人民民主主義の形骸化を克服できるのか 超大国・中国のアポリア

中国はコロナ危機を脱し世界トップに向かって経済成長の道をばく進中だ。これだけでなく、コロナ騒動を機に西側の記者、潜伏する諜報機関員を国外退去させ、香港やウイグル問題を利用して中国の体制転覆やカラー革命を試みようとする動きを封じ込めた。「災いを転じて福となした」中国指導部は日々溢れんばかりの自信を共産党機関紙はじめ支配下メディアを介して全世界に発信している。だが中国の政治体制に多元主義をどう導入するのか。換言すれば、形骸化している人民民主主義に息吹を与え、市民の政治参加をどう促すのか。この問題意識はまったく見いだせない。確かに1978年以来の改革開放政策は古典的な社会主義の教義の枠を打ち壊した、瞠目すべき実験であった。40年余り経て中国は国家資本主義による経済面での成功を収め、これを「特色ある中国の社会主義」と言い繕っている。この成功体験は党指導部を過信へと導き、アポリア克服への道を忘却させているのではないか

■プロ独の破綻

今年は中国共産党結党100周年。それだけに改革開放政策の大成功に関するプロパガンダにいつにもまして力が入っている。日々掲載されるプロパガンダ記事に目を通しての問題点は、プロレタリア独裁と人民民主主義を今日の状況を踏まえてどう解釈し、一党独裁を超克できる民主制を中国にどのように導入するかという世界が最も注目する課題はまったく言及されない。課題意識すら感じられない。

もちろん、マルクス主義の教義によれば、プロレタリアート独裁(プロ独)は共産主義へと移行する過程社会主義段階においてブルジュア反革命を防ぐための過渡的な手段であった。だが1917年にロシアで起きた10月革命以来の教訓はプロ独イコール前衛党独裁として恒久化したことだ。これはマルクスの説く「資本主義近代の超克」をまったく実現できないどころか、政治システムを前近代的な専制主義へと逆行させた。1989年のベルリンの壁崩壊を端緒とする東欧スターリン主義社会のドミノ的崩壊、そして1991年にはソ連邦があっけなく消滅した。この歴史的事実は労働者階級の利益は単一の前衛党により代表されるとするレーニン主義の破綻でもあった。

■「人民民主主義」どう実現

中国共産党指導部に求められるのはこの歴史的事実を踏まえ、ブルジュア民主主義を超えた人民民主主義をどう実現するかというアポリアにどう取り組むかではなかろうか。

人民民主主義体制は、前衛としての労働者階級のみならず広範な人民の利益を代表せんとする政体とされた。したがって人民民主主義体制では、共産党以外の社会民主主義政党、農民政党、宗教政党や民族主義政党、さらにはブルジュア政党も「統一戦線」の名の下に議会の議席を占めている。しかし、今日の中国もそうだが、憲法に前衛党(政権政党)の指導が明記されている。共産党以外の政党は、統制下に置かれた衛星政党であり、議席数の変動など望むべくもない。

そもそも中国共産党の結成は圧政と専制からの自由を目指した。ところが1949年の中華人民共和国の建国以降の歴史は文化大革命に象徴されるように指導部の権力闘争が極め付きの専制と人権侵害を生んだ。そうであるが故に、市民の生活の場としての中国社会が現体制下で新たな人民民主主義体制、つまり多元主義の可能性を模索していくかどうかが知りたい。大方の中国の市民の要求もそこにあるのではなかろうか。

■米国覇権の災厄に対抗せよ

日本を含め西側諸国には政府とメディアの合作した「中国恐怖(シノ・フォービア)」と「中国敵視」がまん延している。これを北京はどう乗り越えようとするのか。現代世界の難題の1つは、「自由、人権、民主主義、法の支配」という普遍的価値の共有を謳う米欧諸国、とりわけ米英の政府が金融資本、軍産複合体、諜報機関などで構成する表に出ない権力に支配され、民主化の名の下、理不尽な軍事介入反米体制の転覆を繰り返していることだ。現代世界の最大の課題はこの米国の暴虐に歯止めを掛けるシステムが構築されないことにある。

中国指導部は外に向け「運命共同体の構築」を発する。この共存・共栄を示唆する言葉はあまりに抽象的にすぎる。これは「自由、民主、人権の擁護」という中国民衆にとっての喫緊の国内課題に背を向けるための用語ではないかと疑う。

「アメリカと対立するな、国際システム全般に挑戦するな、『反欧米陣営』のリーダーになるな」などと受け取られてきた鄧小平の遺言「韜光養晦(能力を隠して力を蓄える)」は完全に破棄されたことが改めて理解できる。今や中国外交は「『韜光養晦』から『奮発有為(勇んで事をなす)』へと大転換した」とする見方が一般的だ。この転換は北京五輪のあった2008年ごろから始まり、習近平政権(2012年12月~)で定着したとされる。この「奮発有為」は間違うと自信過剰、悪しき意味での大国意識につながる。

中国指導部が今日の独裁・専制主義体制の上に胡坐をかき自己改革を怠ってしまえば、政治的自由の要求民衆の反発は水面下で確実に高まっていこう。今日の米中対立を巡る「専制主義体制に対する民主主義の闘い」とのバイデン米大統領の言葉は習近平指導部というより、中国民衆へ呼び掛けたものと思える。

北京に期待されているのは、米国覇権に伴う現代世界の弊害と惨禍を抑制する対抗勢力として中国が西側で認知されることではあるまいか。そのためには多元主義導入に基づく政治改革が必須となる。困難な道ではあるが、世界はネオコン、ネオリベの支配する米国型政治との決別を求めている。

■2つのコラム

2020年12月31日 人民日報

中国経済の底力を証明した2020年 コロナ禍乗り越え、貧困解消を実現

 

2020年は中華人民共和国の歴史において特別な1年となった。

 新型コロナウイルスの発生により中国の経済、社会は未曽有の影響を受けた。それでも厳しく困難なこの歴史的試練に耐え、感染の抑制と経済の再開を両立させ、世界の最先端を走っている。中国共産党創立100周年に当たる2021年までに小康社会(ややゆとりのある社会)を全面的に完成させる「第1次100年奮闘目標」の達成に向けてまい進する節目の1年となった。

一連の経済統計は、中国経済の底力を証明している。5月にはサービス業がプラス成長に転じ、6月には輸出入貿易がプラス成長となり、7月は小売業が回復した。今年の第1~3四半期(1~9月)の国内総生産(GDP)は前年同期比で0.7%の成長を記録した。

 経済の安定回復により、第1~3四半期の固定資産投資も前年同期比で0.8%増となった。中国江蘇省(Jiangsu)の蘇州市(Suzhou)と南通市(Nantong)を結ぶ滬蘇通(こそつう)長江公鉄大橋が完成し、四川チベットなどの大型プロジェクトも進展している。第5世代移動通信システム(5G)や人工知能(AI)などの新型インフラの建設も加速している。

 消費も徐々に回復している。10月の国慶節(建国記念日)連休期間は観光客が昨年の約80%までに復調。11月11日を中心とした世界最大のオンラインショップセール「双11」では、何億もの人々が商品を購入した。10月の飲食店の売り上げは前年同月比で0.8%増となった。貿易も活発さを取り戻し、第1~3四半期の輸出入総額は0.7%増を記録している。

 コロナ禍に対応する中、新しい生活・経済様式も生まれた。在宅勤務やオンライン教育が浸透し、クラウドコンピューティングやAIなどの新技術が急速に発展。デジタル経済やスマート製造業などの新産業が中国経済をけん引している。

 市民の生活を保障する環境も進んでいる。1~10月の都市部の新規就業者は1009万人に達し、政府の年間目標900万人を前倒しで突破した。政府の基準でリストアップしたすべての農村が貧困層から脱却し、長年の目標だった貧困撲滅を達成した。

 経済の安定回復は、政府の強力なリーダーシップがもたらした。コロナ禍において企業を苦境から救うため、減税や手数料減免の規模は2.5兆元(約39兆7000億円)を超え、金融システムが実体経済にもたらした利益は1.5兆元(約23兆8000億円)と推計されている。生産や就業の回復、産業チェーンの維持が国民経済の循環を保ち、中国経済は強い回復力と活力を見せつけている。

 2020年の1年間は、中国があらゆるリスクや試練を克服する底力と知恵を備えていることを証明した。風雨や荒波を乗り越えた「巨大船中国号」は、社会主義現代化強国の総合的建設に向けて新たな1年を迎える

2021年01月05日 2021年、中国は大国外交の新たな道を邁進

2021年は中国共産党建党100周年であり、第14次五カ年計画の始動する年でもある。中国が新たな時代において新たな発展段階に入るのにともない、中国の特色ある大国外交は新たな道を邁進していくことになる。

2020年を振り返ると、中国外交の最大のハイライトとなったのは「オンライン首脳外交」だ。習近平国家主席は大国の指導者としての世界的な視野と使命感をもって、オンライン形式で各国首脳や国際組織のトップらと87回にわたる会談や電話会談を行い、重要な二国間・多国間活動に22回出席して、世界の新型コロナ対策のために団結・協力の旗を打ち立て、世界経済に力強い回復への自信を与え、グローバル・ガバナンス体制の改革に明確で実行可能な方向性を指し示した。

新たな道において、中国は引き続き首脳外交がリードする形で、主要な大国との関係の安定的発展を推進し、周辺国及び発展途上国との団結・親善を強化し、国際・地域協力を深め続け、国際社会と共に人類運命共同体の構築という偉大なプロセスを推進する。国家レベルでは、中国はさらに多くの友好的パートナーと二国間の運命共同体を構築しつつある。地域規模では、各国はすでに周辺運命共同体、アジア太平洋運命共同体、中国ASEAN運命共同体、中国アフリカ運命共同体、中国アラブ運命共同体、中国・中南米運命共同体の構築について共通認識に至っている。世界的規模では、中国側はサイバー空間、核安全保障、海洋などの運命共同体、及び人類衛生健康共同体の構築を提唱し、前向きな反応を得ている。2021年は中露善隣友好協力条約調印20周年、上海協力機構(SCO)創設20周年、中国ASEAN対話関係構築30周年であり、中国アフリカ協力フォーラムの新たな会議も開かれる。中国はこうした重要な節目を契機に、引き続き人類運命共同体の構築推進に力を入れていく。

新たな道において、中国は開放と協力の質をさらに高め続け、質の高い「一帯一路」(the Belt and Road)共同建設を後押しし、大規模な市場優位性と内需の潜在力を充分に発揮し、自身の発展によって世界の経済回復を推進し、中国の発展によるメリットを各国とより多く分かち合っていく。地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の早期発効・実施を後押しし、中国EU投資協定の早期調印を目指し、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)への参加を積極的に検討する。

新たな道において、中国はグローバル・ガバナンスの変革に主体的に関与し、引き続き多国間主義の理念を実践し、各国と力を合わせて様々な世界的試練に対処し、より公正で合理的なグローバル・ガバナンス体制の構築を後押しする。国連の創設時加盟国及び国連憲章の最初の署名国として、中国は一貫して国連の事業を支持しており、多国間問題への積極的な関与を日増しに深めている。2021年は中国の国連における合法的議席の回復から50年の年にあたるほか、世界貿易機関(WTO)への加盟から20年となり、中国は「生物多様性条約」第15回締約国会議を開催する。中国は引き続き多国間主義を発揚し、グローバル・ガバナンスの整備と世界的な試練への対処に新たな、そしてより多くの貢献をしていく。

2021年に目を向けると、世界各国の人々は苦難を共に切り抜け、手を携えて前進することを一層必要としている。国際情勢がいかに激しく変化しようとも、中国は確固として平和・発展・協力・ウィンウィンの旗印を高く掲げ、平和・発展・公平・正義・民主・自由という全人類共通の価値を堅守し、揺るぎなく各国の人々と共に人類運命共同体の構築に尽力し、平和が永続し、普遍的に安全で、共に繁栄し、開放的・包摂的で、クリーンで美しい世界の構築に尽力していく