ロシア脅威扇動という奔流に抗わず 「木鐸」捨てた新聞

朝日新聞デジタル版は3月14日、次のような変哲もない短い記事を掲載した。西側世界で奔流となったロシア・中国の脅威を煽る動きにもはや抗わないとの宣言に等しい。国際的な翼賛体制に組み込まれそれと一丸となり、「社会の木鐸」であることを再びかなぐり捨てている。

「防衛省は14日、ロシア海軍艦艇6隻が北海道北側の宗谷海峡を通過したと発表した。北海道周辺では2月にロシア艦艇24隻が確認されており、6隻は同一の可能性があるという。24隻のうち10隻は10、11両日、津軽海峡を通過している。同省によると、14日午前0時ごろ、北海道の宗谷岬の南東約130キロで、駆逐艦1隻や潜水艦3隻を含む計6隻を確認。その後、宗谷海峡を西に進んだ。海上自衛隊の護衛艦が警戒監視に当たった。」

極東ウラジオストックを拠点とするロシア海軍太平洋艦隊はロシアの4艦隊中ムルマンスクに司令部を置く北方艦隊に次ぐ強力な艦隊だ。太平洋上での作戦を目的としているロ軍太平洋艦隊所属の艦船が日本海と太平洋を結ぶ宗谷海峡や津軽海峡を通過するは至極当然な通常任務である。ロシア艦船が日本の領海と接する公海上を通過すれば海上自衛隊がこれを監視するのも変哲のない通常任務となる。

それをわざわざニュースにしたのは何故か。「ウクライナでの出来事は他人事ではない」とロシアの脅威を煽っている日米安保ムラ。その要請に応えて防衛省は日本周辺でのロシア軍の動きを逐一メディアに発表し始めた。

防衛省担当の記者がそれを字にするか否かは本来は報道各社の裁量に委ねられる。これが「報道の自由」の原点である。防衛省は各社が一丸となって中国に加えロシアを脅威として扇動するよう努めている。それに応え、報道の自由を放棄していると明かしたのが上の短い記事である。

朝日は3月9日に「ロシア軍が日本周辺でも中国と歩調を合わせ、防衛省内『不気味』」との見出しをつけた記事を掲載していた。記事では2021年10月にロシア、中国の艦艇10隻が合同して南から日本を半周し津軽海峡を通過したことを改めて強調。さらに過去3年間の中露空軍の日本海、東シナ海などでの共同飛行まで取り出し、中露による脅威の二重化をアピールしていた。

自衛隊は米軍のみならず英、豪両軍と日本海、東シナ海など中国、ロシアに隣接した公海上で絶え間なく軍事演習を繰り返している。これが中露両国にとってどれほど大きな脅威となっているかに想像力が働かない。中国はここ10年余り「中国艦船がメキシコ湾で大挙して航行すれば米国民はどんな反応を示すだろうか」とことあるごとに訴えてきた。

本来ならメディアはウクライナ情勢に便乗しようとする日米安保ムラという巨大権力に対して厳しくチェック機能を果たさなけらばならないはずだ。ところが権力のチェックを忘れて身の安泰のため大勢順応に走っている。もうどうにも止まらない。

1945年8月15日。ポツダム宣言受諾との敗戦の詔勅に臨んだ当時の東京朝日の編集局長細川隆元はこう語った。

「これからどうするかはその時々の状況みてやっていこう」

時代の流れ次第で言説をどのようにも変える節操のなさを繰り返している。