プーチンを「ミロシェヴィッチ」に仕立て上げる未曾有の情報戦 ウクライナ考

ロシア軍撤収後の4月初めからウクライナの首都キーウ近郊で「惨殺された遺体」が続々と見つかり、ロシア軍の犯行と断定された。今やロシア側の主張に白紙で耳を傾け、それを真摯に検証するのを決して許そうとしないファッショ的なうねりがグローバルに生じている。だが米西戦争のメイン号事件、第一次大戦のルシタニア号事件、そしてベトナム戦争のトンキン湾事件でも敵の攻撃を偽装して米国は戦争を始めた。真珠湾事件も日本による奇襲を強く誘導した結果と言える。「偽旗作戦」の元祖は米国だ。ウクライナで起きている事態の核心は何か。それは米英によるプーチン・ロシアせん滅の戦いである。これを主導する米ネオコンは力の論理に徹し目的のためには手段を選ばない。ロシアウクライナを巡る問題を徹底的に利用してプーチンをユーゴスラビア連邦共和国大統領(第3代)ミロシェヴィッチと同じ戦争犯罪人に仕立て上げ、戦犯として裁く。このための未曾有の情報戦が長年続けられてきたことを念頭に置けば、「ロシア軍によるジェノサイド」報道をそのまま受け取ることはできない。

■対北ベトナム秘密作戦と酷似

まずは「コトバンク」のトンキン湾事件の説明を一部引用する。

「アメリカ国防総省は、米駆逐艦マドックス号が1964年8月2日、またマドックス号と駆逐艦ターナー・ジョイ号が8月4日、ともにトンキン湾の公海上で哨戒中、それぞれ北ベトナムの魚雷艇3隻に攻撃されたと公表した。北ベトナム外務省は、マドックス号が北ベトナムの領海内で北ベトナムの哨戒艇に出会い、哨戒艇を砲撃したのだと反論した。のちに暴露された国防総省のベトナム秘密報告(ペンタゴン・ペーパーズ)=写真=によると、アメリカは64年2月1日からサイゴンの米軍事援助軍司令官の指揮下に「34―A作戦計画」という北ベトナムに対する広範な秘密作戦を発動していた。これは情報収集、破壊活動、沿岸施設の砲撃にまり、最終的には北ベトナム経済の中核部を破壊するというもので、まさに「宣戦布告なき攻撃」「欺瞞(ぎまん)の作戦」とよばれるものだった。トンキン湾事件は、このような作戦の一環として起こされた事件であった。[丸山静雄]」(斜線部強調は筆者)

米軍作成の「34ーA作戦計画」にある北ベトナムをロシアに置き換えても何ら違和感はない。ウクライナ戦争の目的は最終的には「ロシア経済の中核部の破壊」にある。そのためには表向きの対ロシア経済制裁に加え、秘密活動や破壊工作を含めいかなる手段を講じることもいとわないはずだ。ウクライナで進行中の事件はまさに米国率いる北大西洋条約機構(NATO)加盟国の総力を挙げた「欺瞞の作戦」そのものではないか、との疑念は拭えない。

■シリアで起きたことの再現

ロシアはシリアを支援してきた。そのシリアへの外国人傭兵部隊導入による反政府活動支援と内戦ぼっ発イスラム国の育成。シリア国軍が生物化学兵器使用やジェノサイドを行ったとのプロパガンダ。米英はアサド政権壊滅に向けて偽情報を流布し、反政府武装勢力を支援した。彼らの矛先はイランをはじめすべての親ロシア陣営に向けられる。ウクライナでもそれが繰り返されている。

ロシア大統領府は「ジェノサイドはウクライナ側のねつ造」と主張、全面否定している。日本を含め西側メディアはロシアサイドの言い分など歯牙にもかけない。街路に放置された死体を写した衛星写真がロシア軍撤収前の3月半ばに撮影されていたとして、ロシア軍の犯行と断定された。またそれを報じた米紙の記者は衛星写真分析の専門家であるかのように報じられた。一方で西側諜報機関にとって衛星写真の偽造はたやすいとの声もある。

これは「デジャブ」なのか。否、シリアで起きたことの二番煎じだ。

軍は米英諜報機関が動かす

こんな中、惨殺はウクライナ軍によるねつ造とのロシア側主張を支持する稀有で確かな分析もある。以下、若干手を入れて紹介する。

「(首都キーウ近郊)ブチャからロシア軍は数日かけて3月30日に撤退を完了させ、31日には市の職員がフェイスブックで喜びを伝えている​が、虐殺の話は出ていない。テレグラムのチャンネル、ブチャ・ライブでも31日まで虐殺の話は出てこない。

しかし、4月1日夜にツイッターへアップされた自動車から撮影されたビデオには、ヤブロンスカヤ通りに死体がある様子が映されている。現地を取材したAFPの記者はその通りで24体を、またAPの記者は20体を確認したという。

ロシア軍が撤退した後、ブチャへの砲撃があり、戦乱の廃墟を作り上げた。​BBCが4月3日に公開した映像にはアスファルトに食い込んだ迫撃弾が映っていて​、その状態から発射地点は南側だと推定されている。つまりウクライナ軍がいる場所だ。

4月2日にはネオ・ナチを主体に編成された親衛隊の大隊(アゾフ特殊作戦分遣隊)がブチャに入っているとニューヨーク・タイムズ紙は報じたが、アゾフと同じネオ・ナチでライバル関係にあるというボッツマンのチームも4月2日には現場へウクライナ警察の特殊部隊と入っているという。ボッツマンのチームはウクライナ軍を示す青い腕章をつけていない人物の射殺を許可されていた。ロシア軍に処刑された人びとだとして公開された写真の複数の遺体には白い腕章が巻かれている

4月2日、​ウクライナ国家警察は自分たちが行った掃討作戦の様子をインターネット上に公開した​。そこには大破した自動車の中に死体が映っていたものの、そのほかに死体は見当たらない。そこで、国家警察は死体を隠したのではないかと疑う人もいる。国家警察はブチャでアゾフ国家親衛隊と行動をともにしていたので何が起こったかを知っていたが、その死体を親衛隊が何に使うつもりかを知らなかった可能性がある。

アゾフの母体になった右派セクターは2013年11月にドミトロ・ヤロシュとアンドリー・ビレツキーが創設した2021年11月2日、ゼレンスキー大統領はヤロシュをウクライナ軍最高司令官顧問に据えた。この段階でウクライナ軍はヤロシュの指揮下に入ったと言える。そのヤロシュはネオ・ナチというだけでなく、NATOの秘密部隊ネットワークに属している。つまり米英情報機関がウクライナ軍を動かす態勢ができた。  (rakuten.co.jp)

■「ロシアを追放、戦犯プーチン裁く」

「ロシアを(拒否権行使できる立場から)排除する。あるいは、どのような改革ができるのかを示す。不可能なら、皆さんは解散だ」。

ウクライナのゼレンスキー大統領は4月5日に開かれた国連安全保障理事会(15カ国)の公開会合=写真=で理事国に向かってこう演説した。

拒否権を持つ常任理事国5カ国から「ならず者国家」ロシアを追放せよと迫ったのだ。これはまさに米英の代弁に他ならない。ハーグの国際司法裁判所はプーチンを戦犯として裁くには機能しない。ミロシェヴィッチと同様国連が設置する国際戦犯法廷で裁くしかない。まずはロシアの国連安保理常任理事国からのロシア追放が必須条件となる。

だがロシアの追放は国連の崩壊、すなわち第二次大戦後の国際秩序の解体を意味する。中国、インドをはじめ少なくない「隠れロシア支持国」がロシアの追放を許さないからだ。

実際、国連総会(193カ国)が4月7日、ロシアによるウクライナ侵攻を巡る緊急特別会合を再開して、国連人権理事会におけるロシアのメンバー資格を停止する決議案を採択した。賛成は日米英など93カ国にとどまり、ロシア、中国、北朝鮮など24カ国が反対、インドなど58カ国が棄権した。棄権は「隠れロシア支持」と受け取れる。世界は二分割されてしまった。

いずれにせよ米英の最終目標は共産中国の解体である。ウクライナ問題の長期化は必至だが、危機的状況が一段落すれば、西側・米NATOは全力を挙げて中国に襲い掛かる。世界の分割による対立がさらに進むのは必至。第二次大戦後の恒久和平を希求した戦勝国機構・国連は崩壊へと向かわざるを得ない。

21世紀は長い混沌の世紀として記録される可能性が大きくなってきた。

 

注:3月21日掲載記事「ウクライナ・ネオナチや日本会議操る米ネオコン 覇権維持に手段選ばず」などを参照されたい。