トランプ銃撃と自民党政権の行方~岸田首相はどう延命する 差替版

トランプ暗殺未遂事件を受け、日本では岸田首相の命運は尽きたと断定する向きが圧倒的である。理由は事件でトランプの大統領復帰の勢いがさらに増し、バイデン政権を後ろ盾にしてきた岸田首相は万事休すというわけだ。これで首相は9月の自民党総裁選出馬を断念、8月末にも退陣表明すると解説されている。果たしてそうだろうか。

2022年12月掲載論考「米国の日本支配に背を向け敗戦否認する政治報道 報道の自由放棄し戦後史歪曲 」をはじめ本ブログはアメリカファクターを抜きに永田町国盗り物語に矮小化された国内政局解説はナンセンスであると繰り返し訴えてきた。戦後日本は米軍産複合体、ウオール街によって作られ、その実行部隊がCIAであったと断じても大過ない。すなわちバイデン、トランプ両陣営の対日政策の根幹は党派を超えて「日本に再び牙を剥かせない」「米英NATOの捨て駒として最大限活用する」で共通している。ワシントンが日本の繁栄と自立を支え日本を守ってくれると考えるのは妄想だ。

であるならトランプ陣営にとっても岸田政権の利用価値は変わらない。軍産、ウォール街の日本の代理人、麻生太郎は4月末米国でウオール街とそりの合わないトランプになぜ会ったのか。日本の防衛費増額を称賛したトランプは自身のSNSに日本の麻生太郎元総理大臣をトランプタワーにお招きでき光栄だ」と投稿。両者は一時間以上話し込んだと伝えられている。推察するに麻生が岸田続投に全力を挙げていることにトランプも理解を示したはず。麻生と米国の関係については「『安倍国葬』指示した麻生太郎の権力の源 保守本流の祖吉田茂の血統と人脈 」などを参照されたい。

東京裁判を憎悪し、皇国史観を一知半解に身にまとい、安っぽく「日本を取り戻す」と唱えた安倍晋三と「創生・日本」を叫ぶ国粋右翼グループを主力とする清和会(安倍派)は米英の管理下で日本を軍事大国化するためにその大国志向の右翼バネを利用されたにすぎない。この問題も「保守「主流」逆転と米国の圧力 反共強国と清和会支配1」「バブル崩壊と伴に「保守本流」排除加速 反共強国と清和会支配2 」を嚆矢とする2021年から2022年安倍暗殺後の「日本は「失われた30年」から「暗黒の30年」へ ポスト安倍政治の現実 」「米政権の豹変と安倍国葬 「血を流せる国」にすると冷遇一転し絶賛 」を参照ねがいたい。

日本の戦後政治の流れは第二次安倍政権(2012~2020)以降Uターンした。すなわち米国は「軍事大国日本」を戦前・戦中の対米協調派の流れをくみ、1947年憲法を中核とする米国の初期対日占領政策に従順だった吉田茂を祖とする戦後保守本流にハンドルさせることにした。吉田茂は岸信介の巣鴨プリズンからの釈放に内心忸怩たるものがあったはずだ。反共防波堤としての日米安保体制作りのためワシントンの力により政界に返り咲いた岸が米国から与えられた潤沢な資金を利用して多数派工作し、吉田率いる自由党を併合する形で自民党結成・保守合同を成し遂げ自民対社会二大政党の55年体制を構築した。しかし、岸、鳩山一郎の日本民主党に長期政権の終止符を打たれた吉田は1957年まで自民党への参加を拒み続けた。

岸田文雄は2012年に吉田茂を源流、池田勇人を始祖とする保守本流派閥・宏池会の会長となった。民主党を3年で政権から下野させる直前であった。第二次安倍政権はこの岸田文雄を専任では戦後最長の3年半も外相として登用し、日本の保守政権として最重要な対米外交、日米安保の抱える様々な課題に取り組ませた。岸信介を源流とする右派派閥・清和会(安倍派)と岸田率いる宏池会は水と油である。大半のメディアは「安倍は岸田を後継させる」と伝えたが、安倍が先の2021年自民党総裁選で後援したのは安倍派脱会者でウルトラ右翼高市早苗であった。このことをみても岸田政権を誕生させたのはどの勢力かは明々白々である。

総裁再選を望んでいる岸田首相はしばしば「取り組んできた課題は道半ば」と口にしてきた。意味深長である。日本政治のUターンが道半ばではないのか。麻生とワシントンに支えられ、岸田はいまも延命の道を模索している。

こんな中、自民党衆院議員総会長を務める超ベテラン議員船田元が7月1日、派閥裏金事件への対応を巡り岸田文雄首相の責任論が党内で浮上していることに苦言を呈した。「首相が責任を取っていないとの批判は当たらない。まだまだ売り出す価値のある岸田首相だ」と訴え、首相の功績として、防衛費や子ども政策の予算増額を挙げた。東京都知事選や都議補欠選挙の最中に首相の退陣を求める声が出ていることについても、「今言うべきことではない。この時期に内輪もめしているような姿は見苦しい」と批判している。

船田は小泉政権以降の清和会主導の自民党を「右傾化していると批判」し、安倍晋三が掲げた「戦後レジームからの脱却」、靖国参拝やA級戦犯合祀にも否定的である著書「政界再編」では日本における外国人参政権を提言。現在の自民党内では最も反安倍=リベラルな姿勢を打ち出している上の船田の発言への目立った反発は出なかった。自民党議員の岸田退陣の声は表向きのものであるとうかがわせる。

「まだまだ売り出す価値のある岸田」との船田の声はワシントンの動きに歩調を合わせたかのように発せられた。自民党議員の多数が旧派閥の壁を超えて船田の言葉に内心うなずいているのではないか。日本の政治がどういう力によって動いているかは安倍暗殺とそれに続いた安倍派解体に震撼している彼らが一番わかっているからだ。しかし、内閣支持率も党支持率も致命的に落ち込んでいる。本当に岸田政権は延命できるのか。その答えは後一月余りで出る。