新型コロナウイルスの感染拡大で世界各国の経済成長は総じて大幅に落ち込んでいる。こんな中、国際通貨基金(IMF)の見通しによると、2020年の中国の実質国内総生産(GDP)は前年比1・9%増で、主要国の中で唯一プラス成長となる。来年以降年平均8%成長すると予測される中国の経済規模は5年後には米国のそれに肉薄し、中国の有力研究者は2030年までには世界トップとなると見込む。これに対し、2021年1月20日に発足するバイデン米新政権が外交・安全保障と併せて、経済連携で同盟国にさらなる結束強化を促すのは必至。中国フォビアにおののく米国が軍事、経済両面で対中封じ込めに躍起になろうとする今こそ、日本はこの恐怖症と一線を画し、大きな歴史的観点から自国を省みる機会とすべきである。
■同盟強化で中国に対峙
米国の外交政策の元締めと言える「フォーリン・アフェアーズ」電子版は11月23日、トランプ大統領とシリア撤兵を巡り対立して辞任したジェームス・マティス元国防長官ら3人の共同執筆による論考「今やかつてなく米国の安全保障が同盟国を当てにする理由(Why U.S. Security depends on Alliances -Now More Than Ever)」を掲載した。これは軍事連携にとどまらず、経済、外交など全分野で中国のこれ以上の台頭を抑止するため米国はかつてなく同盟国との結束に全力を挙げることを呼び掛ける形となっている。トランプ大統領の「アメリカ第一主義」という名の「孤立主義」との決別宣言と受け取れる。
これを受ける形で、バイデン次期政権は、サプライチェーンをはじめ経済面での中国依存を削減していくためには、当然にも、米国が再び世界経済をけん引する役割を果たさなければならないとしている。成長を取り戻そうとする米国は、まずは欧州や日本、豪州などの同盟国と経済面で共同歩調をとる必要がある。だが30年近く続けてきた中国への過剰依存を脱却するのは容易なことではない。企業活動の観点では中国市場の存在感は大きくなるばかりであるのが現状だ。
■「切り離し」は可能か
バイデン次期米大統領はすでに次期政権の主要メンバー6人を紹介したが、いずれもオバマ前政権の高官だ。しかし、バイデン氏は中国の著しい台頭で「オバマ時代とは全く異なる世界に直面している」と強調している。
国務長官に指名されたアントニー・ブリンケン元国務副長官は、中国への関与政策をかなぐり捨て対決姿勢へと転じたオバマ前政権のアジア太平洋への「リバランス政策」を支えた。同氏は同盟国やパートナー国との連携を強化し、南シナ海進出や香港の統制強化など「中国の突き付ける新たな挑戦」に対応する姿勢を明確にしている。
ブリンケン氏は7月のシンクタンクのイベントで、制裁関税など単独行動主義のトランプ氏の対中政策を「同盟国やパートナー国と連携していない」と批判。特にアジアでの同盟関係を弱め、中国を利する結果となったと指弾している。だが、上海協力機構をはじめとするロシア、中央アジア、南アジア、そして東南アジアへと拡大する可能性もある中華経済ブロックとどのようにデカップリング(切り離し)を進めて行くのかについてはまだ口をつぐんだままだ。
■中国主導の新世界秩序
一方、中国指導部は「平和と発展」、「人類運命共同体」を唱え、「覇権は求めない」と強調している。しかし、習近平総書記は2014年11月の中央外事工作会議において「国際システム変革の方向は変わらないという点をはっきり認識しなければならない。今日の世界は変革の世界であり、新しい機会や新たな試練が続出する世界であり、国際システムと国際秩序が深く調整されている世界であり、国際的な力関係が大きく変化し平和と発展に有利な方向へと変化している世界だ」と述べた。
ここで言う「平和と発展に有利な方向へと変化する世界」とは「国際的な力関係の大きな変化」を前提としている。これは「アメリカ一強を前提としたアメリカ主導による国際秩序から、多極化、グローバル化した世界における新しい国際秩序が生み出されており、それを平和と発展に有利な方向へ中国が主導する」との主張と受け取るのが自然だ。
米中貿易戦争の只中の2018年6月に開催された同会議では習氏は「中国の特色ある大国外交」を提唱し、「公正と正義の概念に基づき、(今こそ中国が)世界統治システムの改革を主導しなければならない」と述べた。
■米欧の中国フォビア
オーストラリアの元首相(2007年から13年までに二回就任、写真左)で日豪安保協力に慎重姿勢を示し、かつて親中派とみられたケビン・ラッド米アジア・ソサイエティ政策研究所所長は今や中国敵視をむき出しにしている。ラッド元首相は上の習発言を引用し、「自国中心の世界秩序を打ち立てるという野心を、中国がこれほどあからさまに宣言したことはかつてなかった。世界はしっかりとシートベルトを締め、荒波に備えるべきである。」と”警告”する。
日本は経済力で世界の頂点に立とうとする中国にどう立ち向かうのか。戦後の日米関係のみならず、明治維新以降の対中関係を冷静により深く洞察する好機とすべきであろう。決して米・NATOの中国恐怖症に軽々と乗せられてはならない。