マクロン大統領の4月5日から7日までの中国訪問に先立ち、フランス大統領府が5日、「マクロン氏はバイデン米大統領と電話協議し、ウクライナでの戦争終結加速に向けて中国の関与を求める立場で一致した」、「戦争終結加速のため中国の関与を求め、地域の持続可能な平和構築に参加する共通の意思に言及した」と発表。このにわかには信じがたい米政府の「態度豹変」ぶりを衝撃的と受け止め、ウクライナに和平が迫っているかのように報じたメディアもあった。
ロシア現体制を崩壊させるためにウクライナに代理戦争を行わせている米ネオコンの立場に立てば、ロシアと事実上の同盟関係にある主敵・中国に戦争終結に向けた関与を求めることなどあり得ない。それは4月3日に掲載した論考「ウクライナから中露の裏庭へ戦線拡大へ 米ネオコンは中央アジアで賭けに出るのか」で強調したところだ。第一、米ネオコンが仕切るウクライナ政府がロシアの主張するウクライナ東部の独立やロシアのクリミア領有権を認めて停戦、和平協議へと進むことは100%あり得ない。ロシア軍の完全撤収も然り。ウクライナの住民の犠牲などまったく考慮されていない。
元々、フランスは米国主導の北大西洋条約機構(NATO)と距離を置いてきたし、ドイツと共に米国抜き、ロシア参加の全欧州安保体制を構想してきた。独露間の海底天然ガス・パイプライン「ノルドストリーム」の爆破がバイデン米大統領の指示だったとの限りなく濃い嫌疑はウクライナ戦争自体がロシアだけでなくドイツ、フランスひいては欧州経済の破壊を狙っていることを暗示した。
米ネオコンはイラク開戦に反対した独仏から久しく厄介者扱いされてきている。中国圏・グローバルサウスの拡大次第では、大陸欧州と中露がユーラシアブロックとして結束し、NATOが解体していくことも大いにあり得る。「アメリカよ西半球に戻れ」。歴史の潮流はこう促しているようだ。ただし、マクロンは従米色の濃い欧州委員会の長を同行させ、ワシントンをなだめた。
マクロンとホンデアライエン欧州委員会委員長の中国滞在中、バイデンはホワイトハウスのホームページに中仏会談について何のメッセージも掲載しなかった。米政府のメッセージは何も見当たらない。NYTは「中仏首脳はさほどウクライナについて討議しなかった」「中仏は米国の立場と離れてウクライナ問題を論議した」などと真相には程遠い地味な報道に終始した。「戦争終結加速のため中国の関与を求める立場で一致した」と仏大統領府に明かされたバイデンの沈黙は何を意味するのか。米政権内の意見対立とネオコンの強硬姿勢が圧倒していることを示唆しただけではないのか。