偵察衛星で解くウクライナ情勢 「ワグネルの反乱」で極まった西側のプロパガンダ報道

「偵察衛星は地上の鉛筆の形状すら正確に識別できる」ー数十年前からこのような軍事衛星の利用なくして戦闘は不可能となり、衛星データにより戦況も極めて正確に分析できるようになった。不思議なことに、米英の報道機関のニュース源として「偵察衛星からのデータ解析によると」という引用が極めて少ない。米国防総省や米軍による軍事偵察衛星画像の分析結果を部分的にせよ入手できる立場にある日米軍事筋は、「1年半近くのウクライナ戦争でのウクライナ側の死傷者はロシア側の10倍。少なめに見ても7~8倍」と明かしており、戦争の帰趨はとっくに決しているという。それを覆い隠さんと利用したのがプリゴジンが率い、6月24日に1日で収拾した「ワグネルの反乱」だ。「プーチンをありとあらゆるガンの末期患者に仕立て上げた」西側メディアはここぞとばかりに「プーチン・ロシアの終わりの始まり」とはしゃぎまくった。だがこれも「反乱」ではなく「ワグネル主戦派の不満表明」であり、願望はまたしても空振りに終わった。

【写真】傭兵部隊ワグネルを率いるエフゲニー・プリゴジン

 

 

同筋によると、「ワグネルの反乱」で西側メディアはウクライナのゼレンスキー政権を礼賛し、ロシアのプーチン体制を憎悪、非難するこれまでの画一報道ぶりを爆発的に強めたが、「反乱」はロシア軍の戦力低下には繋がっていない。そもそも今回の「反乱」はプーチンとロシアの国防当局が当初から貫いている「特別軍事作戦」に対する異議申し立てであった。この特別作戦は「戦死者など犠牲を最小限にし慎重に戦いを進める」もの。ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長はプーチン政権の戦い方を忠実に実行してきた。業を煮やしたワグネルの主戦派は不満表明として国防相と参謀総長の解任をプーチン大統領に要求した。プリゴジンの思想は反戦でも反国家でもなく武闘派の好戦論にすぎない。

これに歩調を合わすかのように、米側も国防総省、参謀本部ともにウクライナ戦争の早期停戦を求め、好戦的で主戦論のバイデン政権を牛耳るネオコンと確執を繰り広げてきた。米軍制服組トップのマーク・ミリー米軍統合参謀本部議長=写真=は2023年1月20日の記者会見で、ウクライナが年内にロシア軍を領土から追い出すのは極めて困難との見通しを示した。そのうえで「この戦争も過去の多くの戦争と同様に何らかの交渉で終わるだろう。」と停戦交渉促進を勧告した。軍人上がりのオースティン国防長官も同じ姿勢を貫いている。

米軍制服組は2022年2月の開戦以来、ロシアに即時停戦を呼び掛けてきた。オースティン国防長官はロシアのショイグ国防相と5月、10月に電話会談を行い、10月は計2回行った。1回目は米国主導だったが、2回目はロシアのジョイグ国防相が声をかけた。さらに米国の主導で、露国防相は続いてルコルニュ仏国防相、トルコのアカル国防相、英国のウォレス国防相と話し合っている。核の不使用を筆頭に危機管理のための対話回路作りを進めてきた。

注:ウクライナ戦争巡る米国の内紛 ネオコンの暴走阻止する軍トップ | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)

日米軍事筋によると、米ロともに各軍や国防当局は数多な軍事衛星の伝えてくるデータから戦況を分析、双方ともにロシア軍が特別軍事作戦に限定しながらもウクライナ軍を圧倒しており、この劣勢は挽回不能と断定している。さらに米国や欧州NATO加盟国はウクライナに支援する軍事物資不足が深刻になっているという。マーク・ミリー米軍統合参謀本部議長が1月にドイツで行われたウクライナ支援のNATO会合後の記者会見で、「ウクライナが年内にロシア軍を領土から追い出すのは極めて困難」との見通しを示したのはこのためだ。2023年9月末に任期が終わるミリー参謀本部議長を後継するチャールズ・ブラウン空軍参謀総長はオースティン国防長官と初の黒人コンビとしてネオコンの主戦論と対決するものとみられている。

同筋は、「ウクライナ軍は”ワグネルの反乱”の混乱に乗じ全面攻勢に出ておりロシア軍は後退している。しかしワグネルの反乱はわずか1日で収束しプリゴジンはベラルーシに移動した。この反乱はウクライナ軍を再び誘致導入し火力で大損害を与えながら、ベラルーシ正面から武器供給拠点のポーランド国境を遮断するための欺騙(きへん)の可能性がある」とみている。