G20首脳会議に習近平が欠席した理由 米国・G7を拒絶、黄昏るG20にそっぽ

インドで9日から開かれたG20首脳会議に中国の習近平国家主席が欠席した。その理由として、重病説、領土問題を巡るインドとの確執説、経済の低迷など内政問題忙殺説、果ては職務放棄説まで飛び交った。いずれも西側の恣意的な報道ばかりで、核心を突く指摘はなかった。ずばり欠席の理由は米欧日G7への拒絶、G20不要とみなしてのボイコットである。この問題の核心に触れる報道が見当たらないのであえて書き記すことにした。

先の南アでの新興5カ国(BRICS)首脳会議でBRICSは中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカの5か国体制からサウジアラビア、アラブ首長国連邦、アルゼンチン、エジプト、イラン、エチオピア6カ国の加盟を認め11か国体制に移行した。さらに40か国を超える国々が加盟申請したとされる。拡大BRICS11か国の世界GDPシェアは30%、人口シェアは50%にそれぞれ迫り、石油産出量は80%、エネルギー消費量も60%に迫る。GDPでG7に肉薄し、その他の指標は大きく凌駕している。しかも中長期的な視野で基軸通貨米ドルに代わる金兌換の新通貨発行を模索し始めた。OPECの石油代金決済は人民元へと進んでいる。

ユーラシア同盟からグローバル同盟へと拡大する上海協力機構(SCO)と併せ、米欧日7か国(+EU)のG7に対抗できる軸は固まった。もっとはっきり言えば、拡大BRICSは「グローバルサウス」を代表する枠組みとして19世紀以来欧米が主導してきた国際秩序に挑み始めたのである。世界は大きな転換期を迎えている。

ウクライナ戦争はG7と米国主導の北大西洋条約機構(NATO)によるロシア現行体制転換の試みである。国際刑事裁判所によるプーチン大統領への逮捕状発行により、プーチンの南アでのBRICS首脳会議出席は不可能となった。ところが対ロシア経済制裁はこれからの拡大BRICSを支えるグローバルサウスの旧宗主国G7への猛反発を生んでいる。

南アでのBRICS首脳会談で習近平は「20カ国以上がBRICSへの加盟を申請した。この事実は、この枠組みの活力と吸引力、国際情勢における戦略的価値を十分に示している」と演説した。プーチンとともにG20を欠席しG20不要を示唆することは「中露主導でつくる新たな枠組みの国際情勢における戦略的価値を十分に示すことになる」。

G20の分野別会合で最重要な財務相会合は2022年2月以降、共同声明を出せず機能不全に陥っている。7月にニューデリーで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議でも、ウクライナを巡る意見の相違により紛糾、共同声明は合意できなかった。9月のG20首脳会議でもロシア名指し非難を共同宣言に盛り込もうとするG7側とその他のG20構成国が対立し紛糾した。結局、ウクライナ情勢を巡るロシアへの直接的な非難を避け、「国連憲章に沿い、いかなる国に対しても領土保全や主権に反する武力の行使は慎まなければならず、核兵器の使用や威嚇は許されない」と記された。G7は後退妥協を強いられた。否、打ちのめされたと言える。

歴史のエポックとなった南アでのBRICS首脳会議後は、ジャカルタでのASEAN+3会合、米副大統領の出席した東アジアサミットにも習近平李強首相を代理出席させていた。G7と中露・グローバルサウスとの対立はもはや引き返せないところに来ている。黄昏を迎えたG20解散を後押ししたのが習の参加ボイコットだったとみるべきだ。

注:中国要人に直接取材できる中国問題の大家、遠藤誉さんは論考「習近平はなぜG20首脳会議を欠席したのか? 中国政府元高官を単独取材https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/baf3d5b10c92aedf3c2a98031fc5094b291b1e7f」で「習近平欠席は李強首相の外交訓練のため」と書いている。もう一押しして「習近平は自身の欠席の重さを米G7にみせつけるために外交慣れしていない李強を訓練を兼ねて代理出席させた」と書くべきではないのか。