソロスの右腕だったウォール街の代表スコット・ベッセントを財務長官に指名したことに失望したという。
左写真は「2021年1月6日にトランプ支持者らが「2020年の大統領選挙で選挙不正があった」と訴えて、議会が開かれていた議事堂を襲撃したとされる事件。
公判で提出された証拠によると、トランプ支持者の多くは、連邦議会議事堂襲撃 について、支持者や極右団体ではなく、トランプの信用低下を狙った連邦捜査官や反ファシスト活動家が主犯としている。 その根拠として、 当日の群衆の中に連邦捜査局(FBI)関係者がいたことを挙げた。でなければ厳重な警備は突破できず、死者まで出した議会乱入は不可能だったという。
■でっち上げの?「ロシアゲート事件」
大統領選結果を確定させる議会手続き妨害罪から不倫口止めまで数十の事件で訴追された「とんでもない大統領候補」になぜ圧倒的多数の有権者が一票を投じたのか?トランプには「事件はすべてでっちあげ」と有権者を洗脳し信じ込ませてしまうほどの超能力はなかろう。むしろ米有権者は、漠としたものではあろうが、司法・警察権力が執拗に事件をでっちあげ、トランプをなきものにしようとしている、と感じ取ってきたのではなかろうか。そう考えないとトランプの圧倒的勝利は理解できない。
2016年11月にトランプが一期目の当選を決めると早々とトランプ追い落とし工作が動き始めた。
12月9日にWPが「CIAの秘密評価報告書による」として、「ロシア政府機関のハッカー集団によるサイバー攻撃は、トランプの勝利を支援するものだった」と報道。同29日にオバマ大統領(当時)はロシア政府が米大統領選に干渉するためサイバー攻撃を仕掛けたとして、アメリカ駐在のロシア人外交官35人を国外退去処分にするなどなど制裁措置を発令した。
2017年1月20日、トランプ政権が発足すると同2月13日にはトランプ外交の要マイケル・フリン国家安全保障問題担当補佐官が辞任に追い込まれ、トランプ弾劾へと動くかに見えた。しかし、大山鳴動した挙句、2年後にモラー特別検査官は「ロシア側のサイバー攻撃などは確認できたが、トランプやその関係者に対し共謀罪を適用するには証拠不十分である」と捜査を打ち切った。
最も重要なのは、「トランプは、介入の存在は認めてロシアに対する非難や制裁を行っているが、トランプ陣営とロシアの共謀は否定している。」ことだ。このトランプ側の言い分は無視されたままだ。
在ワシントン情報筋(国際政治専門家)はこの事件はでっちあげと断じ、こう述べている。
「アメリカの外交と戦争政策と経済政策の根本を支配するのはDeep Stateである。特に外交とか戦争、警察についてはFBIとCIAと国務省と司法省の4つがDSで外交・警察権力を握っている。これは昔からあった。トランプの大きな功績は、DSの存在を表に出したこと。トランプが大統領になったもんだから、DSがなりふりかまわずトランプを引きずり下ろそうとして、トランプ、プーチンの陰謀があったとして、(大統領選で敗れたヒラリー・クリントンが米国務省のスタッフを動員してレポートを書かせ)イギリスの情報機関MI6の元ロシア担当のスパイまで雇ってありもしない疑惑(ロシアゲート)をでっちあげてトランプを引きずり降ろそうとした。これは結局クーデターだ。ここまでやるのか、とビックリした。」
「正当に選ばれた大統領を何の根拠もない出鱈目な疑惑をでっち上げて引きずり下ろそうとしている。アメリカの司法権力はここまでやるんだ。日本の検察庁と警察が偽疑惑をでっち上げて有力政治家を引きずり下ろそうとするのと同じ。これは、ラテンアメリア諸国や中央アジアなどであれば驚かないがフランスとかドイツではそういうことはやらないのに、アメリカではある。何もないところから疑惑を出してきて。DSはここまでやるのか、ということがトランプのお陰ではっきりした。」
「FBIと司法省はここまでひどいのか、国務省とCIAが悪いことをやるのはほかの国に手を突っ込んで内乱状態にしたり、転覆をはかったりすることはみんな知っていたが、FBIと司法省がやるとは思ってなかった。Establishmentがこういうことまでやるのがバレた。少なくともアメリカ国民の4割はしっかり理解した。6割は知らん顔しているが。」
一方、米国政府は各国政府や首脳の動向を傍受してきた。日本も当然、対象となっている。2013年10月に「ドイツ政府が、メルケル首相の携帯電話通話が、アメリカの情報機関に傍受されていた可能性があるとの声明を発表した。メルケル首相が、オバマ大統領に電話し説明を求めた」のは記憶に新しい。ロシア・プーチン政権と親しく、潜在敵国とされているドイツのメルケル首相に対しては、数年にわたり私用の携帯電話がターゲットになっていた。ロシアゲートがでっちあげで、メルケル盗聴が事実であれば、オバマをはじめ歴代米政権の信用は地に墜ちることとなる。
(続く)
注:体調不良のため2が月あまり休載してきた。本稿もまだ半分しか出来上がっていないが、後半は後日追加ということでとりあえず掲載する。