ウクライナ戦争の真実①ー崩壊へと進む米英主導の秩序、ネオコンの焦燥

1年を超えたウクライナ戦争を巡る執拗で異様な米欧のロシア排斥キャンペーンはこの際裏返してみる必要がある。1991年ソ連邦崩壊に伴い、米ネオコンの目指した米単独覇権の永続とユーラシア制覇が今や「見果てぬ夢に終わる」と焦燥しているとみれば現在の事態は納得できる。本ブログは2022年3月3日付掲載記事「プーチン追い詰めたブレジンスキー構想 ウクライナ危機と米のユーラシア制覇」で、「米英巨大資本に蚕食されて呑みこまれる寸前だった資源大国ロシアを再建しようとして西側資本の天敵となり、以来20年余り『専制主義者』との執拗な攻撃にさらされてきたプーチンはウクライナ問題でついに米英に追い詰められた」と書いた。しかし、この1年余りの観察で「追い詰められているとの米ネオコンのひっ迫感の方がより深刻」と見方を変えた。

米英のプロパガンダ報道からもウクライナ戦争を巡りワシントンが一枚岩でなく、ネオコンの巣食うホワイトハウス、国務省に対して国防総省や米軍上層部が早期停戦を強く求めているのがうかがえる。在庫払底のため米軍のウクライナ武器支援が不可能になっているといった類の報道は「武器支援は最新戦車供与でおしまい。ロシアには勝てない。ウクライナは停戦を急げ」との米軍筋の本音を示唆する。対してネオコンは「ウクライナ分割で妥協して対ロ停戦を」と呼びかけていた元領袖ヘンリー・キッシンジャーを変節させてまで戦闘の継続に固執している。今やバイデン政権を主導するネオコングループがどこまで戦争継続の主張を維持できるかに焦点は移っている。

ウクライナを支援する米欧日のG7という「主要先進国」から視線を中国、東南アジア、インド、イラン、中東、アフリカ、中南米へと向ければ、世界の動きは脱G7であることが鮮明になる。G7はG20に拡大された。主要先進国サミットに参加していたロシアと新興11ヵ国(アルゼンチンオーストラリアブラジル中国インドインドネシアメキシコ韓国サウジアラビア南アフリカトルコ)とG7参加国は1999年に「20か国・地域財務大臣・中央銀行総裁会議(G20 Finance Ministers and Central Bank Governors)」を開催。2008年には世界金融危機の深刻化を受け、G20 首脳会議と呼ばれる20か国・地域首脳会合(正式名称は金融・世界経済に関する首脳会合)が発足した。

新興国、途上国の急速な経済発展により、G7の経済力と影響力は急速に低下し始めている。G7のGDP世界シェアは2022年には40%割れは確実。G20をメインの討議場しなければ世界経済の円滑な運営は不可能となっている。しかし、2022年のウクライナ戦争勃発を機にG7非参加のG20参加国のG7(米欧日)に対する反発が激しく、G20共同声明が出せない状況が続いている。特に、財務相会議は2023年2月に5回続けて共同声明の取りまとめを見送った。例外はロシア非難に対し「もう一つの見解や異なる評価がある」との文言を盛り込み首脳宣言の採択に成功したG20インドネシア・バリサミットくらいだ。しかし米欧ブロック対中露ブロックが激しく対立し、ウクライナ戦争の早期停戦以外にG20崩壊を防ぐ手立てはない。

 

G20崩壊を見越したように、BRICsと呼ばれた中国、ロシア、インド、ブラジルの4か国は2009年に初の首脳会議を開き、南アフリカ共和国が参加してBRICSとなった2011年からは正式にBRICS首脳会議と命名された。BRICsは国土面積で29.2%、人口では42.7%、世界経済に占めるGDPの割合は2021年には25.5%に達した。購買力平価換算すると、2014年に30.2%に上昇しており、欧州連合(EU) の16.6% 、米国の15.9%を既に上回った。IMFによると、中国の購買力平価 GDP は2016年に世界シェア18%に達し、米国の17.8%を凌駕している。

これからの世界経済が中国を核とするアジアを中心に回ることは目に見えている。軍事・資源大国ロシアは中国と協調し、新ユーラシア主義を唱えながら19世紀から続く米英によるユーラシア封じ込めを基調とする世界秩序の転換を図っている。

この動きにインド、イラン、多数の中東諸国、そして旧第三世界・グローバルサウスと呼ばれるアフリカ、ラテンアメリカの大半の国が同調している。結集の中核組織は中露主導の上海協力機構(SCO)で、新たな国連とも呼ばれ始めた。情報筋によると、2023年2月のミュンヘン安保会議でマクロン仏大統領は「我々がいかにグローバルサウスの信頼を失ったかに衝撃を受けている」と内心を率直に吐露した。

 

参考:「米国も中露に追い詰められている」 ウクライナ危機もう一つの視点 | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)

このような状況の中、米英が生き残りをかけ共産党支配の中国と反米英を旗幟鮮明にしてきたロシアを崩壊させ、アングロサクソン支配の永続に執念を燃やす。だが周りが見えておらず、ヤミクモといえる。ウクライナ戦争の真相はこの視点で読み解く必要がある。

追い詰められたワシントンはウクライナ戦争後をにらみながら中露に挟まれた旧ソ連構成中央アジア5か国(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンに本格的に秋波を送り始めた。日本政府はこれに下請け役として駆り出されている。近くこれを掘り下げる。

 

参考:2022年10月掲載記事 「米国の圧力跳ね返し「プーチンG20招待」貫いたジョコ尼大統領 「米欧主導の世界」に幕

独首相訪中の衝撃:G7を空洞化、中露主導の新ユーラシア構想への参入を促進  | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)