「影の政府」考1:剝げ落ちる「近代民主主義社会」というメッキ 

台頭した中国が1955年AA会議を継承しロシアやサウジアラビアをはじめアラブ諸国、そしてG77、グローバルサウスと呼ばれる旧被植民地国を結集させている。1996年に発足した中露主導の上海協力機構(SCO)がユーラシア同盟から反米欧グローバル同盟へと発展している。さらに中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカによるBRICSが同じく米英アングロサクソン同盟、日本を含む主要7か国・G7の一大対抗勢力として台頭した。日本を含む西側諸国がメディアを使いリーダー格である中国が明日にでも崩壊するとのプロパガンダに血眼になり、プーチン率いるロシアをウクライナ戦争へと導いたのは、今や少数派となり凋落しつつある米欧の焦燥の現れとみてよい。西側も決して一枚岩ではない。欧州連合の盟主ドイツ、フランスの両政府は米国抜き、ロシアを加えた全欧州安全保障体制の構築を模索している。

これらの動きを阻止しようとしているのが、欧州に残った10の王室や貴族層をはじめ米英巨大資本が結束する旧守派勢力である。ロックフェラーラー、ロスチャイルドをはじめ世界の金融支配者、国連や国際通貨基金など国際機関、著名大企業、CIAやNSA長官、米軍統合参謀本部議長、西側の有力政治家、官僚らが集うビルダーバーグ会議がその代表格である。

1954年にオランダ王室を主催者に年次会合として始まったこの秘密会議はしばしば「影の政府」と呼ばれる。政策を取りまとめそれを具体的に米政府に突き付けて実行させている「ディープステート」は外交問題評議会(CFR)とみて良い。間接的にせよ米英の外交・安全保障政策に重大な影響を与える非公開のビルダーバーグ会議の討議に、憲法で政治的発言を禁じられている欧州の王族、貴族など130-150人が出席していることが大問題である。ソ連邦崩壊で復権した中欧、東欧の旧貴族が反プーチン・ロシアの急先鋒となっている。EU首相に相当する欧州委員会委員長にフォン・デア・ライエンが就任したことが注目される。フォン(VON)は中欧、東欧の旧ドイツ支配圏での貴族の称号である。

後日、改めて本格的に論じるが、大西洋共同体の成立を名目に誕生したとされるビルダーバーグ会議は欧州の伝統貴族、爵位のない北米の新貴族=寡占資本がいかに権益を確保、拡大するかを目的に結集している。その意味では「近代民主主義社会」を否定する専制主義者の結集体である。「中世社会への回帰」を粉飾する思想が新自由主義とレッセフェール・市場原理主義といえる。旧守派勢力は近代市民社会の礎となった啓蒙思想を忌み嫌う。「近代民主主義社会」というメッキは剝がれ始めて久しい。20世紀末から弱肉強食を彷彿させる「1%対99%社会が出現し、明らかに近代社会は前近代身分制社会へと後退している。

日本の支配層は「影の政府」からは除外されている。なぜか。その背景は根深い。大西洋を跨ぐ新旧貴族の結集体は「非欧米世界を永続支配する」という妄念に取りつかれている。日本人はこれをよく噛みしめてSCOやBRICS+αという新興の反欧米勢力結集体との関係を考えてゆくべきである。