「『中国の台湾侵攻』はないー」 ようやく現れた日本人の良識論

「202●年に中国は台湾に侵攻する」「台湾有事に尖閣が巻き込まれるのは必至。台湾有事は日本有事と心得よ」。右派論壇を中心に中国脅威が過剰に煽られるようになり久しい。“そのかいあって”、「憲法九条「改正」賛成」、「防衛費増のためには社会保障費削減もやむなし」「敵基地攻撃能力保有に賛成」との世論が大勢を占めるようになった。この勢いが日本人の大勢順応性向に拍車を掛けることを憂慮する人もまた少なくない。こんな中、「「中国の台湾侵攻」はあり得ない。今のところ可能性ゼロ」と断言する良識的な日本人論者がようやく現れた。これを九牛の一毛にしてはならない。まず中国の習近平国家主席が近年、台湾政策についてどう述べているかを確認した上で、この論者の主張を紹介する。

■割愛される習近平の抑制的言葉遣い

2022年10月中国共産党大会での発言。

「『平和統一、一国二制度』の方針は両岸の統一を実現する最善の方法だ」「われわれは最大の誠意と最善の努力で平和的統一の展望を目指すことを主張するが、武力行使の権利を放棄することは決して約束せず、あらゆる必要な措置を取る選択肢を留保する」。

続いて、2019年1月の中国が台湾に平和統一を呼びかけた「台湾同胞に告げる書」発表40周年記念式典での5原則の提示発言。

  • (1) 台湾同胞も中国人であり、ともに「中華民族の偉大な復興」を推進する (2)「一国二制度」の台湾モデルを模索する (3)「一つの中国」原則を堅持し、台湾独立には絶対反対。武力使用の選択肢放棄しない (4) 中台の経済協力を進め、融合的な発展により平和統一の基礎を築く (5) 共通の文化を持つ同胞が心を通わせる交流を止めず、平和統一に向けた合意を育む

  • この5原則では「平和統一」が2回、「武力使用」は1回出てくる。ただし、「武力使用」は「その選択肢放棄しない」とされている。日本のメディアはおしなべて「平和統一の基礎を築く」、「平和統一に向けた合意を育む」との発言は割愛し、「決して武力行使放棄せず」と威嚇を前面に出す。習近平は「決して」を使っておらず、「武力行使」ではなく「武力行使の選択肢も」と抑制的に語っている。
  • とにかく中国が脅威であり、その強権的な専制的体制を読者、視聴者にアピールする書き方でないと「社内検閲体制」を通過しないのだ。
  • 10月中国共産党大会の習近平演説に戻る。
  • 「我々は最大の誠意をもって、最大の努力を尽くすことを堅持し、平和的統一という未来を目指していくが、武力行使の放棄を決して確約するものではなく、あらゆる必要な措置を取る選択肢を留保する。」(人民日報)
  • 日本のNHKはこの発言を「中国の共産党大会で習近平国家主席が台湾統一のためには武力行使も辞さない姿勢を示したことについて、松野官房長官はアメリカなど関係国と連携し、台湾海峡の平和と安定の重要性を国際社会に強く訴えていく考えを示しました。」と強調。習近平発言を「最大の誠意と努力で平和的な統一を堅持するが、決して武力行使を放棄せずあらゆる必要な措置をとるという選択肢を残す」と引用した。習近平の抑制的表現は意図的に削除された。
  • ■注目の論稿

さて、注目の記事は「海外の情報筋、チャイナ・ウォッチャー、国内の情報筋などから入手した情報では、台湾進攻の可能性はまずない。理由は三つある」とする。

ひとつは、中国の歴史的な実績。中国は大国だが、歴史をひもとくと、中国の側から戦争を仕掛けたことはフビライハン以外にない。対外侵略で覇権を握るより、国内政治闘争の方が数倍も重要な国だ。

二つ目。現在の共産党首脳部がおかれている環境だ。習近平国家主席は共産党はおろか、14億人をコントロールできる専制権を確保したように見える。だが、国家主席に正式就任するには来年3月の国会の承認を得なければならない。まだ単独のトップではない。現在のチャイナセブン(党政治局常務委員)は忠誠を誓う側近だけを意図的に配備したが、共産党内部の派閥争いは激しい。習近平派と、胡錦涛派、故江沢民派の三つ巴の争いを繰り広げている。このような党内環境で、台湾侵攻という大きなリスクはとれない。

三つ目。中国の政治が今置かれた、外交問題、経済問題がある。米中経済戦争は極めて厳しい局面にある。米国は中国の海外覇権の野望を封じ込めるために、必死で経済制裁を行っている。同盟国も巻き込んだ半導体の輸入規制や、中国のハーウェイなどの企業の輸出を禁じたりして、中国のGDPが激減するように激しい攻勢をかけている。こんな中、軍事侵攻などする余裕はない。

このような三つの理由から、台湾侵攻というのは、外交上のつばぜりあいに過ぎない。現実問題として考えるにはあり得ないレベルである。

別のアングルからこの問題を見ると、「だれが台湾侵攻で儲けるのか?」に行き当たる。ロシアのウクライナ侵攻がなかなか終わらない。とうにロシアの軍事補給物資も、ウクライナのそれも尽きているのに、なぜ1年近くも戦争が続いているのか?

軍事物資を支援する国、ロシアとウクライナの双方の国に戦費を貸し付けている集団がいる。

アメリカには、軍産複合体(Military Industrial Complex)がある。米ソ冷戦が終わった1990年代から兵器産業の企業数は減ったものの、まだまだ多くある。そして、ウクライナ侵攻では、アメリカの軍事産業の売上は2兆円に達するとのこと。トヨタの年間純利益の2倍に達する、途方もない大繁盛だ。

軍事産業は10年に1回、大きな戦争がないと業界自体が持たない。もっと狡猾なのはイスラエルだ。ユダヤ人の巨大資本が、ロシアとウクライナの双方の国に戦争資金を兆円単位で貸し付けている。返済が終わるのは、100年先から200年先。日露戦争の際に高橋是清がロスチャイルド銀行から戦費を借りたが、日本国として完全に負債返済が終わったのは1960年代、田中角栄政権当時だった。

そして台湾侵攻の陰には、米軍統合参謀本部長が「台湾侵攻は身近に迫っている」と繰り返し日本に警告しているが、果たしてそれは誰のためのメッセージなのか?

アメリカの軍産複合体を儲けさせるためのマッチポンプではないのか。コロナ禍の3年間でも、一大事を画策する人たちと、大儲けをした業界が明らかになってきた。英米の製薬業界と医者をはじめとする医療業界だ。

陰謀説を唱えるわけではない。庶民の日常をゆるがすような大きな危機を訴える動きに対しては、その前提となる基礎条件、経済条件を疑ってかかってみるのが良い。

🔷結語

実に分かりやすい常識的な記事である。こういう良識的な議論をできるだけ広めなければならない。

日本政府は中国に向けたミサイル・トマホーク500発を米国からの言い値で買わされる。奄美から石垣島まで自衛隊基地を建設し、地元の人々を恐怖のどん底に陥れ、誰が一体どれだけ儲けるのか。日本政府は沖縄を何度犠牲にすれば気が済むのか。

中国の脅威、台湾の危機、沖縄・南西諸島から日本全域が中国のミサイルの標的になっていると騒いで儲けようとしている業界の筆頭はマスメディアである。今や存続の危機を通り越し消滅必至の新聞業界は断末魔のごとく喚き、金切り声を上げている。今こそ読者はより研ぎ澄まされたリテラシーを必要としている。