「安倍氏の心臓に穴」と救命医 警察これに蓋して4カ月 絶望的なメディアの沈黙

安倍元首相暗殺を巡って決定的な問題がうやむやにされ、闇に葬られつつある。7月8日に銃撃され心肺停止状態で搬送された安倍氏の救命に当たった大学病院の医師は「右首の付け根から入った弾が心臓を破損していた」と記者会見で証言=写真=。警察庁は「左上腕部を狙撃され左右の鎖骨下の大きな動脈を破損。これによる失血」=下の図=として大学病院の救命医の証言を無視した。この見解の齟齬が明るみに出て間もなく4カ月。メディアは「もう済んだ問題」とばかりに頑なに沈黙を続けている。

朝日新聞は10月2日付朝刊で「衆院は1日、安倍晋三・元首相の国葬を検証する与野党協議会の初会合を開き、今国会中に一定の方向性を出す方針。国葬開催のルールや、国葬の実施を決定する手続きに国会が関与する仕組みなどが論点となる。ただ、…どこまで意見集約できるかは不透明」と報じた。

国葬問題はそれはそれとして、最も不透明なのは、事件当日の安倍氏の被弾状況、死因を巡る救命医と司法解剖医の間の見解を巡る決定的な齟齬である。安倍暗殺事件の真相究明は重みと緊急性で突出していながら、事件は疑問と謎のデパートとなっている。だが突き詰めれば司法解剖に当たった警察当局の発表が救急救命に当たり開胸手術を行った大学病院担当医の証言と一致しないことに極まる。

実行犯とされる山上徹也容疑者は11月末まで精神鑑定のため鑑定拘置中。もうメディアは山上容疑者の現況についても忘れたかのように一切報道しない。鑑定勾留は延長されそうな気配がある。警察は公判で司法解剖結果を明らかにすると言った。ということは7月段階ではすべてを明らかにしなかったことになる。警察は安倍氏は2発被弾したとし、首の銃創を認めたが被弾の箇所と角度からみて弾が心臓に向かうことはあり得ない。だからこの説明を避けたのではないか。大学病院が指摘した銃創と銃弾の心臓命中は山上容疑者の発砲では不可能である。端的に言えば、誰かが右首に直接銃口を充てて心臓めがけて下に向け発射したとみるのが最も自然である。遠距離からでは心室を確実に射抜くのは極めて難しい。

「図は警察庁の説明を基に読売新聞が作成した。首に命中した弾丸の方向に留意したい」

山上容疑者を心身喪失を理由に不起訴処分として刑事責任を問わなければ、公判は開かれず、真相は未来永劫に明らかにならない。そもそもそれが目的の長期鑑定勾留に思われてならない。

1963年11月22日に起きたケネディ大統領暗殺事件では10日後の同年12月1日にジョンソン大統領は暗殺真相究明のため、アール・ウォーレン連邦最高裁長官を委員長とする七人委員会(ウォーレン委員会)を任命。12月10日にはダラス市警および連邦捜査局(FBI)の調査報告書がウォーレン委員会に提出された。これに対し、ロバート・ケネディを長官とする司法省は、オズワルドを単独犯としたFBI報告を不満として拒絶した

岸田内閣は政府、あるいは国会になぜ安倍暗殺真相究明のための調査委員会を立ち上げないのか。自民党安倍派、野党もまったく動かない。声すら上げない。1976年2月4日発覚したロッキード事件では、米上院チャーチ委員会での証言内容を受け、検察などの本格的捜査の開始に先立ち、衆議院予算委員会は同年2月16日から数回に渡って事件関係者を証人として喚問し、事実上の調査委員会の役割を果たした。今回はワシントンににらまれているので何もしないというのか。そう疑われても仕方がなかろう。

マスメディアの完全沈黙はさらに不気味で、まさに怪である。「ウオッチドッグ」としての最終死亡宣言を自ら発している。

 

<注:8月10日掲載記事「笑い飛ばせぬ安倍謀殺説、検証は必須 安倍は踏み台から降り身伏せた?」を参照されたい。