独仏、対中露政策で連携し、米国を翻弄 空文化する日本でのG7共同声明

日本で4月16ー18日に開かれたG7(主要先進国)外相会合に向かう途中、14日に訪中したドイツのベアボック外相は中国の秦剛外相に「ドイツは独自の行動で中国との関係を発展させる」と強調。さらに「サプラインチェーンの安全を非常に重視するわが国は、経済分離に賛同しない」「台湾の地位が変化することは容認できない」「国際問題で中国と緊密に協力したい」と明言、米中対立への参入を事実上拒絶した。しかし日本の会合では「欧州は(南シナ海などでの中国の)国際法違反を見てみぬふりしない」と語りG7の結束を演出してみせた。これは独外相に先立つ10日前に訪中したマクロン仏大統領が中国滞在中に「中国と関係を断つのは狂気の沙汰だ」「欧州は台湾問題で米国に追随しない」と発言しながら帰国後すぐに台湾問題について「現状維持を支持する」「(これまでの)立場は変えていない」と米国・G7との協調を演じた手法と瓜二つ。両者の本音は勿論「中国との緊密な協力」にある。18日に軽井沢で出されたロシアと中国を敵視するG7外相会合共同声明は空文化している。ことここに及び日本の大手紙の中にも「対中国、拭えないG7の温度差 『遠い欧州』」との報道もみられた。マクロンショックによる議長国日本の狼狽ぶりを浮き彫りにした。

習近平と認識共有

世界の耳目を集めたフランス大統領の4月の中国訪問。マクロン大統領と習近平国家主席との際立った親密ぶりは”演技”とは到底思えない。共同記者会見を行うなど北京でマクロンを熱烈にもてなした習近平は翌朝広州に向かったマクロンの後を追いかけ、広東では庭園散策などの後再び晩餐を共にした。異例ずくめの対応を行い、二日間で計5時間以上差しで話し込んでいる。

マクロンの主張はせんじ詰めれば「欧州は米国に追従しない。米中の対立とは距離を置き、欧州は世界の第三極となる」ということであろう。言葉を換えれば、「中国の台頭を歓迎する。ウクライナ和平で中国に大きな役割を果たしてほしい」「米国の介入と干渉は排除する。米国抜き、ロシアを含めた欧州全域の安全保障体制と和平の構築こそ最優先事項である」となる。

マクロンの歯切れのよい自主外交表明に心を動かされた習は北京だけでなく広東でマクロンの肉声にさらに耳を傾け、より深く意見交換したいと望んだようだ。こうみれば習近平によるかつてない首脳会談の展開ぶりが理解できる。クレムリン筋によると、ロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻前に「アメリカや英国の首脳の言葉に知性は感じない。知的エリートのマクロンとは話が弾む」と語ったという。習近平もまったく同感したのではなかろうか。

■独仏と米の暗闘

2014年と15年の2度にわたるミンスク合意締結の斡旋をはじめドイツとフランスはロシアのウクライナ軍事侵攻直前までロシアと首脳間で間断なく話し合い、戦争回避に尽力した。侵攻後もマクロン大統領は「戦いが止まった日には外交を通じて出口が築けるよう、私たちはロシアに屈辱を与えてはならない」「仲介者になるのがフランスの役割だ」と発言し、米英の執拗な対露攻撃・プーチン体制潰し動きに真っ向から反発している。2021年末に政権交代のあったドイツは3党連立政権となったが、対ロシア、中国外交に関してはメルケル前政権の姿勢を継承してフランスと連携している。独仏ともにウクライナ和平における中国の仲介に大きく期待している。上の「国際問題で中国と緊密に協力したい」とのベアボック独外相の中国での発言はマクロンの対中姿勢に協調するものだ。

16年間の在任中12回も公式訪問し中国と非常に緊密な関係を築いたメルケル前首相率いる大連立政権の副首相を務めたショルツ現首相2023年4月のマクロン訪中を先取りした。戦後のドイツ政治をリードしてきたリベラル左派政党・ドイツ社会民主党(SPD)党首であるショルツはウクライナ戦争が泥沼化の様相を呈する2022年11月4日に電撃訪中し、ワシントンの度肝を抜く。ロシアとドイツが長年かけて築いた液化天然ガス海底パイプライン・ノルドストリームは約1月前に破壊されていた。2023年2月の米人ジャーナリストによる「爆破はバイデン米大統領の指示」とのスクープを待つまでもなく、ドイツ政府はウクライナ戦争が米国によるロシアのみならず独仏を盟主とする欧州連合(EU)への攻撃であると認識していたはずだ。

独首相電撃訪中に関しては、本ブログ2022年11月8日付掲載記事「独首相訪中の衝撃:G7を空洞化、中露主導の新ユーラシア構想への参入を促進  | Press Activity 1995~ Yasuo Kaji(加治康男) (yasuoy.com) 」をされたい。

■”二枚舌”でワシントンを翻弄

このショルツ首相のわずか半日間の中国訪問は今回のマクロン訪中に先駆けたものだ。「ドイツはビジネスに目がくらみ、中国に近づきすぎている」との声が上がる中、英メディアは「独首相はウクライナ停戦のため、中国がロシアへの影響力を行使するよう働きかけた」と報じた。独仏の働き掛けもあって、中国は2023年2月のロシアの軍事侵攻1周年に合わせてウクライナ紛争の「政治的解決」を求める12項目の和平案を提起したのではなかろうか。このショルツ訪中で瞠目すべきはドイツ北西部のミュンスターでG7外相会議が開催されていた最中であったことだ。ドイツは2022年G7議長国であり、米英主導の今やステレオタイプ化した「ロシアのウクライナ侵攻を断罪し、国際秩序を変更する中国の脅威を煽る」G7共同声明は形だけのものになった。

しかし、ドイツ政府はワシントンと正面から対峙するのは避けている。中国から帰国後、ショルツは米英と同様のトーンでロシアを激しく非難し始めた。そして最新鋭戦車「レオパルト2A7V」のウクライナへの供与に踏み切る。”役者”はショルツ首相だけではない。ベアボック外相(緑の党)も1月の欧州評議会で「我々(欧州)はウクライナの防衛のためにもっと多くのことをしなくてはならない。戦車に関してもそうだ」「なぜなら我々はロシアと戦争をしているのだから」との発言を筆頭に米ネオコンの代弁とみられるような過激発言を連発。しかし中国では一転して「台湾の地位変化(独立)は容認できない」と親中発言に徹した同外相は日本でのG7会合では「対中国でドイツが価値観を妥協することはない」「価値観を共有しない国に依存することはない」などと述べ、”二枚舌”ぶりを遺憾なく発揮した。

ウクライナ政府はこのドイツの姿勢に業を煮やし、メルケル政権で外相を務めたシュタインマイヤー独大統領のウクライナ訪問を拒絶した。元々、同大統領はポーランド、バルト三国の大統領とともに訪問する予定であった。独大統領を除く、4国の大統領は2022年4月にキーウを訪問した。同6月のG7議長国ドイツの首相のウクライナ訪問は実現したものの、ショルツ首相はフランスのマクロン大統領およびイタリアのドラギ首相と同行してキーウ訪問を実現した6月下旬の主要7カ国首脳会議(G7サミット)にかろうじて間に合わせた。一連の事件はウクライナ政府の背後で対ロシア戦争を指揮する米ネオコンがいかにドイツ政権を憎悪しているかを暗示した。

■著しい米国の衰退

2003年のイラク戦争はサダムフセイン政権が石油の売買決済を米ドルからユーロに変更しようとしたことが一因となったと言われてきた。当時、チェイニー副大統領やラムズフェルド国防長官らネオコンが露骨に牛耳ったブッシュ米政権は「フランスとドイツは許さない」と威嚇した。米単独覇権が実現し、力の論理に酔いしれていたワシントンに向かって世界の多極化志向を突き付けた独仏に対し、怒り狂ったブッシュ政権。当時と比較すると、バイデン米政権は表立って独仏に声を荒げることはない。メディアを介し「米欧の結束を乱す」と訴えるにとどまる。

今回の軽井沢G7共同声明には米国が力を失い、孤立しつつあることがにじみ出ている。声明はグローバルサウスと呼ばれる途上国・新興国との連携を重視し、「アフリカ、中央アジア、中南米の国々との協力関係を深める方針」を掲げた。中央アジアは米国の対中露戦略が影を落とすが、これは基本的に独仏の主導とみてよい。2023年2月のミュンヘン安保会議ではマクロン仏大統領が「我々がいかにグローバルサウスの信頼を失ったかに衝撃を受けている」と述べ、ベアボック外相は軽井沢で「G7の結束が他国との隔たりになるのを避ける必要がある」と指摘、「債務や飢餓問題への取り組みを通じ、新興・途上国の信頼を得ることが重要だ」と訴えている。

中国の仲介によるサウジとイランの関係正常化を端緒にシリア、イエメンの内戦が終結に向かい、中東で孤立するイスラエル。米国の影響力は著しく衰えている。そのイスラエルとパレスチナ自治政府との和平仲介にも中国の手が差し伸べられようとしている。この中国を脅威とみなすのは世界で米国主導のG7だけである。拡大されたG20は対ロシア制裁を機に機能不全に陥り、G7も親中の独仏を抱え込み同床異夢の状態。これはグローバルサウスの原点である1955年バンドン会議(アジア・アフリカ会議)で打ち出された平和十原則、とりわけ、他国の内政に干渉しない、大小全ての国の平等を承認する、集団的防衛を大国の特定の利益のために利用しないーをないがしろにする米ネオコンがいかにグローバルサウスと呼ばれるアジア、アフリカ、中南米の新興国や途上国から総スカンを食らっているかの証である。

米国から距離を置き、失った信頼を回復しようと努めるフランスとドイツはかつての第三世界・グローバルサウスの中核に位置する中国を尊重してきた。中国の台頭は戦後世界秩序の大変革である。「中国と関係を断つのは狂気の沙汰だ」とのマクロンの言葉は深く、重い。「日米同盟が基軸」とオーム返しし続ける,知性のひとかけらも感じられない日本の官僚、政治家、御用学者らは世界の動きにまったく対応できていない。既得権益を失いたくないからひらすら泥船にしがみついている。