新型コロナウィルス禍発生から1年3カ月。当初はウィルスの人為流出説も出た。陰謀論はさておき、現在ではワクチンの開発・製造・供給が政治利用されていることははっきりしている。その象徴例が日米関係に端的に現れている。本プログでは「バイデン政権は『台湾有事を日本有事』とみて中国と対峙せよと日本政府に迫まり」、「これを受け入れれば、ファーザー社からのワクチンを追加供給すると示唆している」と主張してきた。ところが、既成メディアのTV、新聞はこれにまったく触れない。訪米した菅首相が米製薬最大手ファイザー社のブーラCEOとワシントンで対面して大幅な追加供給を取り付けようとしたが、同CEOは滞在先のニューヨークから動かず電話会談ですました。しかも追加供給の確約はとれず散々な結果となった。なぜブーラCEOは日本の総理を袖にしたのか、日本側の「協力要請」を拒んだ米政権の意図はそこにどう潜んでいるのか、西側では米英の製薬大手がワクチンの開発・製造・供給を独占し、能力のある日本の製薬会社は国産ワクチンをなぜ製造しないのか等々。これらはすべて日本政府の対米隷属に起因する。日本の会社記者にとってこれに突っ込むのはご法度。「はい!ここまで」とレッドラインを認知する自粛信号が彼らの脳裏を貫く。
■政治部記者の処世術
筆者が20年近く勤務した大手メディアで政治部長、編集局長を務め、退社後は民放TVキャスターなどを務めている著名な政治記者がいる。政界奥の院を知り尽くしているはずの、この「大物記者」が9日Microsoft Newsのインタビューに答えて、こう語っている。
「首相訪米のもうひとつの裏ミッションは、供給が大きく遅れているコロナワクチンの確保だったと見ます。しかし、バイデン大統領から『協力する』という言及はなく、菅首相はワシントンからファイザー社のブーラCEOに電話をかけて、追加の供給を要請しました。帰国後、首相は国内の対象者に必要なワクチンに関して『9月までに供給されるめどが立った』と胸を張りました。」
「しかし、電話なら東京からでもかけられるはずです。この点を外務省の担当者に質問してみました。すると答えは『時差がなければ体力的に楽だから』と苦しい説明でした。しかもブーラCEOは、その日ニューヨークにいたそうです。一国の総理が相手であれば、『こちらから行きます。ワシントンでお会いしましょう』と申し出るのが普通ではないでしょうか。総理大臣が自らニューヨークへ電話してワクチン供与をお願いするというのは、日本が足元を見られている何よりの証拠といえるでしょう。」
この記者は「一国の総理が相手であれば、『こちらから行きます。ワシントンでお会いしましょう』と申し出るのが普通ではないでしょうか。」と語っただけで、ファーザー社と米政権や米国の支配層との繋がりを語らない。否、これを意図的に無視している。外務省担当者の木で鼻を括ったような「時差がなければ体力的に楽だから」との苦し紛れの説明に対し「そうですか」と納得し、それ以上追及しなかったのか。
あり得ない。外務省担当者(高官)なら裏で日米両政府が「共同声明への台湾問題、そして日本の防衛力強化という文言の盛り込み」を巡って激しいやり取りをした当事者。長年にわたる取材源であるなら、米側の日本側への高圧的、高慢な対応ぶりの一端は間違いなく明かしているはず。これ以上語ると外務省をはじめ日本政府関係者のメンツがつぶれるだけでなく、日本のあまりの対米従属ぶりが表に出るので「はい!ここまで」なのだ。これが彼らの処世術となっている。
■政局偏重の政治記事
筆者が会社記者時代、ある政治部次長経験者が「日本の政治部報道には政策論議が少なすぎる。あまりに(次期首班を巡る権力闘争を意味する)政局に偏って記事を書いている」と嘆いたことがある。その伝統はこの大物記者にも受け継がれている。
極端に停滞するワクチン接種率が菅政権の命取りになるとの見方はいまや常識。彼はこう話した。
「菅首相は4月26日、前日の国政選挙3戦全敗を受けた会見で、『7月末を念頭に、高齢者に2回目のワクチン接種を終えたい』と語りました。接種を進めて支持率を上げたいという思惑があるのでしょう。7月23日から五輪が始まります。
しかし、逆に7月末までに接種を終えることができなかったら、静かな炎はどうなるのかーー。自ら設けた7月末という期限が守れるかどうか。ここが菅政権にとって、大きな分岐点になることは間違いありません。」
「静かな炎は燃え広がっていると思います。ワクチンの予約電話を何度かけても繋がらないので、老人たちが市役所や町村役場に列をなしているというニュースが最近よく流れます。あれは、政府に対する強烈な不信の表れでしょう。65歳以上の高齢者は全国に3600万人。無論、全員が有権者です。この人数が怒りを募らせれば、政治を大きく揺るがす動きになります。… この『世の中の人々の感情』を無視すれば、政治はとてつもなく大きなしっぺ返しをうけるでしょう。」
菅政権は総裁任期期限の9月までしか持たないことを予想する言い方だ。
米国から帰国した菅首相は記者団に対し、「ワクチンは16歳以上の国民全員に9月までに供給されるめどが立った」と表明した。苦し紛れの発言だった。
繰り返すが、米英のワクチンが菅首相の思惑通りに日本で供給されるか否かは、米政権の要求を入れ、菅政権が「台湾有事は日本有事」、「中国との経済的デカップリング」へ本腰を入れるか否かに掛かっている。どちらに動いても、日本には大きな災厄となる。
■国産ワクチン開発の「意図的」遅延
日本には新型コロナウィルスのワクチンを製造できる製薬会社は少なくとも5社あると言われる。
4月21日の『BSフジLIVE プライムニュース』(BSフジ)に出演した森下竜一大阪大学教授は「国ごとに変異株が出現する可能性があり、国産ワクチンの開発は喫緊の課題である」と語った。
同教授が率いる大阪大学発ベンチャー企業アンジェスはファイザーやモデルナなどと並んで世界で最も早く、2020年3月から新型コロナウイルスのワクチン開発を開始した。アンジェスは世界初となるDNAワクチン開発に取り組んでおり、安定性に優れ保管が容易であることから期待は非常に大きかった。
日経新聞などの報道によると、アンジェスは20年6月に健康な人に対して安全性を確かめる第一段階の治験を始め、数百人規模の治験で済む「条件付き早期承認」を取得し、21年春から夏を目途に100万人規模のワクチンを国内に供給する予定だった。しかし、厚労省傘下の医薬品医療機器総合機構(PMDA)が20年9月に公表した新型コロナワクチンの評価方針で数万規模の治験を求めた。
しかし感染者数が少ない日本では数万人単位の治験を行えず、アンジェス製ワクチンの早期実用化は暗礁に乗り上げ、事実上とん挫している。
米国や英国、イスラエルなどでは、国のトップが強いリーダーシップを発揮して有事ワクチンルールを策定して開発が飛躍的に進んだ。これに対し、日本のワクチンの治験や承認基準は厳しいままである。
厚労省とPMDAの評価方針は意図的サボタージュではないのか。日本の製薬会社は米英企業の代弁者である米国政府の圧力で開発できないと見て大過なかろう。日本政府がPCR検査に消極的なのも治験(臨床実験)のための数万単位の感染確認者を確保できなくするためだったのではないか。謎が氷解する思いだ。
コロナ禍によって、ワシントンの管理下に置かれた戦後日本政治の低劣さが極限にまで暴露された。これに寄生するメディアも同様である。この国の政治も報道も名もなき人々には向けられていない。ワシントンに向けられた永田町や霞が関の連中の眼差しはひたすら自己保身と既得権益死守を語っている。
官僚たちは人事(出世)がすべてであることを知り人事権で彼らを恫喝支配してきた菅義偉氏。ワシントンのジャパンハンドラーは日本を丸ごと掌に載せている。