「追い詰められた米英によるテロの可能性も」 プリゴジン搭乗機墜落事件とBRICS首脳会議

モスクワ北西部トベリ州で8月23日、ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者エフゲニー・プリゴジン氏所有のビジネスジェットが墜落、乗員乗客全員が死亡した。タス通信は乗客10人の中にプリゴジン氏の名前があったと伝えた。 日本を含め西側メディアでは一斉に「6月に反乱を起こしたプリゴジンの粛清、暗殺、公開処刑か」と報じ、プーチンの恐怖政治が強調されている。だが、同時に少なくとも西側によるテロの疑いが拭えないことを報じるべきである。プリゴジン事件はトルコによるウクライナ和平仲裁を破壊したブチャ事件と重なる。米英は劣勢に立たされると「敵による虐殺事件」を作り上げてきた「実績」がある。

墜落事故と日付が重なる8月22-24日に南アフリカで開かれた中国、ロシア、インド、ブラジル、南ア(BRICS)新興5か国首脳会議ではサウジアラビア、イランをはじめ6か国が新規加盟し、40か国余りが加盟申請したとされる。ユーラシア同盟からグローバル同盟へと拡大する中露主導の上海協力機構(SCO)に加え、先進国首脳会議(G7)及び米英アングロサクソン同盟へのさらに広範な対抗軸が形成されつつある。ワシントンへの衝撃は計り知れない。プリゴジン粛清説はウクライナ戦争を巡り西側でし烈に展開されてきた反プーチン・プロパガンダを「スターリンまがいの暗殺、粛清。恐怖政治のプーチン・ロシアの体制転換は必須」というレベルへと高めようとした可能性が排除できない。

勿論、粛清を含め墜落を巡るあらゆる可能性は排除できない。だだ墜落の一報を受け、ワシントンではバイデン大統領が「あらゆる事件の背後にプーチンの影がある」と思わせぶりに記者団に断定的に語り、国防総省の報道官が「プリゴジン氏は殺害された可能性が高い」とのコメントを出すなど西側が直ちに粛清説を強調していることが問題なのである。一方、プーチン大統領は墜落時、1943年に侵攻したナチスドイツに対する戦勝80周年を祝う「クルスクの戦い記念式典」に参加しており、その後速やかにプリゴジンを追悼する談話を出した。直近の世論調査での支持率80%超えに支えられてか、プーチン自身は西側の粛清騒ぎを徹底無視している。

6月23日の「プリゴジン反乱」にはさまざまな見方がある。その中には米NATOを混乱させるプリゴジンによる欺瞞作戦も含まれている。そもそもモスクワに「行軍」したはずのプリゴジン一行は一日も経ずにベラルーシのルカシエンコ大統領の説得で進軍を中断したとされた。仮に本気で「行軍」したとしてもロシア正規軍に短時間で粉砕されたはずなのに、西側はひたすら反乱を「プーチンの終わりの始まり」とはやし立てた。それは客観性を無視した願望であった。

米NATOは宇軍の反転攻勢が名ばかりだったウクライナ戦争に展望を見いだせなくなっているとの見方が圧倒的だ。しかも対ロシア経済制裁はサウジをはじめ中東産油国、アジアやアフリカというグローバルサウスの米国離れを加速させた。なぜならいったん敵とみなされると、購入した米国債や米国内資産は凍結という名の下没収となり、米国と付き合うことのリスクを目の当たりにしたからだ。それが中国やロシアの主導するSCOやBRICSへと産油国やグローバルサウスを引き付けた。さらに中国、インド、ロシア、ブラジル、インドネシア、メキシコ、トルコによる主要新興7カ国・E7結成の動き、ペトロダラーに代わる、金兌換に裏付けられたBRICS通貨が構想されている。

焦るワシントンがBRICS首脳会議開催にあわせて「中露の専制体制の怖さ」をアピールする挙に出たとみても決してうがちすぎとは思えない。詳細は後日語るが、米国は「テロリスト育成国家」でもあるからだ。米ソ冷戦が終わると1990年代半ばまでに満を持していたかのように米国の対外施設や米国人を標的としたイスラムテロリスト集団の活動が中東、中央アジア、東南アジア地域でにわかに活発になった。米国の自作自演とも言える「テロとの戦い」は2000年代に入るとアフガニスタン侵攻、イラク戦争へと「発展」する。そして2010年代に入ると中国との新冷戦が宣言された。

米国からウクライナに援助された武器の横流しが問題視されてきた。大量な援助武器の相当量がテロリスト勢力に流れている疑いが濃い。それはかなり長期的な計画に基づいている。例えば、1992年にフィリピンからの米軍完全撤収へと追い込まれた米国は南部フィリピン・ミンダナオ地方のイスラム過激派リーダーをアフガン、中東に送りこみ訓練し、帰還したところでアルカイダの分派アブサヤフを結成させた。武器はフィリピン国軍に援助した米国製を横流しさせていた。イスラム過激派の「反米」テロが世界規模で続発する中、NYで9.11が発生。米軍はアフガンに続くテロとの戦い第二弾と称してフィリピン国軍をアブサヤフ掃討に向かわせ、比軍への対テロ訓練を口実にフィリピンに回帰した。

つまりプリゴジン事件は対中露テロ作戦の序章である可能性が高い。今後の中国、ロシアとの冷戦は、ウクライナのような大掛かりな代理戦争のほか2022年1月のカザフスタン騒乱にみられたように大規模テロ活動を交えたハイブリッド型になるとみられる。米国が中東産油国の原油輸送ルート破壊のため「イスラム国(IS)」などを利用することもありうる。産油国、グルーバルサウスを取り込んだ中露への覇権移行を阻止する手立ての第一弾は大規模テロによるカオス創出ではなかろうか。

差し当たり、関連原稿として2023/04/03掲載「ウクライナから中露の裏庭へ戦線拡大へ 米ネオコンは中央アジアで賭けに出るのか | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)」を参照されたい。ロシアメディアは「カザフスタンでの抗議運動はウクライナが統率している」と断定した。高度な戦闘訓練を受けた勢力が米英NATOが指令するウクライナの支援を受けて密かに暴動に介入したとの見方である。当然、高度に訓練されたテロリスト勢力はロシアにも潜伏している。ブリゴジン事件がテロである疑いを払拭できないのはこのためだ。