日本のメディアに「ホテルオークラ」を米国大使館への出入り口とみるのはタブーとなっている。ある全国紙は「岸田首相は12月10日午後、東京・虎ノ門のホテル「The Okura Tokyo」に約1時間滞在し、『秘書官と打ち合わせした』。首相周辺によると、ホテルで萩生田光一・党政調会長と面会した」と報じた。噴飯物である。「秘書官との打ち合わせ」なら官邸か公邸。更迭必至の安倍派5人衆の1人、萩生田と岸田はこの日確かに面談した。だがわざわざ米国大使館隣の高級ホテルオークラの一室に呼びつける必要はない。永田町周辺には政界有力者がよく使うホテルは幾つもある。面会は官邸、公邸、あるいは自民党本部で会うのが常識。これは隠蔽にもならない「隠蔽工作」だ。だが記者たちは相変わらず取材先に忖度していわれるままに書いている。
秘書官に伴われた岸田はエマニュエル大使をはじめ米政府要人との協議のためにオークラから地下道を使って在京米国大使館に入ったようだ。安倍派5人衆の中では岸田とも親しいとされる萩生田が同伴した可能性もある。協議というよりは、米側から安倍派幹部更迭後の対応ついて指示を受けたと思われる。要諦は、いかに「岸田降ろし封じ」を成功させるかにあったはず。13日の臨時国会閉会を受け、今週中に東京地検特捜部が強制捜査を含め捜査を本格化するのに伴い、岸田首相は安倍派を政権から一掃する人事を行うからである。報道では、ホテルオークラには約1時間滞在となっているが、小1時間もあれば十分だったであろう。エマニュエル大使はこれまで麻生太郎副総裁を通して岸田首相に指示してきたとみられる。その麻生が9日夜に岸田と首相公邸で2時間打ち合わせた。翌日、岸田はオークラにそそくさと向かった。麻生がオークラで待っていたという報道もあった。
岩盤保守層に支持される最大派閥安倍派からの重しのとれる今後は、できるだけ「宏池会本来のリベラルな政治の実行」をアピールし、支持率の回復に努めるかもしれない。とはいえ、対米従属下での軍事大国化と防衛増税路線には厳しい批判と反発がある。岸田政権は延命しても来春までとの見方が有力で、国賓訪米はその花道との指摘もある。しかし、米国が岸田を支援するのは「さらに続投させて使いたい何か」がありそうだ。「麻生は岸田の次は茂木敏充を担ぐ」との声が大きくなっているが、各界に不人気な茂木では「麻生首相」の二の舞となるのは必至。
さてホテル・オークラと米国大使館が地下回廊で結ばれているとの推測は、2020/10/05掲載記事「オークラ番記者が必要だ 米国大使館への秘密回廊 | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com)で論じた。これを参照すれば、オークラでの秘書官との打ち合わせや萩生田政調会長との面会がいかに不自然かが理解できる。エマニュエルが岸田に合う必要が生じたところで、この時期に米大使が官邸に首相を訪問するわけにはいかない。岸田がオークラに出向くしかなかったはずだ。
麻生太郎は12月5日、都内のホテルに麻生派の議員を集め、「岸田さんは辞任してはならない」とエールを送った。
「(岸田内閣は)安倍内閣の時だってできなかったものを全部やっている。それでも人気は上がらないんだから、しゃーないんですよ。そういうもんだと思っときゃええやないですか。人気があるからなんぼのもんです、と。」「岸田文雄首相にはぜひ、淡々と自信を持って、覚悟を持って臨んでいただかないといかん。そういった厳しい状況にある」
これはワシントンからの激励の代弁と言える。岸田首相の国賓訪米は「来春」とされている。心身ともになえ切った岸田にとってカンフル剤となる。