現地は「露軍侵攻前にウクライナ軍がロシア領に一時侵攻」と報告 黙殺続ける報道ファッショ

<注:4月24日掲載記事を再度アップする。25日掲載記事「「戦争は2月16日に米NATO・ウクライナが始めた」 元国連PKO政策責任者の証言」と密接に関連する極めて重要な記事だからである。ウクライナ戦争の根底にある米国の政治潮流を論じた2022年4月16日掲載記事「『エリート指導の武力行使で世界を変える』 ネオコンの狂気と新左翼の革命論」を参照ねがいたい>

 

ロシアが軍事侵攻した2月24日から2カ月。日々時々刻々、すべてのメディアでウクライナ危機が伝えられている。報道の受け取り手にとってウクライナでの戦争は非常事態ではあるが、おいそれとニュース情報の収集や分析に時間は割けない。したがって、人々が日々接する有力メディアの報道内容は決定的に重要となる。国連憲章(2条4項)が「国際関係における武力による威嚇又は武力の行使の抑制」を定める中、ロシアの軍事侵攻は外形的にはこれに違反する。だから絶対悪とされた。以来、ロシアサイドに立った主張を問答無用とばかりに一蹴する米欧サイドのロシア糾弾報道が間断なく続き、その報道内容は視聴者、読者の脳裏に徹底的に刷り込まれた。ウクライナ現地からは「公式な戦争勃発の前からロシア軍に帰還させまいとする激しい戦闘が始まっていた」「ウクライナ軍はロシア領に一時侵攻した」との報告がある。大勢に抗おうとする報告はすぐさま巨大な同調圧力に踏み潰される報道ファッショが生まれている。

現地調査チーム:「戦争前から既に戦闘が始まっていた」

今年初めからウクライナで現地調査チームを編成していたという日本の民間グループは次のように報告している。

「戦争(2月24日のロシアの軍事侵攻)が始まる前までの段階では、プーチン率いるロシアを何とか戦争に引き込もうという、アメリカ、イギリス、およびウクライナ側のすさまじい挑発行為があった。例えばウクライナは、ロシアにとってはレッドラインとなるNATO加盟をずっと求めてきた。さらに開戦 5 日前の 2 月 19 日、ミュンヘン安全保障会議で、ゼレンスキー大統領はウクライナの核兵器不保持政策を『転換するかもしれない』とまで発言した。つまり、『NATOに加盟しウクライナをNATOが守ってくれるようにならないのなら核兵器を持つ』とゼレンスキーは明言したのである。これが今回のロシアによる軍事侵攻の引き金の一つとなった。」

「さらには、2014 年のいわゆるマイダン革命=写真=という、アメリカの支援を受けた暴力革命以降、ウクライナ国内でロシア系住民がネオナチ系の民族派の過激派によって、酷く虐待され殺害されてきたのが一切公にされていない。バイデン政権は昨年末から、口を開けば『ロシア、ロシア』と言ってきた。今回はロシア軍の侵攻という結果になった。このため、『ほれ見ろ、バイデンが言っていたことが正しかったじゃないか』みたいにされているけれども、これは結果的にアメリカ、イギリス側がロシアに一発目を撃たせることに成功したということにすぎない。もう何発も撃ち合っていたのだが、アメリカ、イギリス側はロシアに公式な一発目を撃たせることに成功した。」

「この戦争の規模は、バイデン政権が願っていたものよりはるかに抑制的に行われている。プーチンはこれを『戦争』と呼ばずに『特別軍事作戦』と言っている。彼らにとっては、あくまでネオナチ勢力の鎮圧とロシア系住民の保護ということなのだけれども、これは間違いない。そもそも今回の事態を引き起こした原因というのは軍事産業のための戦争を必要としていた、バイデン政権のロシアに対するすさまじい挑発行為と、そしてそのアメリカの意向を受けて、お金をもらえるなら何でもしたがる、腐敗したウクライナ側の態度にもある

「現地では、2 月 16 日にロシア軍が演習を終え、『撤収する』と言った後の動きの方が本当に激しかった。例えばロシア軍侵攻の 4 日前の 2月 20 日~21 日には、Line of contact(ライン・オブ・コンタクト)が500 キロぐらいあって、アリも入れないような警戒線を、ウクライナ軍の特殊工作チームみたいなものがうまく突破してドネツクに潜入した。そしてドネツク辺りの変電所やインフラ施設を破壊しようとしたが、ドネツク人民共和国側に察知されて包囲され、戦闘が続いた。ドネツク人民共和国側にも複数の死傷者が出て、ロシアの国境警備兵がウクライナから撃たれていた。ウクライナ側の特殊工作部隊やウクライナ軍の戦闘装甲車両がロシア領内に侵入した事案もあった。つまり戦争の前からすでに戦闘が始まっていたのである。」

「2 月 11 日には、ドンパス上空でウクライナ軍のものとみられるドローンが撃墜されていた。これも親ウクライナ政府系民兵やアゾフ連隊に対して武器弾薬を供給するために使用されていた。2 月 18 日~21 日までのウクライナ東部における(ミンスク2の停戦合意に基づく)停戦違反は2,000件以上あった。つまり、現場では 2 月 16 日のロシア軍が「演習を終えた」と発表し撤収を始めた後から激しい戦闘がたくさん始まっていた。現場の情報によれば、あたかもロシア軍に帰還させないために、わざと治安を乱して暴れていたとしか思えない。

■「もう一つの視点」

記者とはさまざまな錯綜した情報をできるだけ正確に判読、解析できる能力を磨いた者にのみ与えられる称号であるべきだ。上のような現地調査チームからもたらされたという情報は、正否の判断はさておき、決して無視できるものではない。日本を含む西側メディアの記者たちにも米英・NATOから発せられる情報の洪水に流され溺れてはならないと自戒する者は少なくないはずだ。4月半ば、かつて日本の三大紙の1つとされた新聞デジタル版に「ウクライナ、別の視点」と題したコラムが掲載された。

コラムは米国の責任を問うているフランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッドや中国研究者の遠藤誉(ほまれ)が日本のメディアで行った主張を紹介する。それによると、トッドは「メディアが冷静な議論を許さないフランスでは取材を断っている」としたうえで戦争の責任は米国とNATO(北大西洋条約機構)にある」と主張。バイデン政権のウクライナ政策を批判する元米空軍軍人でシカゴ大教授の政治学者、ジョン・ミアシャイマーのユーチューブ動画を紹介してこう指摘した。

「米欧は『ウクライナのNATO入りは絶対に許さない』というロシアの警告を(反撃せぬとタカをくくり)無視してきた」「米英はロシアの侵攻が始まる前から、ウクライナへ大量の高性能兵器と軍事顧問団を送り込み、『武装化』を促していた」

続いて、中国研究の論客、遠藤誉の最新刊「ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略」(PHP新書)の帯に書いてある次の文を紹介する

「ウクライナは本来、中立を目指していた。それを崩したのは09年当時のバイデン副大統領だ。『ウクライナがNATOに加盟すれば、アメリカは強くウクライナを支持する』と甘い罠(わな)をしかけ、一方では狂気のプーチンに『ウクライナが戦争になっても米軍は介入しない』と告げて、軍事攻撃に誘い込んだ」

続けて、「81歳の遠藤は、少女時代の第二次大戦直後、旧満州国の首都・新京(長春)=写真=で被弾して負傷、食糧封鎖に遭い、餓死者の上に野宿して生き延びた。ウクライナ戦争のニュース映像で記憶がよみがえり、震えが止まらず、通院。PTSD(心的外傷後ストレス障害)を克服するため、10日で最新刊を書いた」と解説する。

そしてこう記す。

「遠藤は反米主義者ではない。むしろ舌鋒(ぜっぽう)鋭い中国批判が身上だが、『第二次大戦以降の米国の戦争ビジネスを正視しない限り、人類は永遠に戦争から逃れることはできない」との信念から、米国批判に的を絞った文章をヤフーニュースに投稿した」。「時局柄『ひどいバッシングを受けるのでは』と身構えたが、280万を超えるアクセスがあり、大半は好意的で、『議論を受け入れる土壌ができつつあると感じた』と振り返る。」

■既に報道ファッショ

トッド、遠藤両人が主張している内容は本ブログがこの二カ月終始一貫して訴えてきたことと重なる。この記者は特別編集委員の肩書を持つ業界では名の知れたベテラン記者である。しかしながら、彼の属する新聞はロシアサイドの主張には必ず「一方的に述べた」「一方的な主張を行った」などと「一方的」との冠をかぶせる。彼らはロシアに関するすべてを拒絶すると決意したかのように糾弾を続けている。

そんな中、この記者は、特別編集委員の肩書を持っていても、自分の確固とした視点は持ち合わせず、「別の視点」とのタイトルを付けざるを得ない状況に追い込まれたようだ。だが「(米国批判の)議論を受け入れる土壌ができつつある」との遠藤の見解を自分と同紙はどう評価するのか。自分はウクライナ危機を正直どうみているのか。自分の立ち位置は示さず、「別の視点」の紹介に終わる。それは逃げそのものである。

結局、この記者は「東アジアの現実は日米同盟を軽視できるほど甘くない」と結び、大勢順応した。これは米英アングロサクソン主導の世界には逆らわないとの誓いに等しい。彼は最後に「米国の戦争ビジネスに巻き込まれてはならない」と言う一方で、日米同盟すなわち日米安保体制を軽視できないとして、それを強く支持する。日米安保支持は即ち米戦争ビジネス黙認である。その主張はまさに矛盾そのものだ。

結局、大勢を見極め、日米同盟を軽視できるほど甘くない現実」を口実に、日本という集落での村八分を恐れて腰を引く。かつての大本営発表を誇張して垂れ流した大日本帝国下の新聞の体質は何ら変わっていない。

同紙のロシア糾弾は日々エスカレートするばかり。記者たちはすべてと言ってもいいほど同調圧力に潰され巨大な流れに逆らわない。報道界ではファシズムが既に生まれている。