プーチン追放企て戦争仕掛けたのは米ネオコン ドゥテルテ体制転覆は中露の比支援で頓挫

態度を豹変させたバイデン米政権やNATO(北大西洋条約機構)加盟国政府のウクライナのゼレンスキー大統領に対する動きがこのところぴたりと止んでいる。米政権は在庫払底を口実に最新武器供給停止を告げてウクライナ政府にロシアとの停戦協議を促進させる方針と思われる。またポーランドにミサイルを撃ち込み、米NATOをロシアと直接交戦させようとしたとの疑念の拭えないネオコンの代理人ゼレンスキーを排除しなければ停戦交渉自体が成り立たない。

ゼレンスキーは米ネオコンのパペット(傀儡)であり、ウクライナ戦争とは煎じ詰めればネオコンとロシアとの戦いだ」。米欧日の既成メディアにとってこのように報道することは狂気の沙汰であり、彼らにとって「ウクライナの戦いはプーチンの狂気のなせる業」以外の何物でもない。そうであろうか。どうみても「ウクライナ戦争はネオコンの狂気のなせる業」である。

米ネオコンを代表する論客ロバート・ケーガンが2003年のイラク戦争開戦に併せて出版された著作「OF PARADISE AND POWER America and Europe in the New World Order 」に着目しよう。ケーガンは、イラク戦争に強く反対したドイツ、フランスを念頭に置き、「ヨーロッパは『ポストモダンの楽園』に向かっており、アメリカは力を行使する」と宣言した。

そして「ヨーロッパは、東西冷戦終結で、軍事力への関心を失い、力の世界を超えて、法と規範、国際交渉と国際協力という独自の世界へと移行している。歴史の終わりの後に訪れる平和と繁栄の楽園、一八世紀の哲学者、イマヌエル・カントが『永遠平和のために』で描いた理想の実現に向かっている。これに対し、アメリカは、歴史が終わらない世界で苦闘しており、一七世紀の哲学者、トマス・ホッブズが『リバイアサン』で論じた万人に対する万人の戦いの世界、国際法や国際規則があてにならず、安全を保障し、自由な秩序を守り拡大するにはいまだに軍事力の維持と行使が不可欠な世界で、力を行使している。」と書いている。

ネオコンにとって東西冷戦の終結は『永遠平和の始まり』ではない。世界はいまだ力と力がぶつかり合う絶え間ない戦いの只中にある。それ故、唯一の覇権国となった超大国アメリカは既存の国際ルールに拘束されない。第二次大戦の戦勝国が組織した国連の唱える集団的安全保障体制は機能しておらず、米国が定めたルールに基づく新たな世界秩序を構築するため力を行使して行くのだ。

2014年に親露派ヤヌコビッチ政権を打倒したクーデター=写真=を現地で指揮したのがケーガンの妻で当時のヌーランド米国務次官補だ。ホワイトハウスから当時の副大統領だったバイデン現大統領の采配を受けていた。ドイツ、フランスが米主導のクーデターに立ちふさがったため「EUなんてクソくらえ」と捨て台詞を吐いたことが盗聴された電話に記録されている。

ネオコンは、中東では2003年のイラクを嚆矢にリビア、イエメン、シリアなどでロシアと親しい反米国家や社会主義に近寄る政権を転覆するため反政府武装組織に代理戦争を行わせた。チュニジア、リビア、エジプト、シリアのそれは「アラブの春」と粉飾された。これは米国主導でイスラエルを中核に中東の勢力図の抜本的再編を図り、独自共通通貨を持とうとしたリビア主導のアフリカ連合(AU)の台頭を阻止するものだった。

イラクだけで民間人50~60万が巻き添えになった。アラブの春、そしてキリギス、アゼルバイジャン、ジョージアなど旧ソ連圏でのカラー革命の中核にあるのがウクライナである。米ネオコン主導の一連の戦禍で100万単位の非戦闘員が犠牲になっている。

「自由と民主主義、人権、法の支配」という普遍的価値の共有。これが米G7の表看板である。彼らの欺瞞はここに極まっている。

ソ連邦崩壊の翌年作成された1992年米国防指針(ウオルフォビッツドクトリン)では、米単独覇権のためには第二次大戦戦勝国の連合組織(国連:the United Nations)憲章をはじめとする国際法を無視し、米国に敵対する勢力はことごとく潰すと宣言している。彼ら米ネオコンこそケーガンに象徴される「現代世界の悪魔」である。ウクライナで出現したネオコンの狂気の行き着く先をプーチン・ロシアは懸念し、追い詰められた

この現代世界を覆う狂気に眼を覆う西側メディア。彼らもまたあまりに狡猾である。

補論:ネオコン、フィリピンで体制転換企てるも挫折

一方、フィリピンのドゥテルテ前政権(2016-2022)は対テロ軍事演習実施を名目に中国封じの要衝としてのフィリピン再駐留を果たそうとするワシントンに徹底的に抗った。当然のことながら、米破壊工作機関による転覆の対象となった。同政権発足後、フィリピン国軍や公安当局は早い時期から、中東諸国を含む国外のジハーディスト、イスラムテロリストらのマレーシア・ボルネオ領やインドネシアのカリマンタン島、スラゥエシ島などからフィリピン南方海域=写真=を経由してのミンダナオ地方への潜入が加速、拡大しているのを確認していた。

ドゥテルテ大統領が軍事協力で合意した中国に国外テロリストの「侵入口」となっているミンダナオ島南方のスールー海域での合同軍事訓練を呼びかけたのはこのためである。2018年末フィリピンを訪問した習近平主席は「防衛」と並んで「テロ対策」を主要協力事項として盛り込み、ドゥテルテ政権を破壊工作から守ると宣誓した。ドゥテルテ政権は対米関係を根底から見直し、中露に接近した。北京訪問は繰り返したが、6年間の任期中ワシントン訪問を拒絶した。かつてないことだった。

プーチン大統領を尊敬すると公言して憚らなかったドゥテルテ大統領は二〇一七年にフィリピン大統領として初めてロシアを公式訪問した。旧宗主国にしてフィリピンを最も従順な属国として扱ってきた米国がこれを許すわけがなかった。同年五月二三日。火の手はドゥテルテのモスクワ到着とともに上がった。過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓うイスラム武装勢力はフィリピン南部ミンダナオ地方でフィリピン国軍と戦闘をエスカレートさせた。

同大統領は公式訪問先のロシアでIS掃討を理由にミンダナオ地方全域に戒厳令を布告。フィリピン政府は第二次大戦以降最大規模となり三千人近い死傷者を出した戦闘の終結を宣言するまで五か月を要した。市街戦の中心となったミンダナオ島南ラナオ州マラウイ市は廃墟と化した。=写真

ドゥテルテ政権転覆の試みが挫折したのは中国軍の支援があったからだ。典型的な米ネオコン主導の体制転覆の企てを阻止できたのは、代理軍事活動する国際テロリスト集団の「侵入口」となっていたミンダナオ島南方のスールー海域を封鎖して、中国からの衛星情報でIS戦闘員らの動きを監視できたためと言われる。また中国、ロシアは兵器をフィリピン軍に相当量供与した。

現大統領のボンボン・マルコスJrはドゥテルテ路線の継承を約束して大統領に当選した。フィリピン民衆は父フェルナンド・マルコスの戒厳令と20年に及ぶ独裁、圧政、国富簒奪を忘れてはいない。ドゥテルテの娘で前ダバオ市長サラを副大統領候補とすることを条件にマルコス王朝は復活した。

圧倒的支持を得て副大統領に就任したサラと反マルコス派はことあれば「大統領出馬資格失効」を理由にマルコスを追放、一家を米国亡命させた1986年ピープルパワー革命の再現を狙っている。マルコスJrは今年6月に大統領に就任したが、父の独裁や腐敗を強く否定し、再び親米路線へと大きく旋回している。いつ反マルコスの火の手が上がるかが注目される。マルコスが追放されればサラ・ドゥテルテが大統領に昇格する。