この年初、米国の調査会社は「ことしの10大リスク」を発表し、最大のリスクとして新型コロナウイルスの感染を徹底して封じ込めるため中国が進める『ゼロコロナ』政策が失敗する可能性をあげた。中国共産党政府は2020年には武漢市で発生したコロナ感染の完全封じ込め(ゼロコロナ)に成功し、いち早く経済を成長軌道に回復させた。これに対し、米社は「今年はコロナゼロに失敗して大きな感染を引き起こし、深刻な都市封鎖につながるだろう」と予測している。
実際、中国陝西省西安市で12月23日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴いロックダウン(都市封鎖)が導入され、市民約1300万人が自宅待機を命じられている。これに続き、隣接する河南省でも1月6日に感染者が56人となり、感染は拡大へと向かっているという。さらに五輪開催を控えた北京周辺地域でも感染が確認された。中国当局は社会面清零(コロナゼロ)政策を掲げコロナ完全封じ込めに躍起とされる。だが陽性者数の数字でいえば、1月3日現在計1700人程度と伝えられ、欧米諸国のと比較すれば微々たるものだ。
■「今度こそ蔓延させる」と暗示
米中の覇権争いがエスカレートする只中でのこの予測は、「今回はより感染力の強い変異株がまん延するので、前回のようにはいかないぞ」との米側の中国に対する威嚇と受け取れる。あえて大胆に推測すれば、この米社の背後にある勢力が、コロナ禍に乗じて共産中国解体を本格軌道に乗せ、世界の刷新、資本主義再編の名の下に、綻びている米英アングロサクソン同盟の世界覇権を再構築するとの決意を示唆しているように思えてならない。
1月4日付日本経済新聞がこの意思を最も露骨に代弁してこう伝えた。「先進国はワクチン接種や治療薬の普及でパンデミック(感染大流行)の終わりが見えてくる一方、中国はそこに到達できないと予想する。中国政府はゼロコロナ政策を志向するが、感染力の強い変異型に対して、効果の低い国産ワクチンでは太刀打ちできないとみる。ロックダウン(都市封鎖)によって経済の混乱が世界に広がりかねないと指摘する」。
まるで「今度こそコロナ感染蔓延で苦しめ」と呪っているようだ。強力な変異株が人為的に中国に持ち込まれたかのような印象さえ与える。
■背後に蠢くDS
米国の調査会社はユーラシア・グループ。その背後にある勢力を探ると推測は決して邪推とは言えなくなる。
同社HPによると、この会社は「地政学的リスク分析を専門とするコンサルティング会社」のさきがけとしてニューヨーク、ワシントンを拠点に1998年に発足した。
その後ろを探ると、ワクチンや医薬品、診断方法の確立と普及を通じた感染症対策を活動の重要な柱の1つとするビル&メリンダ・ゲーツ財団、ポストコロナにむけて資本主義世界をグレートリセット(大刷新)すべしと唱える、ダボス会議を主宰するクラウス・シュワブの世界経済フォーラム(WEF)に遭遇する。さらには、ロックフェラー財団、フォード財団をはじめ世界一の投資家とされるウォーレン・バフェットら米欧世界の大富豪の名も現れる。
そして最終的には米英両政府の外交政策を実質取り仕切る米外交問題評議会(CFR: Council on Foreign Relations)と英王立国際問題研究所(Chatham House)にたどり着く。
予想通り、いわゆるディープステイト(DS)勢力が後で蠢いていた。
【写真】米外交問題評議会(CFR)の創設者で名誉会長を務めたデイヴィッド・ロックフェラー(David Rockefeller、1915年 - 2017年)。チェスマンハッタン銀行のCEOを長く務めた。
CFRは表向きには外交問題、国際問題を研究するシンクタンクとされている。だがロックフェラーの主宰する、4千人程度の会員で構成されるこの組織の実態は「アメリカの影の政府=ディープステイト(DS)」とみられている。アイゼンハワー以来、歴代大統領の大半がCFRから送り込まれている。
■日本で開催されるGゼロサミット
ユーラシア・グループは対中国示威活動と思われる奇妙なイベントを行っている。2017年から日本で毎年開催している「Gゼロサミット」がそれだ。Gゼロとは同社CEOで政治学者のイアン・ブレマー=写真=が2011年に提示した言葉で、G7を構成する主要先進国が指導力を失い、G20も機能しなくなった国際社会を表すとされる。2021年も岸田首相、萩生田経済産業相ら主要閣僚、十倉雅和・日本経団連会長、櫻田謙悟・経済同友会代表幹事ら日本の政財界トップ、共同議長として同グループCEOのイアン・ブレマー=写真=が参加して12月7日から9日にかけてオンライン開催された。
オバマ政権が発足して間もなく、外交政策の専門家の間で広くG2(米中2極体制)という言葉が定着した。だがトランプ政権下で本格化した米中冷戦により対話や協力に基づいたG-2構想が機能不全に陥った。ブレマーのGゼロ構想はこれに先駆けたもので、日本でのGゼロサミット開催は「中国封じ込め同盟の長」として日本がリーダーシップを発揮するとの意思表示がなされたことになる。クワッドと呼ばれる日米豪印による「自由で開かれたインド太平洋構想」に加え、NATO主要国の英国、フランス、ドイツの西太平洋への軍事進出による中国包囲網拡大の要となるのが日本というわけだ。だが、これが米国の押し付けであることは本ブログで繰り返し言及してきた。注
■商業メデァアはプロパガンダ機関
いずれにせよ、日本の首相と主要閣僚、財界首脳が全員出席して、CNNなど米主流メディアを介して米国に向けて毎年メッセージを発信するその姿は異様である。これだけみてもユーラシア・グループの背後にあるDS勢力の絶大な力をうかがわせる。
西側の商業メディアはユーラシア・グループの黒幕といえるDS勢力を読者に伝えない。否、伝えられないのである。彼らはそもそもDS勢力のプロパガンダ機関なのだから…。
注:2021年12月5日掲載記事「脱亜入欧の末路:米英に『同盟国の長』と煽てられ、アジアで孤立 近代日本考・補
同11月29日掲載記事「日米安保破棄と対米自立を再び争点に(その1) 近代日本第三期考2」
同5月7日掲載記事「『中国の台湾侵攻』巡る3つの嘘 偽装の『日台有事一体』」
2020年11月5日掲載記事「『安倍氏、英にクアッド参加促す』 操られる日本」
このほか「日米関係さらに歪める‟日本最重視” 菅訪米に際して1」、「日本は『暗闇の30年』に突入も 菅訪米に際して2」、「ハンバーガー午餐が示すバイデンの不遜 軋む日米関係」、「日本を『対等同盟』と持ち上げる下心 新アーミテージ報告書」などを参照されたい。