高市早苗は安倍晋三の分身:米支配層の望む新首相?

自民党総裁選を巡り最大派閥細田派の事実上の長である安倍前総理の高市早苗前総務相支持表明に続き、麻生副総理は「安倍前総理と話したが、高市を支援してもいい」と語ったと伝えられる。横浜市長選の結果が示したように自民党は政権を失う絶体絶命のピンチに立たされている。そこで永田町を裏で取り仕切るワシントンは日本初の女性首相誕生でこのピンチを乗り切るように指令したとみるのが自然だ。安倍と麻生の言動だけで「これは米国の意向と指示だ」とピンと感じない日本のメディアはあまりに鈍感である。否、分かっていてもワシントンの黒幕を表に出さないのがこの国の一般メディアの掟となっている。

■高市を必要とする理由

高市は細田派を離脱した無派閥議員であるが、その言動は安倍晋三を凌駕する「親米愛国」であり、ウルトラ新右翼と呼ばれる。安倍、日本会議と同様、決して米国に矛先を向けない。ひたすら中国を敵視して米国との軍事一体化と従属とを一層促し、日本の有権者に「失われた30年」がワシントンの日本収奪とその経済弱体化策にあことに眼をそらさせてアメリカへの怒りを雲散霧消させる。この一点においてワシントンは米中冷戦を進めるに当たり、親米反中に徹し、決してぶれない安倍・高市路線を必要としている。満を持して送り込んだ高市が「初の女性首相」待望のムードを盛り上げれば、沈み込んだ自民党支持にカンフル剤を与える。今秋に迫った総選挙で自民は女性首相ブームを盛り上げ、立憲民主と共産党を柱とする野党共闘の分断を柱にしている。

2000年以降、岸信介を源流とする清和会は宏池会や経世会に代わり自民党主流の地位を確固とした。米支配層やネオコンがそれを後押ししたことについては2021年2月掲載の「保守『主流』逆転と米国の圧力 反共強国と清和会支配1」、「その2」で詳しく述べた。ワシントンにとって安倍、麻生以降の自民党政権は「軽武装経済優先」の宏池会・吉田路線と決別し、自由で開かれたアジア太平洋構想の主導者と太平洋版NATOの盟主を演じる軍事優先路線を求められている。経済政策は二度と米欧を脅かさない新自由主義を基調とする低成長路線が求められ、アベノミクス的な官製株高で目くらましすればよい。

■安倍晋三の分身

高市は女性の姿に挿げ替えた安倍晋三の分身と言える。

「中国に強硬な高市が、日本で初の女性首相になるのか?」菅総理の総裁選不出馬表明に伴い、中国国営通信「新華社」傘下の新聞はこう報じた。

記事は、高市の経歴について、政界での遍歴において安倍晋三前総理と親密で、政治的な立場としては「保守に偏向」と批判した。高市が「自衛隊法を改正し自衛隊により大きな権限を与えるよう主張」しており、「侵略の歴史に対する反省が足りず、従軍慰安婦の強制連行の存在を認めていない」超タカ派であるとし、中国側の警戒感を滲ませた。

【写真】8月15日に靖国神社へ参拝した高市早苗。日本のメディアに「一人の日本人として、役職に関わらず、続けて参った」と語り、総裁や首相に就任した場合でも、同様に参拝する意向を示した。

 

上記のように高市は首相になれば必ず靖国神社を公式参拝すると語って臆しない。中国共産党の青年組織「共青団」の機関紙「中国青年報」は「女性新右翼の人物が、就任する可能性がある」との記事を掲載し、度重なる靖国神社への参拝に加え、高市は「日本の対外侵略戦争は、自衛戦争だと主張しており、他国が日本の教科書の内容に干渉することに反対」と紹介した。ウルトラ新右翼とされる所以である。

安倍は第2次安倍政権発足から1年後の2013年12月26日に靖国参拝した。 当時は約7年ぶりの現職首相の靖国参拝に中国や韓国が強く反発しただけでなく、オバマ米政権は在日大使館を介して「失望」を表明した。バイデン米大統領は当時、オバマ政権の副大統領であり、対中配慮派とみられた。だが米中対立が本格化した現在、高市新首相靖国参拝で日中関係が決定的に悪化すれば中国封じを最優先する米支配層を利することとなる。バイデン政権は若干の異論を唱えても事実上の黙認へと向かいそうだ。

安倍、高市以上に問題なのは麻生太郎である。何故、第二次安倍政権発足後、菅政権に至るまで9年近く副総理・財務大臣の座に居座っていられるのか。それは永田町・霞ヶ関とワシントンとのパイプ役として米国が必要としているからだ。これも日本のメディアはタブー視している。米支配層の傀儡麻生、安倍の発言は永田町では決定的に重い。

■主流に挑む河野太郎

9月上旬段階では、河野太郎に大きく水をあけられ高市は泡沫扱いされている。しかし「高市首相構想」は日米間で周到に練られてきたものだ。9月8日の正式出馬表明を機に河野と肩を並べる勢いだ。河野は、尖った物言い、不遜な言動で揚げ足を取られがちだが基本的にハト派路線を歩んできた。高市との争いは、この20年余り自民党主流となった安倍・清話会に挑む厳しい闘いとなる。右派からの激しいバッシングにさらされ続けている。

 

注:9月21日掲載の「自民党総裁選はCIA対日工作の檜舞台  どう介入しているのか 1」に続く。