ウクライナ軍は11日、ロシア空軍がウクライナ国内から国境付近のベラルーシ領内に侵入し空爆したと発表、空襲は「ベラルーシをウクライナへの戦闘に引き込むための偽装工作」とロシアを非難した。これについて米国防省筋は直ちに「ロシア軍がベラルーシの集落を爆撃したとの情報は確認できない」と否定した。このため、さすがに西側メディアの中にも「ウクライナ側が情報戦を仕掛けたのかもしれない」と報じる向きが出て来た。ウクライナ当局の発表をそのまま垂れ流してきた西側の記者たちも良心の呵責に苦しんでいる証である。だがこれが「蟻の一穴」となるとは期待できない。彼らはウクライナ側の行き過ぎた情報工作に悩みながらも、ロシア非難をゆるめられない厚い壁に阻まれている。
■ロシアは「魅力のない社会」
ロシアの退役将官の中から「ロシアは魅力のある社会を築けなかった」との声が出た。この言葉は重い。
NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大にも断固反対しているイワショフ退役大将=写真=はこの1月、「公開書簡」でウクライナ侵攻に強く反対し、「プーチン辞任」まで求めたとされる。書簡は偽造との声もあるが、ここでは議論は割愛する。
ウクライナに侵攻したロシア軍の苦戦の一因として兵士の士気の低さが挙げられている。加えて、国外から搬入された対空ミサイルを含む最新鋭兵器がウクライナ側にあり、それによって予想外のダメージを受けたうえ、兄弟国への侵攻に大義を見いだせないロシア軍将兵の士気が上がらないのもうなずける。
欧州最後の独裁者と批判されているベラルーシのルカシェンコ大統領はいまや欧州域内での唯一のプーチン大統領の盟友である。西側の人々の大半はスラブ世界を遅れた社会とみなしてきた。彼らにとってアジアはもっと民主主義とは程遠い後進世界である。それは長い歴史的経過の中で刷り込まれており、彼らの間では「民主主義は非米欧社会では定着しない」との観念が極めて根強いものになっている。日本に対しても例外ではない。
■中国「侵略の米国史」を糾弾
「中国人権研究会による『米国の対外侵略戦争』に関する論文によると、第2次大戦終結から2001年までに世界153の地域で発生した248回の武力衝突のうち、米国の発動したものは201回に上る。また、米国は代理戦争の支持、反乱煽動、暗殺、武器弾薬の提供、反政府武装組織の育成などの方法で頻繁に他国に干渉して、その国の社会的安定や民衆の安全に深刻な被害をもたらした。…米国の発動した対外戦争は数多くの死傷者、施設の破壊、生産の停滞、大量の難民、社会的動揺、環境危機、心理的トラウマなど一連の社会問題をもたらした。」
これを大筋認めているのか、ワシントンは目立った反論はしていない。
■米ソフトパワーの優位性
ワシントンは第二次大戦後、若者を中心に世界に米国文化の魅力を売り込んだ。ソフトパワー外交はオバマ政権(2009-2017)でスマートパワーにまで昇華した。国際政治学者でジャパンハンドラーとして知られるジョセフ・ナイは1980年代のアメリカ覇権衰退論に与せず、ハード・パワー(軍事力、資源)ではなくソフト・パワー(政治力、文化的影響力)という概念を用いて議論を行いアメリカ政治学界の第一人者となった。
「相手国から望ましい結果を引き出すためには、軍事力や経済力を行使するハードパワーと文化や価値観、外交政策などの魅力によって支持や共感を得るソフトパワーをうまく組み合わせて使うことでよりよい関係を構築できる」。この力が米国の絶対的な優位をもたらしたと説く。
【写真】『アジアは米国の「スマート・パワー」に警戒すべし』との社説を左のクリントン米国務長官(オバマ政権当時)の写真とともに掲載した2010年11月16日付『環球時報』。
一例として、2019年現在の米国への留学生の出身国を見ると、中国が約37万人と全体の3分の1を占め、09年度以降断トツである。これだけみても今後の中国社会の動向がある程度占える。
ロシア、中国には米英のダブルスタンダードを打ち破るだけのソフト面での力に欠ける。だからといって世界に大きな悲劇をもたらし続ける西側支配層の裏での動きは黙認できない。
これが現代政治の最大のジレンマと言える。