イスラム組織ハマスが10月7日、イスラエルに大規模な奇襲攻撃をかけた。イスラエルは、パレスチナ自治区ガザへの水や燃料の供給を止め、ガザを空爆し、報復している。10月25 日現在、大惨事が懸念されてきたイスラエルによるガザ地上侵攻はいまだ起きていない。こんな中、中東関係筋は、ハマスの使用した武器の多くに米国製が混じっていたと明かす。しかも、ウクライナに支援された武器が横流しされているというのだ。かねてより取沙汰されてきたウクライナ政府の底なしの腐敗を巡る闇に光が当たり始めた。同時に、ハマスと米国、イスラエル両政府との「濃い連携」を指摘する確かな声もあり、ハマスの奇襲には不自然な点が多い。
複数の関係筋が、「ウクライナに提供された武器の約7割は、ロシアと戦うウクライナ戦線には届かずに、闇市場に流れた」と指摘。中には、元々ウクライナは腐敗国家であり、「横流しで稼いだ金は、ゼレンスキー大統領も含め、ウクライナ現政権の全員が自分の財布に入れている」と告発する向きもある。米共和党議員らは「なぜハマスの兵士がアメリカ製の銃を持っているのか。すぐにシリアルナンバーを調べるためイスラエル政府に問い合わせよ」と米政府に要求したという。
ハマスに対してロケット弾、自動小銃、機関銃などの小火器を提供しているとみられてきたのはイランである。しかし、これまでハマスの軍事組織イッズッディーン・アル=カッサーム旅団の用いるロケット弾の大半は手作りの威力の弱いものだった。ところが今回の奇襲で用いられた数千発のロケット弾や無人機はイスラエルの戦車やデジタル監視システムをいとも簡単に破壊した。
中東情勢に精通する筋は、「イランの運搬船は地中海からガザ地区に接近できない。陸路や秘密のルートを使っていた。持ち込める量は限定されていたし、大型の武器は持ち込めなかった」。ところが、今回はかなり大型の武器も使われていた。だがウクライナから闇市場を通して横流しされた米国製武器がどのようにしてガザに搬入されたかは不明である。しかし、イスラエルには米軍の武器弾薬庫がある。イスラエル政府とアメリカ政府は、そこにある武器弾薬をウクライナへ供給することで合意しているといわれ、イスラエル軍はその一部を使用してきたとされる。ならばウクライナに輸送される予定の武器が在イスラエル米軍武器弾薬庫から密かにガザ地区に搬入された可能性も否定できない。
実は、ハマスの創設にはイスラエル政府や米政府が関与している。その狙いはヤセル・アラファトが率いていたパレスチナ解放機構(PLO)の政党ファタハの弱体化にあった。1993年に米政府の仲介で「パレスチナ暫定自治合意」に調印したアラファト路線を批判する急進派を育て、内部対立させることで運動を弱体化させようとした。この急進派がパレスチナ暫定自治政府と対立し、ガザ地区を実効支配するハマスである。この分断策は米英諜報機関によるイスラム勢力コントロールの常套手段である。
ガザにおけるムスリム同胞団の責任者だったシーク・アーメド・ヤシンが1987年にハマスを創設したとされている。ヤシンはイスラエル公安庁(シン・ベート)の監視下に置かれてきたという。1993年にクリントン米政権の仲介でイスラエルとPLOがオスロ合意と呼ばれた「パレスチナ暫定自治合意」に調印すると、イスラエル政府に人道的団体として承認されていたイスラム協会の軍事部門ハマスが台頭し、オスロ合意を有名無実化していく。ハマスの構成員の一人一人は決して親イスラエルではなく、イスラエルのパレスチナ占領を激しく憎悪しているはずだが、ハマス上層部は米・イスラエルと資金や武器の供与でつながっているとの見方が有力だ。
米政府やイスラエルをコントロールする米英権力中枢にはガザを消滅させたい理由がある。米石油・天然ガス探査会社ノーブル・エナジーは2010年に「イスラエル北部で推定埋蔵量約4500億立方メートルのガス田を発見した」と発表した。米政府系アメリカ地質調査所(USGS)は、ガザからギリシャにかけての東地中海域には約10兆立方メートルの天然ガスが埋蔵していると推定しているという。米英権力中枢はこの天然ガスをロシア産天然ガスの供給を絶たれた欧州に売り、ドイツをはじめ欧州諸国のロシア離れを加速させプーチン・ロシアを追い詰めたいはずだ。
こうみればウクライナとガザをつなぐ闇に少しは光が当たる。イスラエルはガザへの地上侵攻に極めて慎重になっており、イスラエルを奇襲したハマス兵士にはイスラエルに入ったまま所在不明の者が多いという。いずれにせよ情勢は魑魅魍魎といえる。